しゅうそく ― 【集束】  (名)スル

   多くの光線が一点に集まること。 収束。 収斂しゅうれん

                      大辞林第二版より抜粋

 

 

 

 

 

10th Episode : シュウソクノ (ウタ)

 

 

 

 

 

友。

いや、家族なのか仲間なのか…。

それすらはっきりしない。

それでも共に居る時間は決して苦痛ではなかった。

サガ、何故私とお前の道は別れたんだ…?

 

――それはな…コクヤ、テメエが何かに縋らなきゃ生きていけねえからだよ…。

 

 

 

 

―――1年前。


「おい! コクヤ!! テメエ、俺のカレー食いやがったな!!」

サガがカレー専用の大鍋を抱えてコクヤに詰め寄る。

「何の事だ…。」

「あれはな〜俺が三日間かけて作り上げた最高の出来だったんだぞ!」

「…成る程旨い分けだ…。」

コクヤがボソリ呟く。

「テメエ、やっぱり喰いやがったな!」

「…フン…置いてあったから喰ったまでだ。 サガ、呪うならば貴様の無用心を呪うがいい…。」

「あんだとコラ?! ぶっ殺す!!」

「望むところだ! 通算300回めの記念すべき対決、そろそろ決着をつけねばな!」

バッ!  バッ!

二人が外へと跳び出した。

 

 

「シヴァ様、宜しいのですか?」

「…いつもの事だ…捨てておけ…。」

 

 

ギャリュゥゥゥ!!

サガの刀とコクヤの刀が激しく火花を散らす。

刀と刀がその均衡を保つと同時にコクヤの右足がサガ目掛けて跳ね上がる。

サガはその足を目で捉えると、すかさず左の掌を迫り来る足へとあわせる。

ゴッ!! ガッ!

激しく足と手の軌道が交錯した瞬間、コクヤが己の刀を強く押し出し片手で支えられているサガの刀との均衡を崩す。

サガの刀が後方へと跳ね除けられ、その衝撃でサガの右腕も後方へと引き付けられる。

「(貰った!)」

コクヤがそう思い刀を鋭く打ち下ろした一瞬、サガが両足を同時に空中に引き上げ後方への衝撃を利して体を仰け反らせる。

「残念賞!!」

バシュ! ビキッ!

サガがコクヤの刀を両足で挟み込むと、そのまま空中で体を捻り真っ二つに切断した。

「相も変わらず馬鹿げた動きをするな…。」

「コクヤ、テメエこそ蹴りの威力が何時の間にかアップしてねえか?」

二人はニヤリと笑うと同時に後方へと跳んだ。

バッ!  バッ!

「これで終わりにしてやろう…。」

バサッ

コクヤの闇色の翼が展開された。

「き、きたねえ!」

コクヤが翼をたなびかせ空中へと飛び上がる。

「ふん、しょうがねえ、来いよ…。」

サガが先程地面に落とされた自分の刀を拾い上げ、初めて構えをとる。

「(大上段…打ち下ろす気か…ならば!)」

ゴオオゥ!

コクヤが頭をサガへと向け急降下する。

「(成る程…普段は冷めてるくせしてこういう時だけ熱いテメエらしいな…真っ向勝負ならば望む所だ!)」

「(サガめ…剣気が刀先から溢れているではないか…本気か? 面白い…真っ向勝負ならば望む所よ!)」


ズバッ!! ガゴッ!!


二人が交錯しサガの打ち下ろし、コクヤの鋭爪、互いの必殺の一撃がそれぞれ放たれた。

「…っく。」

ドプッ

「ぬおぉ。」

ビュルッ

サガが右膝を地に付け跪き、コクヤは左膝を地に付け跪いた。

サガの腹から血が滴り落ちるとコクヤの右腕からも同時に血が飛び出した。

 

 

「どうやら、同点…これで俺の151勝149敗だな。」

「サガ、貴様は数も数えられんのか? 私の151勝149敗だ。」

「あんだと、コラ!」

「事実を述べたまでだ…。」

「ぶっ殺す!」

「懲りないヤツだ!」

バッ!  バッ!

