The End of Evangelion After stories

                                  

With ‐伴に‐  story1 旅立ち:墓

 


 

 

 ――――2018年――――

 黒い石。その前に赤髪、蒼眼の少女――いや、女が独り佇んでいた。

 あの頃より少し伸びた背と魅力を増したカラダ。そして、肩口で切り揃えられたストレートヘアー。

 その全てが、彼女が女であることを匂わせていた。


 黒い石……


 ――――墓。


 刻まれる名……



 ――――Sinji Ikari.  ――――2001−2016


 女――アスカは墓地にくる前に、寄って来た花屋にて買った水仙の花を、そこに供えた。

 「ねえ?アンタ、何処行ったのよ?」

 アスカは問うた。

 その問いは、5月にしてはいささか強い風に、流され、そして消えていった。

 アスカはスクっと立ち上がると、墓地を後にした…。

 彼女の手には、酷く皺になった手紙が握りしめられていた。

 熱い雫が頬をただ静かに、流れ落ちていた…。

 

 

 

 ――――2016年――――

 冬月の指示は的確だった。世界にバラ撒く情報は、ある程度の真実を混ぜる事により

 ゼーレ――悪。   ネルフ――善。

 という構図が作られるまで、そう時間はかからなかった。

 その、冬月の目の前に、今や英雄とマスコミに祭り上げられた男――シンジが立っていた。

 「シンジ君、本当にいいのか?3年は帰れないぞ?」

 「いいんですよ。既に決めた事なんです。今は、今は逃げるべき時ではないんです。」

 「そうか…。ところでシンジ君、君の父親のことなんだが…。」

 「……死んだんですか?」

 「いや、それは正直解らない。しかし、MAGIで世界中を探しても見つからない以上…おそらく…。」

 「…そう…ですか…。」

 シンジは何ともいえない複雑な表情を作ると、なんとなく気まずくなりドアに向かった。

 が

 「待ちたまえ。君に渡したいモノがある。」

 再び冬月の前に歩み寄る。

 

 「これを持っていきなさい。」

 そう告げると、1本の銃を取り出した。

 シンジは銃を見ると、手にとり少し眺めると、懐に入れた。

 「ソレは君が持つべきだろう?」

 えぇ、と頷くとシンジは部屋を後にした。

 ―――M.K.

 そう刻まれた銃を持って。

 

 

 窓が少し開け放たれ、風が入り込む真白な個室。

 アスカの病室である。

 シンジが中に入ると、アスカはスースーと寝息を立てていた。

 それもしょうがない、シンジはそう思った。

 何故かは解らないが地軸が元に戻った。そのせいで永久の夏は終りを告げ、今は春。

 ポカポカした陽気と穏やかな風が、睡魔を呼び起こすのだ。

 シンジはしばらく、アスカの顔を見つめていた。

 アスカは元気そのものだった。体のいたる所にフィードバックによる傷がある以外は…

 医者の話しだと、あと9日ほどすれば退院できるらしい。

 僕はそのまま立ち上がると、病室を静かに後にした。

 

 

 「やはり、予想どうりか…」

 副司令が私の報告書に、そう返した。

 「はい。アスカはドイツ支部により、マインドコントロールを懸けられています。」

 そう、アスカはマインドコントロールを懸けられていた。最近のカウンセリングで、明らかとなったことだ。

 それにより、彼女の意識の奥底には他人に対する強い優越感と支配欲や、エヴァへの固執を生み出されていた。

 ―――最も命を弄んだり、似たようなことをやってきた私が言えたコトではないけど…。

 「ふむ。治療は可能かね?」

 「いえ。おそらく無理かと…。」

 「何故だね?」

 「余にも意識の深いところまで浸透しているので、もう本来の人格と混ざっています。」

 「…そうか。」

 「しかし、問題は無いと思われます。」

 「それこそ、何故かね?」

 「統一された意識はどうやら、いい方に向いているようです。」

 「それはやはり『彼』のおかげかね。」

 「えぇ。おそらく。」

 許してもらうつもりはなかった。それでも彼は私に本当の微笑みを向けてくれる。

 彼が行ってから、アスカが何と言うかが楽しみだ。

 少しだけアナタの気持ちが解るようになったわ――ミサト、確かにあの2人は見ていて飽きないわ。

 逝ってしまった親友の言葉を思い出し――笑った。

 

 

 

 「フゥゥゥウ。」

 冷たいシャワーで寝汗を流した。

 今日は出発の日だ。

 軽く朝食を食べると、紅茶をいれて一息ついた。

 誰かが迎えに来てくれるらしいが、一体誰だろう?

 リツコさんもマヤさんも忙しくて、猫の手も借りたいって言ってたし。森谷さんも今日は忙しいって言ってたしなあ。

 あとは来るとしたら誰かな?

