夢は…大切…?

愛は…大事…?

じゃあ、1番は…何…?

 

―――1番…欲しいモノは…なんですか?

―――あい?

―――ゆめ?

 

 

 

COLLECTED SHORT STORIES :  HANATABA‐1

Eryngium

 

 

 

 

 

西暦2015年、使徒と呼称される巨大生物が第三新東京を襲撃。国連機関ネルフがこれを殲滅した。 その上位組織ゼーレがサードインパクトを目論むも、ゼーレ首脳部が消失。それによりゼーレは壊滅した。

〜産文社発行 小学校教育用歴史教科書より抜粋〜

 

 

 

―――――2020年

 

朝日が眩しい…。 日の光がカーテンから差し込み、朝を告げる。

小鳥がさえずり、柔らかな風が吹き、窓をかたかたと鳴らす。

今日もやってくる朝の光景。

そして、いつもどうり、僕の隣で寝息をたてる彼女……。

でも……

……別に…彼女は恋人でも…何でも…ない………

…ただ……馴れ合っている……ただ…それだけだ………

…ただ……傷を舐め合っている……それだけだ……

…………あの日……あの時…から………

 

 

 

 

―――――2018年

 

「ダメなんや…。 ここにおると…あん時のことを思い出して…お前を友達だと思えんくなるんや……。 これ以上ここにおったら…お前をまた殴ってしまいそうになるんや……だから……さよならや…シンジ……。」

今日、トウジがアメリカに行った。

もうこの町にいるのは辛いらしい……。

殴る? ……なら、殴って欲しかった……。

責めてもらった方が…気がらくだから…。

―――見送りには…行かなかった…。

 

……太陽が照っている…暑くなった…。

 

 

照りつける太陽。 そこから放出される光、夏の日差しが降り注ぐ。

それは学校の中でも変わる事は無く、生徒を苦しめる。

シンジもそんな暑さに唸っていた。

「暑いな〜。 ホント暑いな〜。」

と愚痴りながら机に伏していると突然、教師から声が掛かる。

当然である。 今は授業中なのだから。

「冬月君! 123ページ、問4の答えは?!」

「(げ!! やばっ! 全然、聞いてなかった。)ええっと〜(やばい、やばい……ン!!)−23です。」

どうやら、隣に座る少女に救われたようだ。

「(ごめん。ありがとう。)」とジェスチャーをしている。

 

―――冬月。

確かに教師はシンジをそう呼んだ。

何故か? それは至極簡単な話しだ。 血縁がだれも居なくなった。 だから、養子にしてもらった。

ただそれだけである。

あの戦いで生き残った者は少ない。多くの者がゼーレの手により死んでいった。

碇ゲンドウ、赤木リツコ、葛城ミサト、加持リョウジ、等のシンジに関係の深い者達も例外ではなかった。

そして、綾波レイはその力の解放により全てを無へと還し、消えていった。

だが、それでも生き残った者もいた。

それが、シンジであり、冬月コウゾウであり、伊吹マヤ、日向マコト、等であった。

 惣流アスカも傷を負いながらも、かろうじて生き残った……。

 

 

「……シンジ君……ダメだった………アスカは……アスカは、死んだわ……」

マヤがこう言葉を紡いだ時、生き残ったと言うことは出来なかった。

アスカが最終決戦の際に受けた多大なダメージは消えることは無く、アスカはその短い生涯を閉じた…。

シンジは泣いた。誰も、誰もいなくなった。馴れ合いの家族ごっこでもよかった……。

独りも、孤独ももう嫌だった…。

しかし、それももう無くした。本当の独り……。それは、シンジを少しずつ、少しずつ蝕んでいった。

暖かさが欲しかった。誰かに居て欲しかった…。

だから………

 

