どっぽ ― 【独歩】

    一人だけで歩くこと。単独で行くこと。
    他の力を借りずに一人だけで事を行うこと。独立して事を行うこと。
    他に比べる物のないほどにすぐれていること。卓越していること。

                                 大辞林第二版より抜粋

 

 

 

 

 

18th Episode : ドッポノ(ウタ)

 

written by HIDE

 

 

 

 

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シヴァ=モーゼル
“Shaman”
虹色
使徒名
本名
“word”
“color”
ペトロ
ビイ=ティルム
“Shock”
虹色
アンデレ
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フィリポ
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ゼベダイの子ヤコブ(大ヤコブ)
コハク=ルメール
“Beast”
銀色
ヨハネ
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バルトロマイ
ソウ
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マタイ
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トマス
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アルファイの子ヤコブ(小ヤコブ)
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タダイ
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シモン
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ユダ
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“Gate”
金色

 

 

「これが現状で把握している十二使徒、及びその中心であるシヴァ=モーゼルの主要情報です」

そう言ったリツコの視線の先には、モニターがあった。

会議室で各々の席に備え付けられた、小型モニターだ。

「は〜い! ねぇ…リツコぉ?」

場にそぐわない調子でミサトが手をあげる。

「何?」

「襲撃してきた3人とシヴァは分かるとしてもよ…『ソウ』ってのは?」

「サクノから聞いてないのかしら?」

またか、とミサトは心の中で毒づく。

「サクノがコアを奪った男は『バルトロマイ――ソウ』とハッキリ名乗ったらしいわよ?
 まぁ、見事にその後、サクノに潰されたわけよね…ざまぁないわ。
 襲撃してきた三人のうち、ユダの本名は不明よ…鈴原君が目覚めれば何か分かるかもしれないけど…」

トウジは未だに目を覚ます事は無い。

かつては第三全体に張り巡らされていたMAGIの網も、今ではその殆どの機能を失っている。

そのため、第壱中学での戦闘は当人たち以外が知る術はなかった。

つまり、ユダがケンスケである、という事実はトウジのみは知っているだ。

 

「十二使徒とキリスト教で呼ばれる人物は、これらの人物とされています。
 しかし、マティア、バルナバ、パウロ、アンドロニコ、ユニアス――この5人も一般に使徒と呼ばれます。
 カタコンベ、という組織名に十二使徒と言う名称からキリスト教に何らかのこだわりが見られる以上、
 これら5人がいる可能性も高いかと」

「つまり、まだ…あんな化け物がワンサカいるわけ〜?」

またしても、場にそぐわないミサトのだれた声が響いた。

「そういうことね」

一端間を置くと、リツコは続けた。

「それと、新たな事実としてネオゼーレも“creater”を得ているようです」

「何だと!?」

今まで黙って聞いていたゲンドウがイスから立ち上がると、似つかわしくない大きな声をあげた。

会議室内は、その事実とゲンドウの大声に驚きを隠しきれず、少しザワつく。

「…どういうことだね、赤木君…?」

コホンと一度咳払いをしながらイスに腰掛け、再びゲンドウが聞く。

会議室内はリツコの答えを待ち構え、緊張に包まれた。

「“Memory”と“Search”の“user”によるスラム=ルッビスの調査――その成果です。
 まずはモニターを御覧下さい。
 カタコンベ襲撃の際に協力して頂いた“Transform”の“user”に、建造物の記憶としての情報を
 デジタルな物へと変質してもらい、それを映像としました」

 

 

「…そうか……ならば…お前は何処で“user”になった?」

「俺が“user”になったのは…ネ…グホ!

「どうした…?」

「熱が…集中している…? まさか! クソ!」

バゴオォォォォン!!!

「“Bomb”の“user”か…? しかも、キーワードで爆発させるとは…ただの“Bomb”ではない……
 『ネ』…やはり『ネルフ』か。ということは“Bomb”では無く……“爆”――アスカか…」

 

 

「一人はサード、もう片方は“Power”の“user”――シン=ゴウというチンピラです」

モニターに映しだされた映像を、会議室全体が食い入るように見入る。

途端、その中の一人が突然立ち上がった。

――拳を握って怒りを顕わにして。

「あんの、バカ! 何、私のせいにしてんのよ!」

アスカだ。

どうやら、ゴウの爆発を自分のせいされた事を怒っているらしい。

「キーワードで爆発って…どんな高度な技よ?! 出来ないっての!」

アスカはハァハァと息を荒げて、拳をさらに強く握った。

「確かにアスカじゃ出来ないわ。
 でも、逆に言うとそれが出来る人間がいるってことよ?
 この意味、分かるわよね、アスカ…?」

アスカの物言いが終わるのを見計らって、ミサトがこんなことを言う。

握っていた拳をとき、アスカはおとなしくイスに座った。

冷静さを取り戻したのだ。

いや、血が冷えたというのが正しい。

――自分と似た力を持つ“Bomb”の“user”で強大な力を持つ者がいる、という事実に。

 

