僕は…弱かった。
それでも…出来ることが…在った。
だから僕は…前を…向く。
The End of Evangelion After stories
With
それは、白き悪魔たちの突然の襲撃。
福音の名を冠する…白き…悪魔。
ソレは量産型エヴァンゲリオンと呼ばれるモノ。
ソレはおぞましき唇をつり上げ…攻撃する…紅き福音…エヴァンゲリオン弐号機を。
その時…弱き少年は…檻に入っていた…ココロが…心が折れそうだったから。
飛び交う銃声、飛び散る血煙、薫る鮮血。その中で2人の人間が駆けていた。
1人の女は、ただ速く駆け、1人の少年は、俯き手を引かれ、速く駆けた。
戦略自衛隊。それが、銃声の主であり、ここネルフに地獄を作り出した者でもある集団の名であった。
女、葛城ミサトは銃声の主たちを排除し終えると、少年の腕を強く掴んだ。
「さあ、このエレベーターでケイジに行けるわ。行きなさい。」
少年は動かない…
ミサトは掴んだ、少年の胸倉を。怒声と共に。
「甘ったれんじゃない!立ちなさい!立って精一杯生きて、それから死になさい!」
少年は答えない。
ミサトは少年の頬を手で挟み、顔を己の方に向けさせた。諭すような声と共に。
「逃げてもいいわ。そうしなくちゃ人は生きれないもの…心がつぶれてしまってね…」
少年は囁きにも似た声で呟いた。
「……じゃあ……逃げたいです。今…すぐに。この世界から…」
「でも…立ち向かわなきゃ行けない時だってあるのよ!歯を食いしばって、血を流して!」
「……ミサトさんは……また僕に戦えというんですか?」
「そうよ。あなたは今までも逃げずに戦ってきたじゃない!」
「そして、僕をまた傷つけるんですね。カヲル君を殺した時みたいに…」
「そうかもしれないわね。でも、あなたは生きている。あなたは彼を確かに殺したわ。彼が使徒だったにしろね。
その結果、傷をあなたは確かに負ったわ。でも、でもね、彼はあなたの友達じゃなかったの?
好きだったんじゃなかったの?彼は笑っていたでしょそれは何故だったの?」
それは、はっきりしすぎている事…。でも、認めたくなかったこと…。
「過去にしがみついていて、あなたはそれで良いかもしれない。でもね、たまには前を向きなさい。
あなたを望んでいる人がいるのよ。」
「(……望んで……いる?ダレが?ダレを?)」判りきっていたこと…でも、信じようとしなかったこと…
「彼の願いは何なの?とっくに判ってるくせに!いつまでそうして後ろを見ているつもりなの?」
そう……わかって…わかっていたこと…
少年は震えた声で問う。
「僕はずるくて、卑怯で、汚くて、穢れています。僕は傷つくのが怖かったから、1人になりたくはないから。
だから、逃げたかった。カヲル君を過去にしたくなかった。過去にすがりたかった。1人になりたくなかったから。
僕を見ていたのは、カヲル君だけだと思っていたから。だけど、だけど、ミサトさんは……僕を…僕のことを、
愛してくれるんですか?僕は1人じゃな」
少年の問いは……遮られた。突然の、ミサトの抱擁によって。強い、強い、抱擁によって。
「偽善だったかもしれない、それでも…私たちが過ごした時間は嘘ではないでしょ。あなたにとっても、私にとっても…。」
わかっていた…とうに…。でも、怖かった…拒絶されるのが…。そして、1人になることが。
「もう1人、家族がいるでしょ。あの子、あんまり遅いと怒るわよ。速く行きなさい。そして、また3人でご飯たべましょ。」
「そうですね。だから、だから行かなきゃ。」
「えぇ、行ってらっしゃい。」「いってきます。」
エレベーターのドアが2人を隔てる。その時ミサトは首のシルバーのクロスを、すばやく外すと笑顔で少年に手渡した。
そう、カヲルと呼ばれた少年と、同じような綺麗な、綺麗な笑顔で。
「これ、あげるわ。おまもりね。」
少年は受け取って、そして、理解してしまった。その瞬間、少年を乗せた箱舟は動き出した。
その箱舟の中、少年は声をあげ、そして、涙した。
