1、



「碇君、よかったな」
「え?」
「栄転だ。新東京の本社に」
「え…え?」
「だから、転勤だと言っとるんだ」

転勤?僕が?
しかも、しかも僕的・世界で一番大嫌いな都市1の新東京に?





――1週間後。

送別会やら引継ぎやらを済ますと、実感が湧いた。
僕は本社勤務になるんだ。
しかも、入社してたった2年で。

元々使い勝手の良くなかった全支社共通のシステム。
僕らのグループでは仕事を円滑に行なうために、それを弄ったわけだけど、どうやらそれが上の目に留まったらしい。
何も僕が一人でやったわけじゃないけど、一応責任者は僕だ。
釈然としない部分も在るが、これは、素直に喜んで良いに違いない。

本社……。
世間では業界最大手と言われる、うちの会社の、本社……。
そう、これは絶対に喜んでいい事の筈なんだ」
「じゃあ、喜べ愚者め」
「そうなんだよねぇ…って、え?」

思考読まれた。
僕は、恐る恐る後ろを振り向く。
そこには案の定、見知った顔がアホかってな目で僕を睨んでいる。

「…君って職業:プロエスパァだっけ?」
「ていうか、声に出てたっつーの」

そう言って彼女は僕を指さした。

「そもそも、ここを何処だと思ってるわけ?」
「っえ?」

言われて気がつく。
ここは駅のど真ん中のベンチ。

「待ち合わせ、改札よね?」
「多分」
「己で言っておいて、多分?」
「えっと…その……ゴメンなさい…」
「った〜く、頼むわよ?ほれ、行くわよ!」

僕は彼女に促されて、バックを持って立ち上がった。



「た、隊長!わたくしは減速を提案します!」
「うっさいわね〜舌かむわよ?」
「で…でも流石に公道で150キロは…って、グァー!」
「これ以上言うなら、ドア開けて投げ飛ばすわよ?」
「笑顔で言うのやめようよ」
「そう?」

今、僕の隣で車のハンドルを握っている危険人物。
お名前は惣流さん。彼女がこちらでの唯一の知り合いだ。
幼馴染とか、恋人とか、昔の女とか…そんなオイシイ展開はない。

ただ単に、同期入社で新人研修のグループが一緒だっただけだ。
その時に、それなりに会話が弾んだ事もあって、一応友人として付き合っている。
最も、彼女は優秀で僕よりずっと前に本社勤務になっている。
こっち、つまり新東京の知り合いなんて、彼女くらいしか思いつかなかったわけだ。
そんなもんで、僕はこうして彼女に駅まで迎えに来てもらったわけだ。

徒歩によるカロリー消費の方が賢かった気がするけど。

――時速は180キロを越えていた。



「で、アンタは部署どうなんの?」
「あ、何か社内運営維持部門に」
「社内運営維持部門?」
「聞いといてその反応?」
「アンタがあまりにも暇そうで独りジャンケンでも始めそうだったじゃない」
「だから、話し掛けたと?」
「ところで、アンタ…」
「っえ?深刻そうな顔して……何?」
「そんな部門、うちに無いわよ?」

サングラスをクィと上げ、薄笑いを浮かべて……彼女はそうのたまった。
無い…ってさ。

「じゃあ僕はどこに…?」
「私が知る訳無いじゃない」



――僕、どうなるんだろう、誰か教えてよ。

 

 

2、



僕は新東京が大嫌いだ。
キライレベル的にはファミコンの2コンのマイクだ。


あれ、大したレベルじゃないな?