「『誰でもよかったんだ。 ただ、誰かが傍に居てくれれば、それだけで良かったんだ。』か……。」

シンジの隣に座る少女がシンジを見据えながら呟いた。

ストレートの黒髪に円らな瞳、そばかすの消えた白い肌。

『洞木ヒカリ』それがシンジの傍に居た『誰か』だった……。

 

中学時代に好きだった人は居なくなった。 傍にいなければ、忘れることなど簡単であった。

中学生とはそんなものであろう。

 

『誰でもよかった』それはヒカリも同じであった。

少しすれば忘れようとも、その一瞬は確かに彼を、鈴原トウジを愛していた。

だからこそ、何もかもが嫌になった、全てがどうでもよくなった。

だからこそ、誰かの温もりが欲しかった。

ただ、暖かさが欲しかった。

 

気がつけば、体を重ねていた。

快楽と劣情だけに溺れていれば、何も考えずにすむから……。

辛さも…寂しさも…哀しさも……全て忘れられるから……。

『好き』など存在しない。

『愛』など存在しない。

ただ、そこには居心地の良い暖かさだけが在った。

ただ、そこには『誰か』がいた…。

 

 

 

 

―――――2020年

 

僕達は……あのころのまま……変わらない……。

 

 

……太陽が照っている……暑くなった…また…あの季節が来た……。

 

―――風が……吹いた…。

 

 

朝食はテーブルに置いてあります。

                 ヒカリ

と書置きが残されている…。

どうやらヒカリは、ベットを抜け、既に大学に行ってしまったようだ。

「そろそろ、僕も行かなくちゃ……。」

シンジはのそりとベットから起き上がり、冷たいシャワーで寝汗を流すと、さっと服を着た。

そのままドアへと近づく。

「アッ!」

が、何に気付いたのかハッとすると再び部屋へと入る。

その後、タンスに立ててあるギターを肩に背負うと、車のキーを持って家を出た。

ブゥゥゥン!!

エンジン音がこだました……。

テーブルの上に置かれた朝食は……もう冷めていた……。

 

 

音が響き、そして、弾ける。スタジオ・クロス、それがここの名である。

シンジは、何か夢中になれる物が欲しかった。ただ、寂しさを拭うために…。

始めはチェロだった。そこからじょじょに音楽全域に広がっていった。

ふと、はやりのギターを友人の薦めでやってみると、その音が心地よかった。

チェロや他の弦楽器とは違う、シンジを熱くさせる何かが其処にあった。

弾いている間だけは、何も感じず、何も思わず、夢中になれた。全てを忘れ、ただ心地よさだけを感じられた。

「シンジ君、どうしたんだい?今日は随分、早いじゃないか。」

銀髪の男――渚カヲルがシンジにそう話し掛ける。

「ああ。 今日は大学、途中で抜けてきたから。」

シンジはそう答えると、ギターを掻き鳴らし始めた。

カヲルは紆余曲折があり、結局生きている。

シンジはカヲルと組んでいる。シンジが弾き、カヲルが唄う。

カヲルの透明な美声と、どこか懐かしさを感じるシンジのギターが妙に合い、

いつのまにか、いつも2人で演奏るようになっていた。

 

ギターを掻き鳴らすシンジの脳裏は、音だけで埋まっていた。そこに他の考えが入る余地など在りはしなかった。

シンジにとって、ただ心地よさだけに身を任せるのは至上の喜びだった。

ギターだけが寂しさを、今も昔も変わらず拭ってくれた。だからこそギターで暮らしたかった。ギターだけをしていたかった。

そうすれば…悪夢を見なくて済んだから…。

もちろん、それだけの自信もあった。

それもそのはず、2人――『echo』のライブは多くの人を集め、そろそろデビューも目され、2人もそれを睨んでいる。

プロ。 それを2人は目指す…。

 

 

……今日も、音の心地よさに身をゆだね、深く深くシンジは沈んでいった。

 

 

その夜シンジは自宅に帰り、いつものように、カヲル、ヒカリと酒を交わし

カヲルが帰ると、いつものように、ヒカリを抱き続けた。

 

