かつもく ― 【刮目】  (名)スル

 目をこすってよく見ること。 注意して見ること。 刮眼。

 「―に値する」 「請ふ、―して百年の後を見ん/文学史骨(透谷)」

                                  大辞林第二版より抜粋

 

 

 

 

 

4th Episode : カツモクノ (ウタ)

 

 

 

 

 

殺気。

膨れ上がり、拡張し全てを覆う強大な殺気のうねりが部屋全体を包んだ。

カズヤは内心、少々挑発しすぎたかと思いつつも顔を僅かに歪めた。

――笑い。

これから起こる事への期待と高揚感。 それら全てがカズヤを興奮させていた。

「くっくっくっく。 いい! いいぞ!! この波動…最高だ!!」

カズヤがそう言って僅かに身構える。

「屑だね…。 死んで償え!


ゴオォォウ!!


カヲルの周囲に雷鳴が轟き、一定の形を取ったソレが体に巻きつく。

(ライ) !!」


黄金(こんじき)の輝きを放つカヲルの体が更に光を帯びる。

希薄な存在だった稲妻がハッキリと実体として存在しカヲルの殺気を更に助長する。

その殺気を受けカズヤは己の男性器を血が集結して行く事を感じていた。

「(はあ…いい…いいぞ!)」

カズヤのソレは膨張しその存在を示していた。

異常…そう言うに等しかった…。

その醜悪な存在を確認しカヲルの殺気は頂点に達っした。


ズドオォォォーー!!


――光が弾け跳んだ。

 

 

 

 

病院を目指すシンジは、自分を見る奇異な視線に心底ウンザリしていた。

「(……うざったいな。)」

一瞬、殺してやろうかと危険な考えも浮かんだが、今はその程度のことに時間を取られるのが惜しいと考え直す。

シンジは自分を案内するメガネの男に視線を向けなおす。

案内と言うには遠すぎる位置で自分を先導するメガネ――日向マコトにシンジは軽く笑う。

明らかに自分を避けるその行動が何とも笑えた…。

「ここが鈴原君の病室だよ…。」

マコトは頼りなさそうに言うとそそくさと元来た道を帰っていった。

シンジは少しの間振り返り、病室へと入っていく。

白で統一されたその部屋にはトウジ以外にもう1人、人が存在していた。

――先ほどシンジを襲った洞木ヒカリである。

「傷の治りがなかなか早いな…。」

「碇君…。」

シンジは先ほどとはうって変わって態度が軟化しているヒカリに少しの疑問を感じる。

「いつ以来かしら…久しぶりね…。」

「(成る程な…。 なかなか面白い事をする…。)久しぶりだな…委員長。 で……トウジの具合は如何なんだ?」

シンジは何かに納得するとヒカリに問い掛ける。

「あと2、3日寝てれば治るって先生が…。」

「そうか……俺はもう行かせてもらう…。 トウジが起きたらお大事にと伝えておいてくれ。」

「わかったわ。」

シンジは病室を後にし――

「フン! よっぽど殺されたいようだな……いいだろう殺してやるよ…。」

――殺気を爆発させた。

 

 

 

 

カズヤはニタニタと笑うと酷い焦燥感に包まれた。

「(こんなイイ殺気を消すなんて…!)」

カヲルの殺気を失う――カヲルを屈服させることに、カズヤは歪んだ後ろめたさを感じていた。

「(でも…でも、でも! 彼の内臓も捨てがたい…はふう…。)」

カズヤが悩んでいる間、攻撃を加えないなどカヲルはヒーロー物の敵の様なことはしない。

バッ! バッ!

カヲルが両手を左右に順に開くと稲妻がその行動に呼応しドアのように開かれた。

そしてソレはまるで生き物のようにうねり大きく広がる。

「(内臓…内臓!! 見たい…見たい!!!)」

徐々にカズヤの目が血走り息が荒ぶる。

ザッ!ザッ!ビュン!

一方、カヲルは印を結び一度カズヤを見据えると――


虎生雷(とらなるいかずち)!」


――放った。


 

 

 

バッ!!


ブウウゥゥン!!


「………“Gate”とはね…。」

一瞬。

瞬きをする時間にも満たない一瞬でカヲルの雷は黒き扉の向こうへと消えていった。

「兄貴…邪魔しないでくれないか…内臓が…見たいんだ!! …凄く、凄く…ふふふ…。」

カズヤが血走らせた目で訴える。

「カズヤ、少し落ち着きましょう。」

と、同時に黒き扉からラグナ=ロンが現れる。


カヲルはラグナがカズヤに話し掛ける僅かな時間の隙間を使い、ラグナの前まで体を詰める。

バッ!

