許す……

 それは…生きている…こと

 喜び……

 それは…交わり……

 


 

The End of Evangelion After stories

                                  

With ‐伴に‐  story3 集束:収束

 


 

 

 柔らかな、一陣の春風が吹き抜ける。

 花びらが舞い、華やかな薫りが辺りに香る。

 穏やかな日の光が注ぎ、陽気を与える。

 和やかな、春。

 

 そんな春の穏やかさを享受できていない人間が居る。

 それが、惣流アスカ、その人である。何故ならたった今、彼女は非常に不機嫌で、春を感じる余裕などは無かった。

 原因はそう、アスカの前方の席に座る銀髪の男と、左の席に座る紫髪の女である。

 どうして転校生2人が、揃いも揃って自分のクラスで、それも自分の近くの席か?

 いや、むしろそれはどうでもよいのだ。

 その2人が、元使徒――渚カヲルと、予想不可の義妹――ハイナ・ラングレーであることが問題であった。

 カヲルはリツコの綿密な検査の結果、人との遺伝子の一致率は100%。つまり、正真正銘の人であった。

 ―――よって『元』使徒(アスカ命名)

 ハイナは義母の連れ子であるが、両親の離婚で父に引き取られる筈が、何故か義母にくっ付いてきてしまった。

 ―――よって『予想不可』の義妹(アスカ命名)

 

 ちなみに、アスカは日本へ帰化する際に惣流の姓でいることを強行に主張し、既に義母とも父とも戸籍上は他人である。

 

 

 「貴方は何故、生きているのかしら?自由天使ダブリスさん?」

 極上の皮肉を持ってリツコはカヲルにそう問う。

 カヲルのナミダで彼を信用しきった訳ではない。ただ、検査により彼が人間であることがハッキリとし

 彼が他の17歳の少年と何ら変わりない、ということがハッキリとしたためこのような態度をとれるのだ…。

 もしも彼がA.T.フィールドを自在に操るままであったなら、このような態度はとれない。

 最も、『何ら変わりない』というには少々、語弊がある。何故ならカヲルの髪は銀色であり肌は真白なのだから…。

 「簡単なことですよ、赤木リツコ博士。僕のコアもS2も全てはヒトの脳に当たる部分にあった……。首を切断しただけでは

  死にませんよ……。それに、貴方はよく知っている筈だ。貴方達が使徒と呼ぶ僕らの復元能力を……。最も、

  LCLの中だった所為で復元に時間が掛かりましたがね……。」

 「つまり、ずっとあそこのLCLの中に居た、ということかしら…?」

 『あそこ』とは無論、ヘブンズドア内の白き巨人のお膝元のことである。

 「ええ、その通りです。」

 リツコは暫し考え、口を開いた。

 「…………やはり、あの時のあの声は貴方だったのね……。」

 カヲルは答えない……。いや、答えてはいた、極々小さな声で…。

 「……僕……?……いや……リリス…そして………ソウル……。」

 カヲルの呟きはリツコに届く事はなく、誰にも聞かれはし無かった……。

 ―――否。

 聴いていたモノはいた……。

 

 結局、カヲルはネルフに敵対する気も、するだけの能力ないものとして、再びフィフスチルドレンとして登録された……。

 ―――これが、3日前。

 

 

 「お久しぶりアスカ。」

 「始めまして、アスカお姉さま。」

 アスカの義母と義妹――ハイナである。

 義母の軽い物言い。それにアスカは疑問を覚える。

 ―――義母はこんな人だったろうか?と

 過去に見た義母はもっと棘々しく、辛辣。そして、冷たさを感じた。

 ―――筈なのに、この軽さと柔らかさはどうしたことか?と

 それに初めて会った義妹に『お姉さま』と呼ばれるのは少々むず痒かった。

 そもそも、ハイナは同い年であり、聞いたところ誕生日もハイナの方が早いのに『お姉さま』とはどういうことだろう?