ガリュゥゥ!!

 

 

 

「ハァハァ…ッチ、やめだ、やめ!」

「ハァハァ…そうだな今日は此れくらいにしておいてやろう…。」

二人が大の字に寝そべり空を見上げると既に日は沈み、月も無く暗闇が広がっていた。

 

コクヤは空を暫く眺めると空をみたまま語りだした。

「…私はヴァンパイアだ…。」

「あん? だから何だよ?」

「…常に歴史の影に存在し血を喰らい、何百年もの齢を生き、常に避けられるべき存在だった…。」

サガは目を細める。

「……私は初めて…シヴァ様に出会い、貴様に出会い…仲間とは何かを知った気がする…自分の居場所を得た気がする…。」

スッ

サガが上半身を持ち上げ空を見上げて言葉を発する。

「…テメエらしくもねえ…変なもんでも喰ったのか?」

「…しいて言うならば貴様のカレーかな?」

「俺の傑作を食べやがって、よくもそんな口が聞けんな!」

「…事実だ。」

「テメエ!」

「進歩の無い人間だ。」

バッ!  バッ!

「(フン…暗闇を見ていて家族を思い出したなんて照れ臭くて言えるか…。)」

ガリュゥゥ!!

 

 

 

「サガ! 何故だ!? 何故、今になってカタコンベを抜けるなどと!?」

「………テメエはいいのかよ…ガイア・インテンションを成就させるために動くのかよ…?」

「…ああ、それがシヴァ様の望みだからな。」

ギリッ

サガが歯を軋ませる。

「…確かにガイア・インテンションは正しいのかもな…。 だがよ、正しくとも俺は気に入らねえんだよ…。」

「カタコンベを抜けてどうする気だ…。」

「さあな…俺は俺のままだ…。」

コクヤが下を向く。

「…じゃあなコクヤ…。」

「サガ…私は、私はお前を!」

サガの姿は既に消えていた…。

「…家族だと…仲間だと…友だと…思っていたんだ…クソクソー!!

 

 

 

 

シンジが光の迸りを捉え、光が消えたその一瞬で既に勝者は決していた。

 

サガが右膝を地に付け跪き、コクヤは左膝を地に付け跪いた。

サガの腹が抉り取られ其処から血が吹き出し、同時にコクヤはスッと立ち上がった。

バタッ!

サガの体が大地に倒れ伏し、血が辺りに拡がった。

「さらば…我が最高の親友ともよ…。」

コクヤは身を翻すと、振り向かず去っていった…。

 

 

「(し…師匠…クソ、こんな時に…意識が…グゥ)」

シンジはスレイプニルの背にて意識を失った。

 

 

 

 

 

―――九州。


「ふむ、確かこの辺だったと思うんだけどね〜。」

カヲルが今は崩れた九州の町並みをキョロキョロしながら歩いていた。

「……ここだ…。」

カヲルは半壊したビルの前で足を止めた。

中に入り奥へ奥へ進むと嘗て食堂であっただろう場所へと出た。

「確か、此処に…。」

カヲルがゆっくりと眼前の煉瓦を退けると其処から地下へと続く階段が顔を出した。

その階段を一段一段カヲルが降りると目の前に黄色のドアが現われる。

「相変わらず嫌な色の趣味だね〜。」

何でもないようにギッとカヲルがドアを開ける。

ガチャ

          ガチッ

   カチッ

               ガチャ

  カチッ

と、カヲルの顔に銃身が突きつけられる。

「これは手厚い歓迎で…。」

カヲルが両手を上げる。

「此処に何の用?」

黒いフードを被った少女がカヲルに向かって言葉を発す。

「約束のモノを取りに来た…ボスにそう伝えてくれないか?」

カヲルはあまりに幼いガードに軽い戸惑いを感じながら用件を正確に伝える。

黒いフードの少女が首を後ろへとクィと動かし指示を出す。

 

 


