嘘じゃないよ

君を愛してる

本当なんだ

君を愛してる



君を…愛してる……

 

 

 

 

 

COLLECTED SHORT STORIES : HANATABA‐2


スターチス


 

 

 

 

スターチスの咲く季節

スターチスの花弁が、風で舞っている

ただ綺麗な花びらは横に揺れて、薫りを放つ

 

いつかと同じ光景

満開のスターチス

君の夏の太陽のような満開の笑顔

二度と来ない時

君の笑顔は、もう僕達の心の中だけに

君が生まれて君が死に、僕は生まれて僕は君と出会った

永遠の夏に囲まれて僕は君に酔いしれ、君は僕をいつも気にしていた

 


終わらない(いさか)いの真ん中で君は心を痛め、僕は何処かがおかしかった

失う痛さも、手に入れる喜びも本当は何一つ分かっちゃいなかったあの頃…

君は君で僕は僕だった近い過去

(いさか)いが過ぎ去って、僕と君とあの子が英雄になった

それでも

僕は僕だった、君は君だった…

 

 

蒼い髪のあの子が遠くへ行って、僕はあの子を求めた

蒼い髪も紅い瞳も何処かへ消えうせて、残ったのは君と僕…

僕は彼女を探し、君は僕を掴んでいた

見つかったあの子は誰か知らない人が隣にいて、逃げてきた僕はずっと涙を流した

過ぎた淡い想いは過去のものになって

僕は18歳になっていた…

 

 

 

遠い記憶は花と一緒に散っていく…

 

 

 

18歳の夏、僕には恋人が出来た

短い黒髪とクリっとした大きな瞳、僕は彼女に告げ、彼女は僕に答えた

彼女の唇、彼女の髪に、彼女の瞳に、彼女の肌……

総ては僕を満たして、僕は彼女を抱いた

初めて体を重ねて、僕はそれが気持ちいい事だと知った

彼女と一緒にいる僕に、君はよく分からない眼差しを向けていた

 

 

 

19歳の春、僕と彼女の指にはリングが()められていた

愛を誓った僕たちは毎晩のように(まぐ)わり、毎日愛を囁きあった

 

 

君は国に帰り、研究所で働き始めた

 

 

彼女は子供を欲しがった

僕は子供なんて欲しくなかった

僕の父親のように繰り返してしまう怖さを僕は拭えなかった

 

それでも子供は生まれ、怖くなった僕は昔と同じように

逃げ出した

結局、あの頃と変わっていない自分が可笑しくて笑ってしまった

 

 

 

街をふら付く僕は蒼い髪のあの子に再会した

彼女は独りだった

僕も独りだった

 

昔、あの子の隣にいた人はもう居ない

帰る場所なんか在りはしない僕は彼女の家に住み込んだ

独りきりだった僕らは体を重ねた

彼女は僕を愛していた…

僕は彼女が好きだった…

 

 

彼女に愛を貰っていても僕は何も返さなかった

ただ失う事が怖くて

ただ独りが怖くて

僕は彼女を愛していなかった

でも僕は彼女を好きだった、彼女は僕を愛していた

 

 

 

僕は愛すことに疲れ

愛すことを忘れていった

ただ彼女の傍に居るだけの日々は徐々に苦痛へと変わり、そして僕は…


また逃げ出した

 

 

 

変わっていない僕自身が怖くて情けなくて…寂しくて…

 

僕は空虚な時を刻み続けていった

ただ生きるだけの日々

生きる理由も分からない日々…

 

 

 

君は何時の間にか僕を探していた

 

 

 

逃げる僕

追う君

 

何故だか僕は笑顔だった

久しぶりの笑顔

そして

久しぶりの涙…

君が気付かせてくれたこと…

 

 

 

柔らかい風

朝日の光

青葉のざわめき

深い恵みの土

青く煌く海

花の淡い薫り

地を這う虫

道端に咲く雑草

 

君の笑顔…

 


生きている…!

生きている……!!

皆…生きている……!!

 

 

僕も…生きている…

君も…生きている…

 

 

その夜

初めて

僕は…君を…

抱いた……

 

 

 

君は覚えているかい…?

僕を…君を…

覚えているかい?

 

 

 

君は死んだ

あっけなく…

突然に…

 

 

最後に君と庭に咲くスターチスを見た…

そのスターチスは…

 

桃色だった……

 

 

嘘じゃない

僕は君を愛してた…

 

 

 

「人」は泣きながら生まれてくる

「人」は必ず死ぬ

泣きながら生まれてくる「人」は

死ぬために生まれてくる「人」は

始まりの涙で死すべき定めを悲しむのか…

始まりの涙で生に対し歓喜するのか…

 

 

 

 

僕は君を忘れない…

永遠(とわ)に……

 

 

 

NEVER END