―――交錯する世界、時、想い。

　―――君は何を想うんだ？

　―――あなたは何を想うんですか？

　―――歯車は…音を立て…回りだす。

紫苑〜生きる〜

　「……知らない……天井だ……」

　それが彼の第一声だった。

　俺の名は、テンカワ　アキト。

　彼の名はわからない。当然だろう、彼は３時間前に俺が乗る、このナデシコに保護されたのだから。

　しかも彼は人型の巨大な灰色の石像に収まっていた、まるで胎児のように丸まって。

　何度思い返しても不思議だ。その石像は回収されると途端に背から紅い液体が噴き出してきて、

　次の瞬間にはそこがパックリと割れた。さらに、皆が中に人を発見して彼を石像から運ぶと、彼が外に出た瞬間には

　そこは元どうりになっていた。

　そういえば、ウリバタケさんが背の中がコクピットみたいになってたから、調べようとして背を開けようとしたら

　ビクともしなかったな。

　イネスの解析によると石じゃないらしいが、だいいち石が宇宙空間に浮かんでいるなんてバカげている。

　それに前は……ン！気が付いたようだな。

　紅く、赤く、あかく、アカク、染まっていた…。

　海も、空も、そして僕も…。

　僕は…生きている…何故…？

　僕は…あの時…確かに…。そう、確かに…。

　それに…ここは…何処だろう…？

　…金…色…？

　僕が目を開けると、そこには金色の瞳で僕を見つめる、男の人の姿があった。

　２０歳くらいだろうか？黒い髪と深い金色の瞳。全てを忘れ僕は、神秘的なソレに見ほれていた…。

　「大丈夫かい？」

　その男の人の声にで僕は、唐突に現実に引き戻された。そう、現実に…。

　「………はい……」

　「名は？」

　「…アカウミ…シンジ…。クレナイの“紅”に、“海”で『紅海』です。」

　「(不思議な…名だ…)そうか…。(それよりも…)シンジ君、君は…一体…」

　アキトにとっては名よりも、宇宙に漂う像に収まっていた、シンジの身元の方が重要である。

　「(ぼ…く…？ぼくは…)」

　―――ソガイ…。

　―――コドク…。

　―――ヒトリ…。

　―――キョゼツ…。

　―――ソンザイノ…ヒテイ…。

　―――セカイカラノ…ヒナン…。

　―――ダレモ…イナイ…。

　―――ヒトリ…ヒトリ…ヒトリ…

　……あの子は…壊れた…。

　……彼女は…殺された…。

　……あの人は…死んだ…。

　……彼らは…僕を…差し出した…。

　……世界は…僕を…否定した…。

　……僕は…全てを…失った…。

　何故ここにいる…？何故僕だけ存在している…？

　溢れるイメージ。思考。記憶。生きている…理由。

　『いきて…』

　「(アァ。アァ…）アアアアアアァァァァァァァアアアアーーーーーー」

　「イヤダ！イヤダ！コロスナ！ヤメロ！ヤメローーーーーーー」

　バタ！

　シンジ君はその場で崩れ落ちた…。

　俺は、倒れた彼に声すらかけられなかった。

　その、彼の絶望に濁った目を、見て…しまったから。

　―――――２０分後

　「…やっぱり…生きてる…」

　ん？さっきの人は？

　シンジはそのまま、のっそりとベットから起き上がった。

　「何とか…動けるかな？」

　そのまま医務室を後にする…。

　が

　バゴオオォォォォン！！

　巨大な音ともに立っている場が大きく揺れた。

　「グゥア！」

　まだ病みあがりのシンジは踏ん張りがきかずによろめく。

　「今の揺れは？地震か？」

　あてもなく、よろけつつ歩く。すると…

　「初号機…」

　格納庫である。そこには、紫色の甲冑を着込んだ鬼が片膝を床につけ、存在していた。

　「おぉー！お前はこいつに収まってた。」

　「あなたは？」

　「俺はこの、戦艦ナデシコの整備班長、ウリバタケ　セイヤだ。」

　「(戦艦？どういうことだ？今は２０１６年じゃないのか？)僕は、アカウミ　シンジといいます。助けて頂いたようですね。

　　ありがとうございます。」

　「いいってことよ。っとそれより、こいつは一体何なんだ？ついさっきまで石みてぇだったのに、戦闘が始まった途端に

　　いきなり紫色になって、独りでに動きやがった。」

　「戦闘？」

　「ああ。だがバッタでもジョロでもない、新型の赤いイカみてぇなデカイやつだ」

　「赤い、イカ？(まさか！)映像は？映像はないんですか？」

　「映像か？ほれ。」

　そう言うと、右手でモニターを指差す。

　「シャム…シェル…。なんで…。あの時確かに僕が…。」

　そう呟く。

　モニターには何か黒いロボットのような物が、シャムシェルの鞭を避けている様が映し出されている。

　瞬間、黒いロボットがブレードで一閃。

　だが、その一撃はシャムシェルには到達しない。何故なら、オレンジ色の壁に阻まれたためだ。

　「…Ａ.Ｔ．フィールド。」

　シンジにはそいつに攻撃が通じないことが判っていた。嫌というほど。実際に戦ったのだから。

　「で、結局こいつは一体…って。」

　ウリバタケがそう言いかけた所で、シンジはもう既に初号機に寄り、背から膣へと入っていた。

　「おい！まさか戦うきか？そいつは兵器なのか？おい！聞いてんのか！っち、しょうが無ぇ。おい、ハッチを開けろ。」

　初号機はそのまま開け放たれたハッチから飛び立つ。

　「死にたくない…。ただ…それだけなんだ…。」

　――――僕は……全てを…失った…。

　――――それでも…僕は…生きる…。

　時は交錯する。

　生きよう…

つづく(嘘）