 ………ミサトさん―――その顔が浮かんできてしまった。

 

 ミサトさんは助からなかった。というより、発見されなかった。

 でも、あの出血だ。おそらく死んだだろう。

 泣きそうになるのを必死に堪えた…。

 やっぱり僕は弱いままなのかも知れない…。

 キィキィィィーーー

 どうやら迎えが来たようだ。僅かにこぼれた涙を拭い、荷物を持って外に出た。

 次の瞬間、僕は信じられない人を見た。

 多分、車から出てくる人物を見て、僕の目は大きく見開かれていただろう。

 その人は車を下り、僕の前まで来ていた。

 気付くと、僕はその人を思いっきりブン殴っていた。

 今はそのニヤケた顔がどうしようもなく、腹立たしかった。

 殴った。何度も、何度も、何度も。

 加持さんは…黙って僕に殴られていた。

 

 

 人間、慣れっていうものは恐ろしいと私は痛感していた。

 美味しくないのだ――病院食が。すっかりとシンジの料理に舌が慣れてしまったらしい。

 「ハァーア。速く退院したいなぁー。」

 アッ!そういえばシンジがこの前作ってきたケーキ、まだ冷蔵庫にあった筈。

 冷蔵庫をおもむろに開けると、少し大きめのシフォンケーキが入っている。

 私はケーキを切ろうと思って、包丁の入った棚を開けた。

 そこには、シンジが置いていった穴あき包丁と、見知らぬ封筒が入っていた。

 「あれ?何かしら、この封筒。」

 包丁を一旦おいてペーパーナイフで封筒の口を開けると、光る銀色のモノが落ちてきた。

 それは、ミサトの銀のクロスだった。

 これはシンジが持ってるはず。どうして?ん?中に何か紙が…

 封筒に入っている紙を取り出し、それを見たアスカは驚愕に目を見開きすぐさま立ち上がると、病室を後にした。

 From Sinji

    ミサトさんの形見の2つ有るうち、片方は僕が持っていくので

    片方はアスカが持っていてください。

                              To Asuka

 それが手紙の内容だった。

 何でもないような手紙。しかし、アスカは『持って“いく”』の文字を見逃さなかった。

 

 

 「ミサトさんが、アスカが、支えて欲しかった時に居なかったくせに、よくのうのうと出て来られますね。」

 シンジ君は静かに、冷涼な殺気を込めて俺にそう言った。

 「その時は、俺は怪我を負い病院にいた…。」

 「それは言い訳でしかない。あなたの本心を聞かせて欲しい。」

 『本心』か。強くなったなシンジ君も。なら…

 「人間は思いを捨てて生きていく。そういうことだよ…」

 シンジ君は怒って……いないな。

 「あなたは僕にとっても大切な人だ。だが、二度とそんな事は言うな!…それにあなたがそんな人でないことは

  それを見れば解る…。」

 そう言ったシンジの視線は加持の強く握り締め、紅いモノがつたう拳に向けられていた…。

 事実、加持は瀕死の重傷にも関わらず、戦自との戦いの際にネルフに来ていたが、手負いでその上5人に囲まれては

 その道では世界のトップクラスに位置する加持といえど、逃げるだけで精一杯だったし、その後は気を失っていた。

 そして、ミサトが死んだらしいという事を聞いたとき、滅多に見せない涙を人前に晒し、1晩中ずっと涙を流していた。

 無論、それらも所詮は加持にとって言い訳なのだ。だからこそ、シンジに黙って殴られたのだ。

 俺とした事が…シンジ君のあまりの威圧感で、血の事をまったく気にしていなかった…。

 それにしてもこの若いみそらで、この威圧感。まさしく司令の息子だな。

 まったく末恐ろしい…。

 「……時間が余りありません。行きましょう。」

 「ああ。」

 シンジ君が顔を和らげ言った。確かに時間があまりないな。

 これは、葛城なみの運転をする必要がある。

 逝ってしまった想い人の運転を思い出し――笑った。

 

 

 

 アスカはまず、情報を求めてリツコの元に行った。

 プシュュューウ

 ドアが開けられるとそこには、せかせかと働くリツコの姿があった。

 「アスカ!あなたどうして?重傷じゃないにしても、動けばは治る物も治らないわよ!」

 「シンジは?」

 「…何の事?」

 「シラを切っても無駄よ!」

 「(フゥー。しょうがないわね。)…シンジ君は今ごろ空港よ…。」

 「どういうこと!どこ行くってのよ!」

 「留学よ。表向きはね…。」

 「表向き?」

 「えぇ。本当は各支部への牽制ね。なにせここには今まで、2人のチル「リツコ。お願い、つれてって。」が居たんだから。」

 「まだ解らないの?彼はあなたのために行くのよ。支部がうるさいのよ、チルドレンを寄越せってね。ネルフに戦力を

  集中させたくないのよ。解るでしょ?」

 「…わかる…けど…。でも!」

 「解ったわ。来なさい。間に合うかは解らないわよ?」

 私も変わったわ。とごちた。

 と同時に、『もう1つ本当の目的は在るけど。』と心で呟いた。

 

 

 その後は空港に行って、とりあえずシンジを一発叩いて送り出した。

 それと、どうやらシンジの留学は極秘あつかいで、世界にはもう戦いで死んだ事にしたらしい。

 なんでもその方が、アイツを狙う奴も減るだろうって事らしい。

 生きている人間の葬式をして、墓を作るのはおかしいと思ったけど、世界を騙すために徹底的にやるのは、

 やっぱり仕方がないだろうし、アイツが生きてるのは私は知ってるからいいと思っていた。

 ―――あの日までは

 

 

 旅立った男は何を想う?

 見送った女は何を想う?

 

 そして未だ現れない1人の女と1人の男。

 来る日はいつか?

 交わりし時はいつか?

 全てのピースは未だ…揃わない。

 

 

 

……………To be continued.