何故なら、少年の白かったシャツには紅きシミが広がり…シルバーのクロスは紅く…そう、真っ赤に染まっていたから。
理解したのだ。自分の姉はもう、決して、戻っては来ないということを。『また』は存在しないことを。
それでも…それでも…男は行く。
それは…判ったから、姉と友は…自分を…生かすために、最期に…笑ったのだから。
少年は前を向き歩みだす。
紅き福音を…もう1人の家族である少女を…アスカを迎えに。
その時…蒼き少女は…少女の、壊れた容れモノを見ていた…それは自分が…ヒトではない証だから。
「約束の時だ。さあ、行こう。」
ゲンドウは少女、レイに告げる。
少女は無言で頷く。それが、少女の存在する意味だったはずだから。
男は対峙していた、紫色の福音と。
だがソレは、エヴァンゲリオン初号機は、固められていた。硬化ベークライトによって。
それでも、男は言葉を紡ぐ。俯くことも、振り向くことも辞めたから。
そう、ソレは決意。男の決意。
「母さん。僕はもう、嫌なんだ、全てから逃げるのも、何もやらずに逃げるのも。もう、ごめんなんだ!!」
その時…母は…歓喜した。
そして…母は…哭いた。
「ルオオオオオオオォォォォォォン」
硬化ベークライトを砕き、男を掴み取ると初号機は、男を自分の膣へと導いた。
そして…次の瞬間…光り…輝く…柱が…吹き上がった。
ソレは次第に型をかえ…煌く…光翼となった。
光翼を…たずさえ…今…男は…翔びたった。
「アスカーーーーーー」
「や…っと、来た…わ…ね。せっ…かく…だから、アンタにも…見せ場…あげ…るわ…」
「クッ、アスカもう喋るな!」
「ハ…ン…バ…カ…ンジ…の…せ…に…ナ…マ…キ…う…ん…じゃ…な…い…よ…」
言葉は途切れた。
「アスカ!アスカ!クッ、青葉さん、アスカを回収できませんか!」
唐突に名を呼ばれたオペレーター、青葉は驚いていた。自分の知る、少年の変化に。
「すまない…危険…すぎる。」
「わかりました。」
男はそう言うと、弐号機をすばやく後方に移動させた。
その時、白き悪魔の、槍が襲いかかる。
ブシュゥゥゥゥゥウ!!
「グワアァァァァーーーーーーーー」
槍は男を貫いた。それでも…
「グッ…ぶ…武器、あり…ませんか?」
男は揺るがない。それが男の、決意だから。
「すまん…プログナイフしか…」
「それで…いいです。出して…くだ…さい。」
「わかった。」
フイィイィィン、バシュ!
飛び出してきたナイフを握ると、男は白き悪魔に…
「アアアアァァァァーーーーーーー」
突進した。
ザクッ!!
刺さる。
ズバアッ!!
刺さる。
ズブゥウッ!!
また、刺さる。
赤き槍が…
「グワアァァァァーーーーーーーー」
男の叫びが再び響いた。男は倒れ、伏した。
それでも、起き上がり、男は行く。
「ウオォォォォォオーーーーーーー」
その時、3人のオペレータ、青葉と日向とマヤは涙していた。
それは、悔し涙。何も出来ない、自分に対する。
「クソッ。俺たちには、何も、何も出来ることがないのか…」
「いや、あるさ。」
そう言うと、青葉はモニターのある1点を見た。
そして、モニターを確認すると日向が立ち上がった。
それと同時に青葉も立ち上がった。そして…
「副司令、セカンドチルドレン救出の許可をいたたきたいのですが。」
傍観していた副司令、冬月にそう言った。
「(葛城三佐の死にもまったく動揺は見られない。自我は欠けていない…ということか。
このままでは、サードインパクトは起こらん。ならば…)いいだろう。許可する。」
「ありがとうございます。それでは…」
「わ、私も行きます。」
「だめだ。マヤちゃんはここに残って初号機のサポートをするんだ。」
「で、でも。」
「だめだ。」
「………わかり……ました。」
2人は走っていった。男が少しでも楽に戦えるように。
ズゴォォン!!
白き悪魔の振り上げられし槍が男を襲う。
「(速い!)くそ。」
刹那、男はナイフを眼前に移動、槍を受けとめる。
ガシイィィィン!!
刃がぶつかりあう。だが、それも長くは続かない。
バリイィィィン!!