「で、リツコ。 この映像のどこら辺が…って、『ネ』?」

「そう…『ネ』。 ネルフじゃないなら、ネオゼーレでしょうね」

なるほど、という空気が会議室全体に流れる。

と同時に、恐怖が漂う。

ネルフは民間人を拉致して“user”を創ったりはしない、だが、ネオゼーレはやるだろう。

――そんな思考を、ほぼ全員がしたからだ。

 

 

「で、俺はいつになったら紹介してもらえるですか?」

どんどん場が暗くなっていく中で、妙に軽く浮ついた声が響いた。


今日のミサトは少しおかしい。

その変調の原因はこの男だ。

だらしなく伸びた髪の毛と無精髭、クシャクシャのシャツ。

リョウジ=カジ――それが彼の名だ。

「加持君…貴方には我慢、というものができないのかしら?」

「我慢ねぇ…? そういう、りっちゃんこそ溜まってるんじゃないか?
 我慢は体に毒だぞぉ…?」

リョウジの言葉をサラリと無視し、リツコが続ける。

「彼のおかげで、サードの行方がハッキリとしました」

場が再びざわつく。

もっとも、先ほどとは違いゲンドウは至って冷静だった。

「それで、シンジはどこに?」

ゲンドウの問いを受けて、加持が答える。

「サードはスラム=ウエストに向いました」

インドの街――かつてのカルカッタである。

仏教徒が住人の大部分を占める、七大スラムの一つでもある。


「……加持君、私はシンジを連れてくるよう頼んだ筈だが?」

ゲンドウの言葉に、いつも以上の威圧感が加わる。

「私に彼を止めろと?」

「………シンジはインドへ何を…?」

「遺言ですよ…師のね」

「………そうか」

 

 

 

 

――同刻。

――スラム=アーテクル、カタコンベ本拠地。


「それでは…結局、どちらが勝ったのですか、シモン…?」

高級そうなソファーに体を沈めたペトロ――ビイが、正面のイスに座るシモン――カンパに尋ねる。

「コクヤ様が負けるとでも?」

「しかし、カヲル様も地位的には盟主補佐。
 その上、サガ様の後任としてそれ相応の実力を持っている筈ですよね?」

「…結果を聞いてどうする? どちらにせよ、二人とも私よりもお前よりも強いさ…」

刺し殺すようなビイの視線を受け流すと、カンパはそんな事を言う。

その態度に、ビイは気にいらなさそうに目を細め、言葉を続けた。

「そうだとしても、どちらが上か! …というのは、大きな意味を持つと考えています…。
 カタコンベのナンバー2とナンバー3の明確な力関係が知りたいのですよ」

「ふん、お前はいつも言っている事と態度、そして、考えている事が違いすぎる。
 隠したつもりでもお前の殺意はシヴァ様も皆も分かっている――それを忘れるな」

そう言って、もう話すことは無いといわんばかりに立ち上がると部屋を去った。

「けっ……偉そうに」

その後姿を尻目に、つまらなさそうにビイが煙草をふかしす。

紫煙が昇り、揺らいだ。

 

 

「結果、か……」

廊下に出て自室に向うカンパが、呟いた。

「…………カンパ、ナギサはどうだ?」

突然の声。

壁によしかかったユダ――ケンスケが、目の前を通り過ぎたカンパに言ったのだ。

「ユダ?」

珍しい。

――カンパがそんな事を考える。

「お前が他人の事を気にするとはな…」

「………わけアリだ」

一瞬、ケンスケの目が遠くを見た。

そして、瞳が怒りとも哀しみともとれる色に染まった。

「ナギサ様がどうか、か…。 難しい質問だな。
 だが、一つハッキリしている――強い…! しかも、あの武器――」

言葉を続けようとしたカンパの言葉を、ケンスケが遮る。

「それより、どうして俺を撤退させた?
 ネルフは俺一人でも充分に陥落できた筈だ…何故だ?」

「ソウがやられたからだ。
 ソウがやられたならば、お前もやられる――そういう判断だ」

コクヤの言葉によれば、バルトロマイ――ソウはコクヤとカンパに次ぐ実力の持ち主だ。

故に、カンパの意見はもっともと言える。

だが、それは正しくはなかった。

「俺はバルトロマイより強い。 貴様ならわかるはずだ…!」

ケンスケの声がにわかに荒くなる。

怒り、というより意地だ。

「……確かに、お前の方が強い。
 だが、私達はまだお前を完全には信用していない――それだけだ」

「それはネルフ襲撃で、よく分かった筈だ」

昔の親友を殺してきたのだから、と暗に意味を込める。

「確かに、な…」

そう言うとカンパは、ケンスケに向けていた顔を前方へと向け直し、廊下を歩いていった。


その後姿を見ながら、ケンスケが右の拳を振り上げる。


ドゴォ!