嫌いな理由を聞かれると、少し返答に困る。
だが、あえて言おう――クズである、と!」
「知ってるわよ?」
「…僕、また声に出してた?」
「ええ、そりゃあ、もう恥しいくらい大音量で」
「どうりで公衆の視線が僕に集まってるわけだ」
「ここ、どこか分かってる?」
「喫茶店」
「じゃあ分かるわよね?」
「分かるから、その右拳に込めた想いは留めるべきだ」
「しっかし、アンタも訳わかんないわよね〜、そんな理由で本社勤務に尻込みなんて」
「だって、都会なんて空気は悪いし、海は汚いし、緑は無いし、信号多いし、物価高いし、騒音ひどいし、 なんか侘しいし、街を行き交う人々はぶつかっても謝らないし、店では値切れないし、ゴミゴミしてるし、 人情のにの字もないし、ガス代高いし、水道高いし、高い割に水は不味いし、八百屋はないし、魚屋もないし、 僕の大好きなエリンギも40円以上高いし、借りた部屋は狭いし、ラーメンは一杯なんと900円だし、 マグロなんか回ってる寿司屋でも400円だし、交通網は複雑すぎて逆に不便だ…アベシッ!」
「アホか!」
「アホとは何だよ、アホとは!」
「アンタ、脳味噌に蛆とか飼ってる?もしかして?」
「極限に失礼だね」
「アンタに言われたか無いわね」
「どういう意味か2文字以内で述べよ」

あ、わなわな震えてる。
あら、今度はプルプル震えてる。

「あ、回答時間は10秒ね」

――スパコーン。

うん、いい音。世界狙えるよ。




「で、話し戻すわよ」
「オッケー。何故僕が都会嫌いかと言うと…フギャ!」
「そこじゃないわよ!もっと前!」
「ああ、タラバガニはカニじゃなくてヤドカリの仲間だって話?」
「一体、いつそんな心底如何でもよさ気な話をしたのよ?」
「分かった!本社勤務には馴染んだかっていう話だよね?」
「それよ、それ」
「う〜ん、微妙に慣れた。ただ…」
「ただ?」
「周りの人が一寸…」
「ハッキリしないわね…一寸、何よ?」
「実に苦手なタイプなんだ。所謂、熱血体育会系みたいな」
「へぇ」
「鈴原さんて言うんだけど…この前、『気合や、気合なんや!』って言いながらトイレで踏ん張ってたんだ」
「………体育会系?」
「あと、同じ班の人で山岸さん、て人が存在してるんだけど…」
「だけど?」
「おかしいんだ」
「ハァ?」
「いきなり僕の背後に立って、『ミルキーはママの味…フフフ』って囁いたと思ったら、 次に日に『じゃあパパの味は在るのかしら…フフフ』って、その次の日には『妹の味は少し変態チックよね…フフフ』って…」
「………そこは笑うところ?」
「………多分」
「やっぱ、アンタの部署って病んでるわ」

そう、僕が配属される筈だった『社内運営維持部門』は消えていた。
僕が今、いる部署は『社内サイクルくるくる部門』。


ネーミングセンスはゼロだと思う。



――僕、不幸?

 

 

3、



僕の鋭い洞察力が告げる。
恐らく、部長はこの部署名を聞いて僕が『転勤しない』と言い出す事を恐れたに違いない。
事実、事前に聞いていたら僕は転勤を止めるどころか、再就職だ。


強引な後付とかではない。決してない。


こんな狂った名前の部署に居るのは変人ばかりで、僕も日々、困っている。

「まぁ、それなりにピッタリだと思うけど?」

心外な。

「だって、アンタ、初対面の私に何て言ったと思う?」
「っえ?何て言ったっけ?」
「『イクラとキリン、どっちが好き?』よね」
「『シーチキンとゴリラ、どっちがラヴ?』の間違…ギャヒィ!」

右フックが僕のテンプルを捉えた。

「覚えてるんじゃないの」
「で?」
「何がよ?」
「それの何が問題なのかなって」
「………初対面どころか顔見知りでもしないような質問をしたアンタはあの部署にピッタリって話しよ!」

一息で言ったせいで彼女はハァハァ言ってる。

「その件は否定しない、ただ僕はトビッコが一番ラヴだ」

グッ!(親指立て)

――スパコーン!