―――10分後。


奥のドアから一人の少女が静かに歩いてきた。

「…どういうことだい?」

「お久し振りです、カヲル様。」

「…ルー、父さんは如何したんだい…?」

ルーと呼ばれた少女が涙を浮かべる。

「父は私達のために連れて行かれました…。」

「如何いう…ことだい?」

「最近、近くに新しい工場が立ちました。 その工場の方が父を連れて行きました…来なければアジトごと吹き飛ばすと言って…。」

周りの男たちが一斉に下を向く。

「何か得体の知れないモノを造っているようで…それに、確かにN2爆弾を所持していました…父は…私達のために自ら…。」

「……名は?」

「え?」

「その工場から来た人は何と名乗ったんだい?」

「……確か…イブキ、そう名乗りました。」

カヲルの目が大きく開く。

「ルー、父さんの事は僕に任せてくれるかい…?」

「…カヲル様、何を?」

「どうやら僕もその工場に用がありそうだ……。」

カヲルはニッと笑うと出口に向かって歩き出した。

 

マユミ…行ってもいいのよ…。」

ルーが黒いフードの少女に話し掛ける。

「…ルー様、すいません。」

黒いフードの少女は一度礼をすると疾風のように走っていった。

 

 

「ルー様、あの男の言う約束のモノとは?」

男の一人がルーに問う。

「……小太刀。 いえ、小刃、小さき兇刃…。」

男は首をかしげた。

 

 

 

「カヲル様、お待ち下さい!」

カヲルが後方からの大声にハッとして振り返ると、其処には一本に纏めた長い黒髪がピョコッと尻尾の様に飛び出した先程の黒フードの少女が居た。

その姿を確認しカヲルは急停止した。

「君はさっきの…?」

「カヲル様、お忘れですか?」

カヲルはジッと女の顔を凝視し、ハッとする。

「マユミちゃん…なのかい…?」

「はい!」

「大きくなったね〜。 全く分からなかったよ。」

カヲルがマユミの頭をゆっくりと撫でる。

マユミは顔を真っ赤にするが、ハッと我に帰る。

「カヲル様…早く工場へ。」

「…君も来るのかい…?」

「…駄目…ですか?」

グジュと、マユミが涙目になる。

「…分かったよ。 でもね…君を護っている暇は無いかも知れない。 だからこそ参考までに聞いておくよ…“color”は何だい?」

カヲルが涙に負け渋々承諾する。

「私の“word”は“Deteriorate”、“color”はです、カヲル様。」

カヲルは驚いた…その白色という高レベルに…。

事実、マユミ=ヤマギシがカヲルに出逢った時“color”は青であった。

12歳の少女が1年も経たずに其処までレベルを上げるのにはどれほど辛かっただろうか…。

カヲルはマユミをもう一度撫でると工場へと走り出した。

 

――空は黒い雲に覆われ泣き出した…。

 

 

 

 

バルッバルッバルッ

「っち。 結局レリウーリアで来たのは一人だけかよ…ったく、5億ドルじゃ足りなぇ〜なぁ〜。」

コウがネオゼーレ所有のヘリ内で大きく溜め息を吐く。

「何だ? 俺様だけじゃ不満なのかハイ・スピード?」

そのコウの後ろでパンクスーツを着込んだ紅いモヒカンの男がさも不満気に言う。

「本当ならブルーム=スメラギ、アンタだけでも充分だと思うがなぁ〜。」

テメエが出たら誰かが止めなきゃいけねぇだろうがぁよぉ〜、と都合の悪い事は心で呟く。

「っくっくっく当たり前だ。 俺様にかかれば直に人なんかミンチになっちまう…っへっへっへ。」

「(はぁ〜こんな戦闘狂のお守りをなんで俺がしなきゃなんねぇんだぁ〜?)」

バルッバルッバルッ!

――ヘリは日本へと急いだ…。

 

 

 

 

「マヤ、完成率はどうだね?」

「あと数時間で完成します。」

ゴポッ

水の満たされたカプセルの中で何かが蠢き気泡が浮かんだ…。

 

 

 

 

―― to be continued.