けんぼうじゅっすう ― 【権謀術数】

           たくみに人をあざむく策略。数々の計略。

                             大辞林第二版より抜粋

 

 

 

 

 

14th Episode : ケンボウジュッスウノ(ウタ)

 

written by HIDE

 

 

 

 

炎。

ごうごうと燃え盛る茜色の奔流。

うだる様な爆熱の中、スラム=ルッビス最東端に位置する大森林は燃えていた。

ジオフロントをきれいに避けながら、黒い卵を包み込むように。

 

ビシューン!  バゴォォ!!

 

――タイプ5、ラミエルの猛撃は尚も繰り返された。

 

 

 

 

――32日前、〇月4日、9時。


「あと3時間で…来るわ」

カタコンベによる襲撃に備え、幾度となく繰り返された議論も、終わりを迎えようとしていた。

だが、会議に参加する面々の面持ちは、固いままである。

「タイプ5についてはミサトの“Eye”の元、徹底した“user”による集中攻撃で撃破」

リツコが最終的な確認を口頭する。

「具体的な案としては“Eye”でコアを捕捉。“Chain”で拘束し、“Pierce”で貫く、という流れよ」

「……“Pierce”の“user”は三人、“Chain”の“user”はたった一人よ…?」

下唇を噛み締め、モニターに映し出された情報を見ながら、ミサトが呟く。

 

 

“word”
人数
“color”
“Chain”
1
黒1
“Pierce”
3
赤1緑2
“Power”
5
白1黄3緑1
“Fly”
4
赤3橙1
“Transform”
2
黒1赤1
“Electric”
4
白1黒2橙1

 

 

40人程度集まると踏んでいた“user”は、たったの19人しか集まらなかった。

皆が危惧する理由はそれであり、ミサトが憤る理由もそれであった。

第二世代(セカンドジェネレーション)であるミサト、リツコに第一 世代(ファーストジェネレーション)の三人を加えても僅かに、24人。

200体で襲ってきたゼルエルは、過去にエヴァで闘った時とは比べ様も無い程、大きく堅くなっていた。

今回、襲来するラミエルも昔以上の能力を兼ね備える事は間違いない、と言っていいだろう。

初号機と零号機を苦しめた超威力の加粒子砲。視認可能な程に強固なA.T.フィールド。

それらが強化されたラミエルは一体どれほどの戦力を有するか、想像することも出来ない。

 

「それでも…やるのよ…」

「んなこと…わかってるわよ。こっちは、私に任せなさい…意地でもラミエルを消し飛ばすわ」

「頼もしいわね…。それで、残りの十二使徒三人だけど…勿論、貴方達にやって貰うわ」

そう言ってリツコはアスカ、レイ、トウジを見据える。

「フン…十二使徒だろうが何だろうが…今なら…勝てる自信があるわよ」

「今なら…負けない」

「ワシは難しい事は、よう分からん…それでも、やるだけや」

先日までとはうって変わって、三人は自身に満ち溢れていた。

とりわけ、アスカとレイは厳しい特訓を乗り越えた所為か、圧倒的な余裕を持ち合わせている。

「油断…しちゃダメよ?」

あまりの自身にリツコは驕りを心配する。

「分かってるわよ…慢心と余裕は違う。そんな初歩の初歩、私もレイも鈴原も分かってるわよ」

ならいいけど、とリツコは答えた。

 

 

 

 

――32日前、〇月4日、正午。

――大森林。


「来たわ!」

“Eye”で周囲に網を張っていたミサトが叫ぶ。

その声に反応して、待機していた19人の“user”が辺りに散った。

グニャリと空間が歪み、ラミエルが姿を現す。

「…そ…そんな…キャアー!

バカな、と続けようとした瞬間――


バギャーン!


――ラミエルの砲撃が空気を切り裂き、ミサトの居た地点の100メートル程前を打ち抜いた。

 

「グゥ……直接当たったら一瞬でお陀仏ね。にしても…あの形、どういうこと?」

ミサトの目には、正八面体とは程遠い球形の結晶体が映っていた。

まるでビー球のような体へと変質したラミエルは、ドシリと大地に落ちる。

と、同時に回転し始める。

「転がるつもり…?」


ギュルギュルギュル…ギュン!ゴォー!


ミサトの想像通りラミエルは、高速で転がり始めた。

 

 

 

――ネルフ内。


ブゥン!

突如、黒い扉が空中に現われる。

「“Gate”…?来たわね!」

リツコの叫びとともに、その場に残った三人が扉に集中する。


黒い扉が、その場だけ時が止まった様にユックリと開かれる。

次の瞬間、音も立てずに三人の人間が降り立った。

 

「十二使徒…ペトロ、ビイ=ティルムと申します」

「我……十二使徒……ゼベダイの子ヤコブ……コハク=ルメールなり」

「十二使徒、ユダだ」

柔らかそうな青年と、黒装束の少女、異質な仮面を纏った男である。

異質な仮面を纏ったユダの体が僅かに発色していた。

恐らくユダが“Gate”の“user”であるに違いない、リツコはそう予想する。

 

静かに佇む三人からは確かに、並々ならぬ内に秘めた実力を感じた。

 

バッ!