今日も快音。



僕は惣流さんと別れると、自宅へと回帰した。
ワンルーム、バストイレキッチン付きで本社からは徒歩10分。
なかなか住まいとしては快適だ。

ただ、海沿いと言うのが非常に気に入らない。
自然溢るる、ビューティフル・オーシャンなら満足だが、新東京だよ?
汚さ5割増で、匂いが目に染みる海なんて、嬉しくも何とも無いっての。

「まぁ何だかんだ言いつつ、こうして海辺に来てしまったわけだけど」

思ったほど汚くもないし、匂いは普通だ。
茜色に染まった水平線が、結構美しい。
でも、カモメは飛んでないな。
おまけに、埋立地も広がってる。
手前の方には、テトラポッドの影が伸びてる……。

周りをチラチラ確認しながら、浜辺に降りた。
少し湿っぽい砂浜に、腰を下ろす。
波が眼前で何度も何度も、行き来する。

「汚くてもやっぱり海はいいもんだな……」
「海、好きなの?」
「うん、好きだよ…って、え?」

毎度お馴染みのパターンに、後ろを振り向く。
そこには、明らかに不自然な色――蒼い髪を揺らす少女が立っていた。

「君は?」
「あなたは?」
「しがない会社員だけど?」
「そう…会社の犬なのね」


俗に言う毒舌。僕、大ダメージ。



――僕、周りは変な女ばっか?

 

 

4、



この娘は多分、アレだ。
施設から抜け出してきちゃったタスケテーパターンだ。
厄介事は御免こうむりたい所なんだけど」
「厄介なのはアナタの頭」
「へ?」
「思ったことを直ぐに口に出すのは短絡的、かつ短慮な証拠。つまり、アナタは足りていないのね?」
「足りてないって…何が?」
「頭、身長、年収」
「君って自殺志願者か何かかな?それなら爽やかに鳩尾狙うんだけど?」

僕は軽い殺意を覚える。
確かに三流大出だし、全国男子平均身長には届いてないし、年収だって少ないけど…。
人間ってのは正解を言われるとカチンとくるナマモノなんだよ?

「アナタ、名前は?」

いきなり真っ当な質問をされても困る。

「碇、碇シンジだけど…」

でも、答える辺りで僕の人間性の良さが、チラリズム的に見え隠れ。

「聞かないの?」
「あん?」
「聞かれたら聞き返すのが、世の慣わしだと思うわ」
「じゃあ…君は?」

「教えない」

――ベチ。

「痛い」

そりゃあ僕も小学校時代は第三のデコピン王と呼ばれた男だ。
痛いだろうさ。何せしなりが違う。
でも、それが僕の心の痛みなんだよ?

「それよりも」
「何?」
「其処は私の場所なの、どいてくれる?」
「君の場所?」
「ええ、私の場所」

飛行機にもリニアにも、ましてや今の時代、映画館にも予約席はある。
でも砂浜というのは初耳だ。
トトサマ、カカサマ……都会は進んでいるよ。

「分かった、予約席と言うならば仕方が無い。ただ…」
「ただ?」
「手続きは何処でするんだい?僕は明日から、其処を予約しておきたいんだ」
「………フリーダイヤル、XXX-XXX-XXXX」
「オッケー」

僕は早速その番号を携帯に打ち込み、電話する。

暫しのプルルルー音の後に声が返ってきた。

「ハイ、新東京精神科ですが?」
「スイマセン、間違いました」(0.1秒)

「だって、アナタには其処が相応しいもの」

クルリと後ろを振り向くと、少女がニヤニヤしていた。
――ベチ。

「痛い」

取り敢えず一発入れておく。

「ねぇ?アナタって馬鹿?」
「よくわかったね」
「誇らしげに言う台詞じゃないわ」
「プライドといえば、ドク。今の娘には難しいかな…ふっふっふ」
「取り合えず私の場所だからどけて欲しいの」

ツッコミなしかい。
僕はヒョイと立ち上がると、少女に席を譲る。
さしてやる事の無くなった僕は、そのまま自宅へと戻る。

「私の名前はレイ、レイよ。覚えておきなさい?」


らしいです。



――僕、疲れた。

 

 