ナイフが粉々に砕ける。男の肩口に振り下ろされる槍。しかし…
「!!!(み、見える。まるでスローモーションだ。)」
槍が肩にさしかかる前に、男は上体をずらす。
そして、次の瞬間。呟いた…
「色が…無くなった…。」
男の眼から…色が消え…音すら消えた。
無音の世界。男はモノクロの、スローモーションで繰り出される槍をたやすくよける。
そう、たやすく。
避ける。
避ける。
避ける!避ける!
「(行ける)ウオォォォォォオーーーーーーー」
懐に飛び込む。そして、右腕を無造作につきだす。
ドゴオォォォォン!!!
その瞬間…白き悪魔の…胴が…消えた…
2人の人間が発令所に走りこんできた。
「副司令、セカンドチルドレンの回収に成功しました。」
青葉と日向であった。その背にはアスカが乗せられている。
だが、マヤも冬月も答えない。何故なら、2人はモニターを見て震えていた。
そのモニターには、もはや残像でしかとられない程の速さで、白き悪魔の胴を消し飛ばす男が写っていた。
男は殴った。何度も、何度も。
殴るたびに、白き悪魔は千切れ、細切れになった。
発令所の面々は息を飲んだ、そのスピードと拳の威力に。
「(碇、お前の息子はどうやら私とお前の期待を裏切りそうだな。ヒトの可能性か…。信じるのも悪くないかもしれんな…。)」
「(す、凄い…。拳にピンポイントでA.T.フィールドを…。それも、強度は今までの50倍…。)」
「なあ、日向どうやら生き残れそうだな…。」
「ああ。でもあの速さと、威力は一体…。」
コツッ、コツッ、コツッ、コツ。
唐突に足音が響いた。4人が振り返ると、そこには…
「おそらく“ZONE”ね…。」
赤木リツコ。その人が居た。
「せ、先輩!!」
「(どういう事だ?赤木君は碇のところに行ったのではないのか?)あ、赤木君…碇は?」
あるものは喜色満面で、あるものは疑問に顔を強張らせた。
「わかりません…。私があそこで、気付くいた時には…。もう…。」
「そ、そうか。(一体どういう事だ、レイと碇はどうしたというのだ…)」
「で、マヤ?彼、何か言わなかった?こうなった時に。」
「は、はい。色が消えたって…。」
「やはり“ZONE”ね。しかもこれだけ長い間、維持するなんて…。ただの“ZONE”じゃない…異常だわ。」
「す、すいません。“ZONE”ってなんですか?」
日向が疑問を口にした。
「“ZONE”というのは簡単に言うと、極限に集中している状態のことを言うわ。人間が交通事故にあった時に全てが
スローモーションに見えたり、ほんの一握りのトップアスリートがボールやゴールなどの1つの事に集中して
無音無色の世界に入ったり…。」
そう言うとリツコはくるりと方向を変えモニターを見た。
白き悪魔の破片が辺りに散らばり、残りは3体となっていた。
男は今まさにその3体の内1体の眼前にまさしく目にもとまらない速さでで移動した。
「さらに、全てがスローに見えていれば、自分がいつも通り走っていると認識していても、比較の対象がスロー
だから自ずと自分のスピードは速くなるわ。それをエヴァでやれば元々人間の何倍もの身体能力のあるエヴァですもの、
当然こんな信じられない速さになるわ…。」
そう言い終えた時には既に3体は2体になり、その内1体に男が拳を突き出していた。
シュビュウゥゥゥゥゥゥン!
その音速に達する速さによりソニックブームが巻き起こった。
「そして、そのスピードにより拳の威力は増加し、ピンポイントのA.T.フィールドにより何十倍にもなっているわ。
しかもあのA.T.フィールド、肉眼であれだけはっきりと確認できるということは強度も相当のはずよ。マヤ?」
「は、はい。強度は50倍から上昇を続けてます。い、今の強度はきゅ、90倍です。こ、これ以上上昇を続けると観測も、
モニターもできなくなります。」
マヤが科白を言い終えると、モニターには
白き肉片の中で…男がただ…佇んでいた。
―――サードインパクトは起こらなかった。
全ての思惑から外れた約束の刻。
ソレをつくりだした男は何を見る?
物語は…まだ…始まらない。
……………To be continued.