あの日、あの時と同じように……。

ずっと……変わらず……抱き続けた……。

ずっと進まず、戻らずに……。

 

 

―――ヒカリは思う……。これでいいのかと……。

―――シンジは思う……。これでいいのかと……。

 

―――その思いすら…………あの日……あの時から…ずっと……。

 

 

 

 

―――翌日。

シンジはいつもの様に寝息を立てている…。

今日も私は、シンジより早く起き、シンジのために朝ごはんを作る…。

そして、足早に大学に行く。

いつもと変わらない1日の始まり…。

今日は日差しがきつい……少し…暑くなりそうだ…。

 

―――外に出てリニアに乗ると、ヒカリは俯く。

 

………何も……何も、言わなかった……。

シンジは…知らないのだろうか…?

私が……カヲルに……

 

プロポーズされたことを………。

 

―――ヒカリが己の思考にハッとする…。

 

そう……私……シンジを………ダメかな……もう……今のままは……。

 

―――何も言わないことに不安を感じる。

馴れ合いだけが…傷の舐め合いだけが…そこに在った筈だった……。

それでも今、ハッキリとヒカリは……シンジに……『止めろ』と言って欲しかった……。

ヒカリは…シンジを…いつからか……

 

 

―――流れていく行く風景を観ながら……ヒカリは……なみだした……。

 

愛が無かった……だからこそ……今が有り、今でよかった。

愛せば……それは……

 

―――リニアはただ、走っていった……。

 

 

 

―――その夜。

「オイ!シンジ、カヲル!ちょと来い!」

突然の大声にシンジとカヲルは反応し声の主、スタジオ・クロスのオーナー、屋久の元へと駆け寄った。

「一体、何ですか、屋久さん?そんなに大声出して……。」

とシンジが尋ねる。

「これだよ、これ!」

屋久が1通の手紙を指差しながら答える。

「ふむ。 『冬月シンジ、渚カヲル、両名の第5回jumbleスーパーオーディション合格を通知いたします。

なお、最終選考のため、8月3日、我が社にお越しください。』か。なるほど、この前のオーディションに合格した訳かい…。」

カヲルが手紙を読み上げ満足気に言う。

「やったなお前ら! プロデビューも目前だな!」

「まだまだですよ。 確か、合格者3組から選考して契約をする筈ですし……。」

冷静にシンジが答える。

 

だが、屋久が騒ぐのにも訳が在った。業界最大手の『jumble』が主催するこのオーディションは

若手の登竜門とも言われ、最も倍率が高く、最も権威のあるオーディションだと言われるからである。

このオーディションで最終選考に残る、ということは力の在る証明となる。

 

最終選考に向け、ますますシンジのギターは熱を帯びていった……。

―――より軽やかに、より正確に、より美しく……。

 

 

 

夕闇の涼しい風の中、ヒカリは感じていた……『今』の終りを……。

求めてはいけない関係だった…。求めては壊れてしまう関係だった…。

だから、求めようとはしなかった…。求めても何も還ってこない関係は……哀しすぎるから……。

傍に居られればそれでいい……そう思うには……ヒカリは成長しすぎた……。

求めて何も還らないのならば…………いっそ消して……

……それが……答えだった……。

 

誰にも…何も告げずに…ヒカリは…姉の居る場への……リニアのチケットを買った……。

―――8月3日、17:30

確かに、チケットにはそう記されていた……。

 

―――夜風がヒカリの頬を撫で上げた…。

 

 

 

 ―――翌日。

コツ コツ コツ

軽い足音が昼の公園に響く。

足音の主はそのまま湖の傍のベンチに近づく。

そのベンチにはヒカリが座っており、足音の主――カヲルがヒカリの隣に腰掛けた。

「…この前の…答えを聞かせてくれないかい……?」

ヒカリは暫くの間、押し黙り…

「…………私は……うんん……ごめんなさい……私は……カヲルとは……」

こう言葉を紡ぐ。それを聞いたカヲルは数秒間、宙を見据えこう問う。

「…シンジ君………かい……?」

ヒカリは一瞬ハッとし、その後ゆっくりと……首を縦に振った……。

「…………そうかい………。」

風がザッと一陣吹いた。

ベンチにはカヲルが独り……佇んでいた……。

 

 

ヒカリは走った…。

そして…一筋…なみだを垂らした。

 

 

 

 

―――8月2日、スタジオ・クロス。

 

バキッ!!     