まず、アスカたち三人が動いた。

三人同時に去来した『先手必勝』の想いからだ。

 

「爆!!」「水!!」「圧!!」

 

アスカが“爆”、レイが“水”、トウジが“圧”を同時に解き放つ。

成長の証である白色と銀色の“color”が一気に光り輝く。

爆発と水撃、更にプラスされた重力がビイとコハク、ユダを襲った。

 

バッ! ブゥゥゥゥン!!

 

その全てが“Gate”による黒い扉の奥へと吸収される。

同時にアスカ、レイ、トウジの前にそれぞれ黒い扉が現われ、三人を飲み込んだ。

「なっ!」「…っ!」「なんや!」

ギュル!

 

――三人の姿は消え去った。

 

 

 

――大森林。


直線的ではなく、曲線的…不規則に、かつ高速で転がるラミエルは驚異だった。

森の木々を弾くように薙ぎ倒し、ラミエルは確実にミサトに近付いてきている。

「“Fly”、早く飛ばしなさい!」

“Fly”の“user”に向けて指示を放つと、“Fly”の“user”はミサトを持ち上げ、飛び立った。

「もっと…もっと高く…」

遥か上空…丁度、雲が頭に掛かる程度の位置で止めさせる。

「Eye!!」

“word”の発動とともに、ミサトが黄金(きんいろ)の“color”を放つ。

僅かな間に、ミサトもまた銀色であった“color”を金色へとレベルアップさせていた。

「私だって…遊んでいたわけではないわ……」

そう呟きながら、ラミエルを見定めると、視線でボディを突きぬけコアを探す。

「……そ、そんな…コアが無い…!」

そう、無いのだ。

「…別の場所、と考えるのが妥当ね。全員、私がコアを探す間、死ぬ気で防ぎなさい!“Chain”でその場に留めるくらい出来るでしょ?」

襟についたリツコ特製の通信機で、全員へ声を送る。

 

その言葉に奮起したのか、“Chain”の“user”が“word”を発動……腕から、光を放つエネルギー状の鎖を放った。

バシュッ!

飛び出した鎖は、球形のラミエルに巻き付くと、ギチギチと締め上げる。

一方、絡められたラミエルは、その鎖を物ともせず、更に動きを速めた。

ブチブチと鎖の千切れる音が響き、辺りに光の欠片が飛び散る。


ドスン!!


と、同時にラミエルのボディが沈む。

――“Power”の“user”による落とし穴である。


驚異的な筋力で、深く掘られたその穴の中で、ラミエルはもがく様に空転し続ける。

回転に任せて、辺りに土と木が撒き散らされる。

ギュル!ギュル!ギュル!ギュル!……

徐々にその回転も勢いを失い、ついにピタリと停止した。

一瞬、一秒程の間の後に、ラミエルが光を放ち始める。

そして、光が一際強くなった瞬間――


バシュー!!


――上方に向かって、光が渦巻くように放たれた。

「…ック!!」

上空に向けて飛んできた光の渦を数秒見据えると、ミサトは語気を荒げて言う。

「あそこに向かって全速力で飛びなさい!」

ミサト指さす先は渦の中心だ。

“Fly”の“user”は鬼気迫るミサトの指示通りに、渦の中心へと向かう。

バヒュ!

ミサト達を光の渦が通り過ぎる。

服と髪が僅かに焦げた程度の被害にミサトはホッとする。

凝縮された加粒子砲が小型の台風の様に渦を巻いている…ならば『目』は安全な筈、と見たミサトの眼力に間違いは無かったようだ。

 

「また…来るわね…早く、コア見つけなくちゃ」


――ミサトは、更に視線を研ぎ澄ました。

 

 

 

――ネルフ内。


「消えた…」

リツコの眼前から、アスカ達三人は“Gate”により消えた。

が、リツコの言葉はアスカ達のみに、向けられたものではない。

それは、十二使徒三人にも言えた。

「どこか別の場所に誘って…闘うつもり?」

確かに、それならば自分の“Save”は無駄になる、とリツコは考えた。

 

 

その頃、アスカ達三人は、見慣れた場所へと“Gate”によって送られていた。


「此処……学校」

レイが一人呟いた。

レイの言うとおり、三人は分断され今は廃墟となった、第壱中学へと送られていた。

「……主の言…間違いに非ず……尚…この場…主の墓場となりし……場なり……」

音も無くユラリとレイの背後に立っていたのは、黒装束に身を包んだコハクであった。

「……貴女、敵ね」

レイの殺気が膨れ上がる。

 

 

「……屋上」

バサバサと風で、アスカの髪がなびく。

「殺気、感じるわ。隠しても…無駄よ?」

その言葉に導かれるように、長い黒髪をはためかせ、ビイが姿を現した。

「はは……これは楽しめそうだ」

ビイがニタリと笑った。

 

 

「体育館、やと?」

一方、トウジは体育館のど真ん中で辺りを見渡した。

キョロキョロと見渡すものの、其処には半ば崩れた壁しか無かった。

「此処だよ……トウジ」

黒い扉から姿を現したユダは、仮面を投げ捨て、素顔を顕にした。

 

と同時に、トウジは、言葉を失う。

 

 

 

「…ケ…ケンスケ」

 

 

 

――その素顔は間違いなく、相田ケンスケ本人であった。

 

 

 

 

―― to be continued.