任意の空間とソレとは別の空間を自由自在に繋げ物を通したり移動を行う“word”――“Gate”

その“Gate”の“user”であるラグナに時間を与えてはいい事など何一つ無い。

カヲルはほぼ零距離に近いその場所で両の拳を鋭く後方に引き前方に折り返した。

衝生雷(しょうなるいかずち)!」

カヲルの拳に雷が巻きつく様に集束し突き出した腕とともに一気に弾ける。


バチ バチ バチッッッ!!!


 

 

――辺りが焼かれ、床に転がる死体が炭と変わる。

だが、ラグナとカズヤの姿は消え失せ部屋には死体の焦げる音と、カヲルが歯を軋ませる音のみが響き渡った…。

 

 

 

 

シンジは殺気を撒き散らしある場所へと歩いていた。

「……此処か。」

目的の場へ着いたシンジはドアを開く。

部屋の中で椅子にもたれる老人――冬月は少し驚いた後、シンジに声をかける。

「シンジ君…如何したんだね?」

「爺…貴様はなかなか俺を楽しませてくれるな…。」

「…何のことだね?」

Pi

冬月はシンジの問いに曖昧に答えつつ、椅子の後ろ手に持つボタンを押し込む。

「(5人……。 いや、7人か?)」

シンジはそう心中で呟きながら刀に手を掛ける。

「シンジ君…君は1つ勘違いをしている…。」

「…何?!」

「……人は滅びるべきなのだよ…。」


バッ!! ブウウゥゥン!!


冬月が黒扉に消え去り、代わりに幾人かの男が現れる…。

その男たちの中にラグナ=ロンを確認したシンジは言を発する。

「……ラグナ=ロン……貴様…“Gate”の“user”だったとはな…。」

シンジは内心、安堵していた。

――先ほど己に及んだ攻撃が“Gate”を利用したものだと分かったためだ…。

突如現れ攻撃を喰らう、気配を読む隙もなく急に空間に現れる“Gate”の“user”ではシンジが攻撃を喰らう事もしょうがないと言える。

むしろ、カスリ傷で済んだシンジのスピードにラグナは恐怖を覚えていた。

「やはりな……伊吹の仕業か?」

ジリッ!

「ふふふふ。如何でしょうかね?」

ジリッ!

二人は徐々に間合いを詰めるが、周りの男たちは黙しその様子を傍観していた。

シンジの思考はこうであった。

「(ラグナ以外は…いや、多分ラグナ自身も……糸の無いマリオネット…。 洞木もおそらく本人のコピー、こいつらもラグナのコピー…。 本体はおそらく別に…。)」

事実、シンジの思考は的を得ており、周りの男たちはラグナの合図無しにはピクリとも動かない人形であった…。


バッ!!

シンジが距離を詰め、同時に抜刀し切りかかる。

シュッ!!

影切えいせつ!!」

ズパァァァン!!

シンジの疾速の太刀がラグナの左半身を捉える。

ザシュ!!

シンジの背に突如ナイフが突き刺さる。

切ったと思われたラグナの左半身はラグナ自身の“Gate”の力によりシンジの後方に移動していた。

ラグナの腕はナイフを手放すと素早く黒扉の中に戻り再び消失する。

ズプッ

シンジは己の背からナイフを抜き取ると、その刃に付いた自身の鮮血を――

ペロリ

――舐め上げた。


そのシンジの姿を確認したラグナは背に冷たいものが走るのを感じていた…。


恐怖。

――ラグナにとって初めての感情。

シンジがラグナの疲れから来るモノではない額の汗を確認した時、シンジは勝利を確信した。

「(闘いとは恐怖した方が負け…。)」

シンジは師の言葉を思い起こしながら…ゆっくりと意識を研ぎ澄ます。

徐々にシンジの体が黄金(こんじき)の閃光を放つ。

「行くぞ…!!」

シンジがかつて無い殺気を解き放ち“word”を唱える。

 

「 斬 !! 」

 

ズギョオォォォウ!!!


刹那。 ラグナの体は亜音速で切り刻まれた。

また、同時に周りの男たちの千切れた肉も飛び散った…。

床には爪痕が無数に刻まれシンジの周囲は塵1つ無かった。

“word”――“斬”……鮮烈なる力は全てを切り刻んだ……。

 

 

 

 

その頃、カヲルはカズヤと再び合い間見えていた…。

 

 

 

 

―― to be continued.