 

クロスに入るやいなや、明日に向け熱のこもった演奏を行うシンジの頬を、カヲルの拳が叩いた…。

「とりいあえず……これで…チャラだよ……。」

「どういう……ことだい……?」

シンジが殴られたことに不満そうに反論する……。

「君は……気付いていないのかい…?……それとも……気付きたくないだけなのかい……?」

カヲルの問いに…シンジは…ただ押し黙る……。

カヲルはシンジを真っ直ぐに見据え…更に付け加える……

「………何故……何故……僕じゃ………君は……君は………。」

クッとカヲルはシンジの服の襟から手を離した……。

シンジは顔を下へと向け…呟いた。

「……ダメだよ……ダメなんだ………僕じゃ……幸せには……………」

シンジの呟きは……カヲルに届いたのだろうか……?

 

 

 

 

―――その夜。

シンジは独り……暗い部屋の中、ギターを弾いていた……。

何かを……想いながら……ただ、静かに弾きつづけた……。

 

 

 

 

―――8月3日、朝。

2人の男が朝靄の中、立っていた……。

シンジとカヲルである…。

「……今日は何を演奏るんだい……?」

「………『時雨』…でいいかい……?」

いつも通りの2人……。

何でもないように…二人で…ギターを掻き鳴らし…唄った……。

いつも…通りに……。

 

 

―――昼。

2人は、そのままカヲルの車で『jumble』へと向かっていた。

助手席に座るシンジは流れていく風景を目で追っている。

 

ふと、カヲルがシンジを見ると……シンジは……

 

静かに…泣いていた……。

 

「シンジ君……君は……」

 

 カヲルは一瞬、下を向く。

 

キッ!!

―――ブレーキ音が響いた…。

 

 

 

―――駅。

ヒカリは独り、ベンチに座していた。

あと数分でリニアが到着する…。

 

 

「ヒカリ!!!」

 

 

待ち望んでいた声が……耳に響いた……。

 

 

 

ブレーキ音が響いた。

カヲルが急に車を止めたのだ。

「………『jumble』には……『echo』は……一人になった……そう…伝えておくよ……。」

シンジはカヲルを見据え……微笑んだ……。

カヲルも…微笑んだ……。

それで……全ては……伝わった……確かに2人は…そう感じた…。

 

 

 

「……ヒカリ………僕は……僕は………」

ヒカリは何も答えず……ただ……体をシンジの胸へと…預けた…。

「ねえ…? オーディションは…いいの…?」

と尋ねる…。

「…………僕は卑怯なんだ…。だから……どっちかなんて選べない……だから……だから……今日がダメでも……次に………それでも……君に……君に……居て欲しかった……その気持ちは……本当だから………。 だから……君を……僕は……多分………愛……してる……。」

 

―――想いは……繋がる……。

 

 

 

 

―――カヲルは最終選考にて合格。プロデビューをはたす。

―――1ヶ月後、シンジも別のオーディションにてプロデビューをはたす。

 

 

 

―― Fin

 


<!!あとがき!!>

 シンジ×ヒカリのラヴラヴ(死語)を書きたかった筈なのになんでこうなるんでしょうか?(汗)

 

ちなみに、花束2は構想(妄想)決定。3でどんなの見たいか感想に添えてくれると、頭を働かせなくてすむので助かります。

では、此れにて。