きょうがく ― 【驚愕】  (名)スル

 非常に驚くこと。 喫驚、吃驚(きつきよう)、驚駭(きようがい)。 「突然の悲報に―する」

                                                大辞林第二版より抜粋

 

 

 

 

 

5th Episode : キョウガクノ (ウタ)

 

 

 

 

 

汗。

額を背を頬を流れる汗、汗、汗…。

シンジは己の膝が震えているのを知覚し歯を軋ませる。

情けない。

…と。 向かおうとする気力が本能的な恐怖に勝ることは無く、動かぬ体をシンジは奮い立たせる…。

 

 

 

 

―――20分前。


病院を後にしたシンジは何をするでもなくジオフロントを後にしていた。

が、森の木々が葉を擦らせる音に交じって――


 

ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


         ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


                        ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


                        ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


         ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


         ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


                        ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


ドスンッ! ドスンッ! ズドンッ! ドンッ!!


 

――巨大な幾つもの地響きがシンジの耳に入り込んできた。

シンジは顔を遠くへと向ける。

「…………タイプ14………。」

シンジの眼前にはタイプ14、かつてゼルエルと呼ばれた異形の化け物の大群が映っていた。

いつもの使徒の比ではない大きさ…かつてシンジがエヴァに乗り殲滅を行った時の2倍はあるその体躯…。

そして…いくつもの地響きを奏でる数の多さ…。

「……200って所か……?」

――正しく大群。

今、スラム=ルッビスはタイプ14で埋め尽くされていた。

「フン! 弱い奴ほどよく群れる…。」

シンジが殺気を解放しだす。


「200程度で殺れる思うか!!」


バッ!!


スチャッ!!


凄まじく高い跳躍でシンジがタイプ14の眼前に存在する木の頂へと降り立つ。

そして……

 

「 斬 !! 」

 

ズギョオォォォウ!!!


       ビシュウゥゥゥウ!!!


ズビョウォォォウ!!!


       ギャリュウォォウ!!!

 

「脆いな…。」

シンジが“word”を唱えた瞬間、瞬き程の速さで50体ほどのタイプ14がルッビスの瓦礫に散らばった。

「…それにしても何故だ? 何故これ程の大群が此処に押し寄せる? もう此処には何もない筈…。 …そしてこのデカさ…。」

シンジが刀を抜く。

「…ッフ、まあいい…。 全て消すまでだ…!

シンジの殺気が辺りを覆う。

 

 

 

 

―――ネルフ本部。


「パターン青! ……その数、約に…200体です!!」

「何だと!?」

「……“user”は何人だせる?」

「し、司令! 現在、本部内には“user”が32人待機しています!」

「全員出せ!」

「は、はい!」

 

 

 

「大群がお出ましのようね。 レイ行くわよ。」

「ええ…アスカ…。」

レイとアスカが立ち上がり足早に駆け出した。

「急ぐわよ!」

「…ええ。」


バゴンオォォォ!!!


急ぐ二人の耳に轟音が侵入する。

「…何?」

「あれは……フィフス!?」

二人の目の前には確かにカヲルの姿が存在していた。

 

 

 

 

(ライ) !!」


カヲルの声が響く。

途端、カズヤがニヤリと笑う。

「ダブリス君…君は殺すにはなかなか惜しい…。 でもね…殺さずにはいられそうにないんだよ…。」

カズヤの体が白色の輝きを放つ。

「Shadow!!」


ビュルビュルビュルビュルゥゥフッ!!


カズヤ自身の影が波紋状に四散し、所々の影へと入り込む。

「此れで全ての影は私の物へと変化した! 君に逃げ場は存在しないよ!!」

「己の影によって他の影を意のままに操る“Shadow”かい……。 (“c.l.-word”の中でも上位に位置する“word”だね…。 如何やら少し 本気になった方がよさそうだね…。)」

「襲え!!」

ギャウゥ!!

カヲルに向かい四方から影がせり出す。

「つぇい!」

ブン!!

ズゴウゥッ!


向かってくる影目掛けてカヲルの雷が炸裂する。

「っふっふっふっふ……私の勝ちだ…ダブリス君…。」

カズヤがニッと不適な笑みを浮かべる。

「………!!! まさか!!」

「その通りさ……影縛りの完了だよ!」

「流石に“color”白色なだけある…そこらの雑魚とは勝手が違うね…。」

気が付いた時にはカヲルは支配されていた。

カズヤは四方の影を囮とし、己の影をカヲルの影へと入り込ませていた。

その瞬間、カズヤの影縛りは完成しカヲルはカズヤの手によって動く傀儡と化していた…。

カンッ!

カズヤがカヲルに向けてナイフを投げ捨てる。

クイッ!

カズヤが手を巧みに動かすとカヲルの腕も同時に動き、ナイフを手にした。

「さようなら…ダブリス君。 君の殺気はなかなか心地よかった…残念だね〜。」

ブンッ!


カズヤが腕を振り下ろしナイフがカヲルの首へと向かった。

 

 

 

 

―――森。


「細切れになれ! 影切(えいせつ) !!


ズパアァァァァ!!


遥か高く(そび)え立つタイプ14の体が縦にキレイに裂ける。

シンジは地に降り立ち前方を見据えると更に殺気を高めた。

「後50程か…面倒だな……まとめて…消えろ!!

シンジの体が再び黄金(こんじき)に輝く。

 

「 斬 !! 」

 

シンジが“word”を解き放つ。

が、先程とはうって変わってタイプ14に変化が顕れる事は無く、換わりにシンジのすぐ前方に紅い塊が蠢いていた。

 

剣戟(けんげき)千花繚乱(せんかまといのらん)!!」

 

発!

 

ビュゴォォォウゥゥゥ!!!


 

 

 

 

タイプ14の大群を食い止めるために森へと出てきた30人の“user”はその瞬間を目の当りにした。

そう……全てのタイプ14が…幾つ物紅きモノに串刺しにされ……大地へと散っていく瞬間を…。

森の木々の中、ただシンジだけが立ち尽くし眼前にはタイプ14の屍の山が見渡す限りに続いていた…。

 

 

 

 

バキィィ!!

カヲルの首を目掛けて振り下ろされたナイフはカヲルに――

「ば、ばかな!!」

――突き刺さることは無く、オレンジ色の壁に阻まれた。

A.T.フィールドだって!? 有り得ない、そんなの有り得ない!!」


バッ!!


カヲルはカズヤが怯むのを見逃さず、大きく踏み込んだ。

衝生雷(しょうなるいかずち)!」


カヲルの腕に巻き付いた雷鳴がカズヤの胴を捉える。


バゴォォン!!!


「ギャァァーーーーー!!!!」


カズヤの胴は吹き飛び肉が辺りに四散した。

 

 

フッとカヲルが振り向いた先にはアスカとレイの姿があった。

 

 

 

 

―――同時刻。


シンジは嘗て無い恐怖に震え上がっていた…。

神降(かみおり)の器という恐怖に…。

 

 

 

 

―― to be continued.