 『お姉さまのほうが見た目が、年老いていらっしゃいますし。』だそうだ。

 笑顔で言っている分、褒め言葉か貶しているのか判断がつきかねる。

 

 アスカはこれからの生活に軽い眩暈を感じていた。

 ―――これも、3日前。

 

 

 シンジのこともあってカヲルは信用できないし、義妹のハイナは何を考えているかわからないし……。

 アスカとしては、とりあえず2人には他のクラス、いや、遠い席になって欲しかったのだが……。

 誰が策略を巡らせたかは謎であるが、見事に至近距離である。たまったものではない。

 ―――しかも、家に帰れば未だに、まともに話せない義母が 手薬煉てぐすねを引いて待っている。

 「ハア〜。」

 溜め息も出る。3日前から、いいことが全くと言っていいほど無い。

 アスカに幸あれ……。

 

 

 

 ―――東シナ海上。

 波に揺られ、妙な流線型の物体がプカプカ浮いている。

 「で?燃料切れですか?どうするんですか?ここから1番近い島まで300キロ以上ありますけど?」

 やや、語尾を強めてあきれ口調で若い男が金髪の男に問い掛ける。

 「フン、簡単なことだ!お前は泳ぐ、俺は寝て待つ!これで万事オッケーだ。」

 「ホ〜、いい身分ですね〜。」

 「そういうことだ。解ったらとっとと得意の犬掻きで300キロ泳いどけ!」

 「……いいつけますよ。」ボソッ

 「よし!元気に泳ぐぞ!ホレ、急がねえと置いてくぞ。」

 金髪の男が手招きをする。なかなかイイ性格をしている。

 

 ―――1時間後、沖縄県、久米島

 ザバアァー

 2人の男が海から這い出てきた。

 言うまでもなくさっきの2人である。

 「……なあ、思ったんだけどよ〜、お前の風を使えばすぐだったんじゃねえか?」

 若い方の男は押し黙る。

 「なあ〜、聞いてんのか?」

 「人は思いを捨てて生きていくものです。(ニコッ)」

 「てめ〜『ニコッ』ってな〜。」

 金髪の男の額に筋が走る。

 「しっかし、沖縄は熱いですね〜」

 が、若い男は遥か遠くで沖縄の風を感じていた。

 人、これを現実逃避と呼ぶ。

 「オイ、コラ!誰の所為でこんな苦労したと思ってんだよ!」

 「何ですか!元はと言えばアナタがとっとと考え付かないのが悪いでしょう!」

 そのまま5秒間にらみ合い……

 ……7秒後―――殴り合い

 ……1分後―――武器の使用開始

 ……4分後―――仕合い

 ……5分後―――死合い

 ……7分後―――若い男、ダウン

 そして、2人はまたしても時間を無駄にした。

 どうやら、彼らに学習能力は備わっていないようだ。

 

 「「フー、フー、フー……。」」

 その後、肩で息をしながら2人が病院に入っていくのを、地元島民サエ婆さん(105歳)が目撃した。

 沖縄県民が長寿なのは今も昔も変わらないようだ。

 

 ―――で、病院内

 「24号室………ここだ……」

 若い男は、部屋を確認すると1人で中に入っていった。

 ちなみに金髪の男は「アナタが入って騒いで傷が重くなるのは目に見えていますから」の1言で入室不可である。

 ガラガラッ

 ドアの開く音と伴に男が真白な病室へと入ってきた。

 病室内は綺麗に整頓され、開け放たれた窓から熱風が吹き込み、カーテンは揺らいでいた。

 そして、ベットの上では女が寝息を立てている。

 

 その穏やかな部屋を背景に、男は女の寝顔に暫し見入っていた。

 

 数分後に女の瞳がじょじょに顕になっていき………瞳が完全に開く。

 女の瞳には男の顔が、眠気眼のためかぼんやりと写っていた。

 

 が、その穏やかな光を宿す黒眼が……柔らかで全てを被う雰囲気が……

 彼女の顔を歓喜に染め……そして……彼女は……言の葉を紡ぐ…。

 

 「……しん……じ……?」

 

 「やっと逢えたね……マナ…。」

     

 

 ―――2人の1年振りの再会だった

 

 

 

 そのころ、病院の外では金髪の男が木陰で午睡を楽しんでいた。

 「……ン…?……ッチ……。騒ぎすぎたか……?」

 そう言ってスッと立ち上がると、僅かに殺気を込め言葉を放る。

 「…出ろよ。死にたいのか…?」

 さっきまでとはうって変わった冷たい声、凍りついた瞳、冷徹な表情…。

 

 ブウゥゥン

 ―――殺気が拡がり、辺りの空気が一変する。

 

 すると、5人ほどの黒いスーツを纏った男が現れた。

 「……去れ。貴様に用は無い。」

 その内のリーダー格らしい男が言う。

 「生憎だがなあ、そっちが無かろうとこっちはあるんだよ。…………どおーせシンジだろ。」

 「……それがどうした。……退け。……死にたくはなかろう…?」

 「お〜お〜、過激だな〜。」

 「……ッチ。……やれ!」

 バッ!!