撃ちつけられた拳は、壁をえぐり取った。

 

 

 

 

――同刻。


おびただしい数の縦長の透明なカプセル。

そこからは、無数のコードが伸びている。

カプセルは緑色の液体で満たされ、その中で人が浮かんでいる。

いや、人ではない。

「マヤ…ホムンクルスはどうだね?」

「問題ありません、冬月様」

いわば、自分の子供であるホムンクルスを()でるような視線で眺めている。

その後ろで、かつてのネルフ副司令――コウゾウ=フユツキが厭らしい笑みを浮かべていた。


カヲルを、ブルームを打ち破ったホムンクルス――モドリー。

速く、強い。

そのモドリーの力で、マヤは崩れ落ちるパラケルスス・ファクトリーから脱出した。

今、持ち帰られたデーターを元にホムンクルスは量産されようとしている。


第一世代(ファーストジェネレーション)を、レリウーリアをも凌駕したホムンクルス…。
 その量産…久しく忘れかけていたな…血が熱くなる、という感覚を」

取って付けたような笑みが、コウゾウの顔にはあった。

――ゾクリとするような、そんな底の深い笑みが。

 

「マヤ、量産はいつ完了するのだ?」

マヤの頭に手をのせ撫でながら、ねぶるようにそう言った。

マヤは恍惚とした表情でその手を受け、答える。

「……1ヶ月はかかるかと」

「ならば、完成のあかつきには幾人かを召集、ホムンクルスとともにスラム=アーテクルを目指す。
 皆にそう伝えよ…」

――笑みは、さらに底の深さを増した。

 

 

 

 

――同刻。


「ダリィなぁ〜」

金色の短髪をジョリジョリかきながら、サングラスの男がそんなことを言う。

「……少し黙れ」

「ていうか、百万回死んで来い」

金髪の男――コウ=ハモンの横を歩く2人の男が、コウの言葉を受けてそう言った。


3人が歩く絨毯が敷かれた渡り廊下。

その廊下は、ネオゼーレ首領――ネロ=アルゴンの部屋へと続いている。

彼らの名はレリウーリア。

精鋭中の精鋭、ネオゼーレ特別機動戦闘部隊である。

 

その中の1人であった、ブルーム=スメラギはモドリーの魔槍(まそう)渺茫( びょうぼう)に貫かれ、死亡した。

コウはブルームが死んだ場、つまり、パラケルスス・ファクトリーに居合わせた。

が、崩れ落ちるパラケルスス・ファクトリーからの脱出に精一杯で、瀕死のブルームを連れ帰る事は出来なかったのだ。

 

3人は絨毯の端――ネロのいる部屋のドアの前まで来ると、ゆっくりとドアを開く。

部屋は灯りの一つも無く、暗闇であった。

その暗闇の中、3人が跪く。

「参上いたしました…ネロ様」

「……参りました」

「どうも、お久しぶりです」

少しの間。

その間が重苦しく3人を包みこむ。

「よく来たな…。 コウ、召集ご苦労だった」

「いえ、造作も無いですよ」

「…っふ。 今回の召集は他でもない、でかい仕事だ」

近くの黒いイスにドカリと座り込み、ネロが言った。

その言葉にコウが反応する。

「……相手はどこでしょうか?」

「聞きたいか?」

「ぜひに」

「…………ウエスト。 スラム=ウエスト」

シンジが向かった――そうリョウジが語ったスラム。

さらには、シンジが過去にカヲルと訪れたスラムでもある。

「ウエストで宝探しをしてもらう、宝探しをな……クックックックックック…ハッハッハッハ!!」

ネロの気味の悪い声が響き、コウは顔をしかめる。

「(相変わらず気持ち悪い事この上ねぇ〜)」

 

 

 

 

シンジはウエストへ。
カヲルはアーテクルへ。

ネオゼーレはウエストへ。
ルネサンスはアーテクルへ。

 

 

 

 

――それぞれが、それぞれに……それぞれが、それぞれを目指して。

 

 

 

 

―― to be continued.