5、



「壊れ系の方々に囲まれる心がわかる?」

って招き猫に語り掛ける僕は、結構寂しいんだなぁって思う。

「そもそも何で招き猫あるんだ」

独りでのボケとツッコミも寂しいと思う。
寂しい寂しい僕は、そのままベットに潜り込んで、眠りについた。


朝起きて、出勤準備を手早にして部屋を出る。
やたら強めな日差のせいで、汗がジトリと浮かんでくる。

自分のデスクに座るや否や、部長が何かを叫び出した。

「上からの命令だ。『会社内におけるトイレットペーパーの有効活用について』!これ、急ぎでやってくれ」
「部長、急ぎも何も皆して仕事一杯抱えてて、それどころじゃないっすよ」
「こっちが最優先だ、最優先」

むぅ…残業、かな?

予想通り、残業に突撃。
隣の鈴原さんは、『トイレットペーパーの処理は気合や!喰らえカメハメ波!』と何時も通り絶好調。
山岸さんは『ミルキーはマーマのお味よね…ふふふ』と連日続いたシリーズは一番最初に回帰。
僕は、地味にトイレットペーパーの食料転化について熟慮。
普通じゃないって自分でも思うけど、醤油とかかけたら割と……。

――パクッ

「イけるっていうか逝ける」

醤油じゃダメだ…マヨネーズとかどうだ?



すっかり窓の外は暗くなった。
誰も帰る様子は無い。つまりは、会社に全員泊まりってことだ。
一人だけ帰るのも気が引けるので、僕も毛布をゲット。


窓から差す朝日で目覚めると、そこはパラダイス銀河。

「光ゲンジ」

――グッ!(親指立て

じゃなくって、何で隣に『マーマのお味』の人が寝てるのか?
そこが問題だ。
裸じゃないのが救いだが、明らかに一緒の毛布に包まって…まるで『雪山遭難・育まれるラヴ』状態。

アホな事考えてると、山岸さんが目を覚ます。

「スゴかったわ…フフフフ」


ナニが?



――僕、サイズ標準(の筈)。

 

 

6、



そろそろシリアスに行きたいと思う。
フレーム外から無理ポって声が聞こえても、だ。
だから、そろそろ真面目に生きようと思う。


――珍生を。



僕は毎夜、こうして招き猫に語りかけるわけだ。
電波系?勝手に言ってくれよ。

朝起きて実は僕ってデカかった?とか優越感を醸し出してみたりしちゃった。
けど、山岸さんが凄かった、と思ったのは僕の寝言らしい。


残念だなんてこれっぽちも思ってないよ?



招き猫を尻目に僕は再び布団に潜る。
今日は休みだ。
ビバ、ハッパーマンデー。

休みを利用し僕は惰眠を貪る。
少しだけ開けた窓から入る光が心地いい。

――ピリョンピリョンピピピピ〜ロ!

何だ、この間の抜けた音は。

……僕の着メロじゃん。
自作がアダとなったか?

僕は素早く携帯を取ると、発信者も見ずに通話ボタンをプッシュする。

「私よ、私。生きてるぅ?」

惣流さんだ。

「失礼な、活きてるよ」
「何か字、違わない?」
「声でそれを見分けられるのは君を入れて世界で2億人だと思うよ?」
「誉めてる、のよね?」
「2割の確率で」
「ハァ…まぁいいわ。アンタ、今日暇よね?」
「何故わかる…超能力!?」
「金も無い女も無い行動力も無いってのが理由じゃダメ?」
「……せめて出不精とかって単語を使わない?」
「デブ症?」
「……座布団1枚」
「………」
「………」
「で、暇ならちょっと私に付き合いなさいよ」
「何処に?」
「ひ・み・つ」
「北とか?」
「……いつの時事ネタよ」
「絶対、曽我さんとか怪しいと思う」
「…誰よ」
「で、結局の所は僕を何処に拉致ろうっての?」
「まぁ、とにかく今から迎えに行くから家に居なさい」
「了解、妖怪した妖怪って、酔うかい?」
「座布団マイナス3枚…」

――ガチャ、ツーツーツ−ツ−。
電話はそこで切れた。


――僕、駄洒落スキ。



 

 

7、



僕は悪くない。
だって僕は『溶解した妖怪って酔うかい?』って了解にかけて言ったつもりだったもの。
自己弁護って大切だと思うよ?


