―――混ざる……

 ―――交ざる……

 ―――雑ざる……

 ―――それは…必然か……

 ―――それとも…運命か……

 ―――答えは……何処か……

 

 

紫苑

〜生きる〜

第3 オモト

 

 

 

 ―――食堂。


 走り去っていったシンジを尻目に、ミナトは呟いた…。

 「あの子…凄く…哀しい目……。」

 と……。

 数分後に食堂に幾人かが昼食を求めて入ってきた。

 その中には艦長――ミスマル ユリカの姿もあった。

 「あら、艦長。」

 その姿を確認しミナトがユリカに声をかけた。

 「こんにちわ、ミナトさん。」

 いつも通りの礼節に溢れる態度に少しミナトは恐縮してしまう思いだった。

 それ程ユリカは丁寧で、また落ち着いていた雰囲気を持っていた。

 ――古来からの大和撫子と言うに相応しい程に…。

 

 

 

 

 ―――格納庫。


 走ってきた僕はずっとゼロ‐ワンを眺めていた……。

 硬く閉ざされたその体躯は……まるで……墓石のようだった……。

 ゴオォォォォウ!!

 突如、激しい揺れと耳を刺すような轟音が響き渡った。

 ――敵襲だった。

 僕の掌はじっとりと汗ばみ冷たい感覚が…僕の背を駆け巡っていった……。

 嫌な…物凄く…嫌な感じがした……。

 まるで……あの時のような……。

 

 その瞬間、ゼロ‐ワンが――


「ルオォォォォォォォォン!!」


 ――哭いた。

 正に慟哭…。総てを突き抜けるような強大なる音の塊……。

 そして…僕は理解した……何かが……来たということを……。

 

 

 

 ―――ブリッジ。


 ブリッジは大きな混乱に支配されていた。

 ――何故か?

 敵影などは全くレーダーに写っていなかったのだ……。

 にも関わらず今確かに敵の攻撃を受けていた。

 原因は解らなくとも確かに攻撃を受け……確かに……敵とおぼしきモノ……いやヒトがスクリーンに写っていた……。

 ただ、たんたんとユラリユラリと浮かび…男が…此方を見据えていた。

 そう……白銀の髪……紅色の瞳……2つの色がひどく強い印象を与える男が…。

 「メグミさん、艦内放送!!ミナトさん、急いで離れて下さい!!」

 突如、ユリカが声を荒げて指示を飛ばした。

 人が宇宙に浮き、あまつさえ攻撃をしかける…そんな有り得ない事に固まっていたクルー達は、ユリカの声で我に帰った。

 艦内放送が響き、ナデシコは後退した。

 正体不明。ただ得体が知れないだけならば戦えた…。

 が

 今回はあまりに超越していた…人の想像しえる範疇を……。

 だからこその退避…。それが最も適切な判断であり確実な方法でもあった。

 その事をユリカは即座に理解し行動に移した。

 態勢を立て直す必要がある……ユリカも、そしてアキトもそう考えた。

 そして誰もが宇宙に浮くヒトなど退避が1番だ…そう思った。

 ――否。

 たった一人…そう唯一人……逃げない者がいた…。

 

 

 

 アキトはスクリーンを眺め思考を繰り返していた。

 有り得ない筈の使徒、そして有り得ない宇宙に浮く敵……。

 その深く思考に沈んでいたアキトの耳を……強大な音の塊が――


「ルオォォォォォォォォン!!」


 ――突き抜けた。

 アキトはハッとすると大きく眼を見開きスクリーンの像を捉えた。

 「!!シンジ君……!!!」

 其処には、紫色の鬼神が…映っていた…。

 

 

 

 

 ―――ゼロ‐ワン内。


 ……カヲル君……だとでもいうのか……?

 …有り得ないことじゃない……現に…シャムシェルも……

 それでも……それでも……カヲル君は………ック!

 「ゼロ‐ワン、行くぞ!!」

 ――ゼロ-ワンが右拳を鋭く放つ。

 ビュウウウン!!

 ――刹那。其処にいた筈の男はもう既に其処にはいない。

 ――そして……。

 ズゴォォォォン!!

 ――橙色の閃光が、ゼロ-ワンの後方を捉えた。

 ック、馬鹿な!!ほんのゼロコンマ何秒の間に後ろに…早すぎる!!

 ――なおも閃光が走った。

 ――男の紅き瞳から一直線に光線が放たれる。

 ドゴォォォォン!!

 ――再びゼロ-ワンの背から炎が上がる……。

 ……また……またか……クソ!!

 「……ゼロ-ワン…プリムラクブレードを使う……出して……。」

 ビィシュウウウン!!!

 ――ゼロ‐ワンの肩口から柄だけの剣が飛び出す。

 ……どうする…?この状態で意識を集中させれば確実にあの世逝きだ……。

 クソッ!!…時間…時間が……欲しい……。

 「…シンジ君、時間ならば俺が稼ごう。」

 え!?

 ――突如、響いた声にシンジは顔を驚きに染める。

 「……アキトさん…ですか…?」

 「ああ。」

 ――確かに黒い機体がシンジの眼前には存在していた。

 ――が、何故そのアキトの声が聞こえるのか?

 「どうやって通信を……?」

 ――シンジは疑問を口にする。

 「さあな…。だが言えば通じる…そんな気がした……。」

 どういう事だ…? でも、時間が稼げるならばそれでいい……。

「…解りました。 お願いします…。 僕は暫く離れますので…30秒…それだけくれれば十分です。」

「ああ。 解った。」

――シンジは少しの距離だけ後退した。

「(30秒か…。 相手がA.T.フィールドを持っている以上は攻撃は不可能。 ならば……このエステバリス・ブラックカスタムのスピードで……) かき回す!

グオォォォォン!!

――アキト機が加速を付ける。

 

 

―――格納庫。


「な! 速すぎる!!」

スクリーンに映るアキト機を目にしウリバタケが声をあげる。

「あのバカ、リミッター外しやがったな! ただでさえあの機体は機動力を限界まであげてんのに!!」

 

 

―――ブリッジ。


「(アキトのあのスピード……まさか……)テンカワ機に通信を繋いで!」

「え!? は…はい!」

 

 

―――アキト機内。

ん? 通信か……? この忙しい時に……。

――そう今もなおアキトは鋭い加速をもって男の攻撃をかわしていた。

「何だ…?」

「アキト、あなた…リミッター外したわね?」

――ユリカが少し語気を荒げて言う。

「ああ、外したが……それがどうかしたか?」

――が、アキトはさも当然というように言葉を返す。

「アキトの機体はただでさえ加速を上げてるのにリミッター外したらGで死ぬわ…。」

「……死ぬ?……俺は死なないさ……。 まだ……まだ……約束を…はたしてないからな!」

――その総てを圧倒するかのような瞳に…ユリカは何も言わずに通信を切った…。

……すまない……ユリカ……。

――アキトにさらにGがかかりアキトは顔を歪める。

フン! 段々と昔に近づいてきた……なかなか心地いいじゃないか……。

――アキトは……笑っていた。

 

 

―――ゼロ‐ワン内。


後…少し……。

5…4…3…2…1…0!!

「アキトさん、離れて!!!」

――その掛け声にアキトは大きく横に動く。

――そして、柄の先に光が集う。

「逝けェェェーーーーーー」

 

ズギュウゥゥゥゥン!!!

 

プリムラクブレードが一直線に男に向かった。

プリムラクブレードが男に届くことは無かった。

 

そう……ゼロ‐ワンによく似た……紅き機体が……

 

行く手を…塞いだから…。

 

「……ゼロ‐ツウ……だと……。」

――シンジが声を捻るように呟く。

ック!ゼロ‐ツウのA.T.フィールドを重ねたのか……。

プリムラクブレードが通じない筈だ…。

そもそも、これは現実なのか……?

使徒……ゼロ-ツウ……一体何なんだ!

――ギリッ!とシンジは歯を軋ませる。

………ゼロ-ツウ……誰が乗っている……?

――シンジはゼロ-ツウに向かって通信を試みる。

「……誰が……誰が乗っている……?」

――暫しの沈黙が続く。

 

 

―――アキト機内。


アキトは酷く困惑していた。

ゼロ‐ワンによく似た機体の登場。 そして、男が急に攻撃を止めたこと。

総てが唐突で全く理解できなかった。

そんなアキトに出来る事はただこの事態を見守る事だけであった……。

 

 

――ゼロ‐ワン内。


「……答えろ……答えろ!!

シンジが怒声をあげる。 すると……

「五月蝿い男だ……。 こんなのが第一世代とはな……。」

――ついにゼロ-ツウの主から声が発せられた。

――冷たく好戦的な声…。

「何者だ……?」

――シンジが再び問い掛ける。

「フン! さあな! ………それより面白いことを始めよう……。」

ック! こいつ……一体……?

「…面白いこと……だと?」

「ああ……そうさ…面白い事だ……。」

――姿は見えなくてもこいつは笑っているそうシンジは感じとった。

………目覚めよ…!

――そう相手が言い放った瞬間……。

 

ギャウオォォォォ!!!

 

声の響くはずのない宇宙に…確かに……気持ちの悪い声が…木霊した…。

そして……白銀の髪…紅色の瞳を持っていた男は……

禍々しく肉を隆起させ、白き顔を顕にした…。

そう…シンジが……よく見知った姿へと変化したのだ……。

 

「……サキエル……だと…?」

 

……確かに……そこには……第三使徒……サキエルの姿が有った……。

 

 

―――何が正しいか……何が間違いか……

―――答えが出ないからこそ……

―――僕は…生きる……。

 

 

胎動…動きだす…

紅きモノが……禍々しきモノが……

ただ見守るモノ達と…

戦う男……

ただ観察するモノどもと…

その徒……

それは…

夢なのか……

現実なのか……

 

 

……………続 劇。