「な〜にブツクサ言ってんのよ?」
「ん?世の中の仕組みとヘイブリッツ定数とカオス理論における虚数解の優位性について」
「……ツッコミ欲しいわけ?」
「……いえ、安全運転でお願いしますです」

毎回毎回、惣流さんの車の運転はデンジャラスだと思う。
何せ必ず余所見をするんだ。
しかも、それを反省する様子もゼロだ。
どのくらいデンジャーかと言うと賞味期限1年切れの牛乳くらい…。
いや、納豆の賞味期げ――ベチン!

「ヘブシ!!」

いてぇよ、とっつぁん。

「…もしや、僕、また声に出してた?」
「出してないわよ」
「へ?!じゃあなんで僕のことをベシリと?」
「気分とノリと勢い」
「……いいお嫁さんになれるよ」
「……脈絡、ゼロね」

ゼロックススーパーカップはどっちが勝つんだろう。
僕の予想は断然、アントラーズだね☆


時間軸とか気にする必要ないよ?



で、惣流さんの車に揺られる事2時間ほど。
憑いたところは右腕『ミギー!』
っじゃ無くて着いた所は……

「……海?」
「そうね」
「しかもビューティフル・オーシャン」
「そうね」
「ゴミもない、カモメもいる、砂はサラサラ…」
「そうね」
「いき遅れ」
「そう……」

――ベチン!

「あびゃ」
「流れで失礼な事言ってんじゃないわよ」
「川の流れのようには名曲だよ?」

――ベチン!

三度、彼女のデコピンが僕のスィートなおでこを叩いた。


――僕、ぶっちゃけシリアスとか無理くさい。



 

 

8、



とは言うものの、いい加減シリアスしたいんだ。
僕だっていつまでも子供じゃないんだ!


童貞カミングアウトとかじゃないよ?



海についたのはいいとして、一体ここで何をするんざましょ?
っていうか惣流さん水着、服の下に着てるし。
僕とか如何するの?水着なんて持ってきてないよ?

「ねぇ…惣流さん?」
「あによ?」
「僕は一体、どうして、何故、ここに拉致られたんでしょうか?」
「泳ぎましょうよ?」
「いや、水着」
「あるじゃない」
「へ?!」

彼女が指さす先には屋台で水着を販売中。
こりゃ兄ぃは1本取られちったよ。


早速、水着を買おうじゃないか!

「すいません、これ下さ………え?」
「これか?」
「…………」
「どうした、早く選べ、選ばないのなら帰れ!」
「じゃあサヨウナラ」

脚が軋むほどにダッシュ!
後ろで『待て』とか言ってるのはスルーだ。

「惣流さん、帰ろう!」
「まだまだ時間はあるわよ?」
「いいから、早く!」
「はぁ?わけわかんないこと言うんじゃないわよ」
「分かった、仕方が無い。独りで帰る」
「…はぁ?」
「さようなら!」

迸れグリコーゲン、ハイパーダッシュ!


「待て」
「いやだぁ!」

――パチン。

「うがぁ」

指パッチンに合わせて黒服さん達が僕を掴む。

「シンジ、よく来たな」
「……何やってんだよ」
「ここは私の海だ」
「……買ったのか?」
「そうだ。シンジ、お前も泳げ。そして水着を買え!」
「……」
「早く買え、買わないのなら帰れ!」
「じゃあサヨナrヘブシ」

右方向より拳飛来。痛い。

「アンタ、何やってんの?」
「そ、惣流さん…」
「なに、このヤーサンもどきは?」
「世の中って怖いよね?」
「だ・か・ら!」


「ちちです」
「へ?」


乳ならどれだけよかったか。



――僕、実は家出っ子。