 4人の黒服が金髪の男に飛び掛る。

 「ハ〜、やだね〜野蛮人は………しょうがない…………」

 声の質が変化する。より、冷たく…。より、冷酷に……。

 「………土に……かえれ。

 

 シュッ!!

 ―――鋭い風切音。

 

 ブチブチブチ!!

 ―――肉が千切れる嫌な音が響く…。

 

 瞬間、4人の黒服は声をだすヒマもなく、原型を残さず……四散した

 「……貴様、一体……(いや、待て。金髪でこの腕の冴え……)……Golden Erasure……だな?」

 「ほ〜、よく知ってるな。」

 「(…Golden Erasureは拐をエモノとする筈……。だが、拐の姿はない。……勝てる。)」

 「だがな、俺はその名を呼ばれるのが大嫌いでな……。」

 「死ねぇぇぇーー

 バゥン!!

 ―――残った1人の黒服が銃を放つ。

 「でだ、呼んだやつはとりあえず…………死刑。」

 

 シュッ!!シュッ!!

 ―――再び、風切音が響く。

 

 バリイィィン!! ブシュウゥゥ!!

 

 銃弾のが砕ける音と同時に、血が飛び散り…黒服の体は……散らばった

 「覚えときな。俺の名は世音ぜおん、Golden Erasureじゃないんだよ。」

 ピリリリリーー

 突如、電子音が鳴り響く。

 「(っち!せっかく渋く決めてたのによ……)誰だ?」

 どうやらゼオンの衛星携帯電話の音だったようである。

 『私よ。』

 ビクッ!「(ゲェ!シンジのやつ言ったんじゃないだろうな)……ど、どうした?」

 『何、ビクついてんのよ。』

 ドキッ!「(クッ!相変わらず勘のイイ女だ)……いや、別に…。」

 『まあいいわ…。ところで、一体どういう事なの?』

 「何がだよ?」

 『“K”よ。北海道になんか居ないじゃない。』

 「何?!んなバカな!!」

 『と・に・か・く、“K”がここに居ない以上、ここに長居するつもりはないわ。』

 「……そうか、解った。なら、第三に向かってくれ。……ああ…そうだ。……ああ、頼んだぞ…。」

 ピッ

 「フウー、どうやらシンジは言ってねえようだ。」

 電話を切ると安堵の溜め息を漏らし、再び木陰に寝転がる。…そして、呟く。

 「…………………コードネーム“K”……カエン………どこに消えた……。」

 

 

―――再び、病院内。

 シンジの胸で、マナは泣いていた。二度と逢えはしないと思っていた。

 スパイとして騙し、その後、また騙した……。

 その影で幾らなみだし、悔いても駄目だと思っていた……。

 

 

 ネルフが裏で働きかけた事もあり、戦自はネルフ進行の責を取り大幅に縮小した……。

 戦自の者達はある者はネルフへと籍を移し、ある者はまともな職へとつき、極少数の過激派は戦自の利権を再び拡大するべく

 戦自を離れる事はなかった…。

 行くあても身よりも無く、蓄えも全く無いマナは戦自に残る他に道は残されてはいなかった……。

 その過激派により、2017年にある作戦が行われた……。

 その作戦はシンジとマナの刻を再び寄り合わせ、繋いでいった。

 

 『……マナ……君は生きなきゃ………ダメだ……。』

 

 ごうごうと滾る戦火。

 マナに示される…二律背反の道……マナが選んだのは……生であり、シンジではなかった……。

 マナは泪した……後悔は…遅すぎた……。

 何もかもが遅すぎた……失った物の大きさにただなみだした……。

 

 

 「…生きていて…良かった…。」

 シンジが微笑む。

 もしもシンジにもう1度逢えたなら、まず許しを乞おうと思っていた。

 が

 許しを乞う前に、シンジの微笑が『君が生きていれば、それでいいよ……』そう言っているようだった…。

 嬉しかった……シンジの笑顔と優しい声に、再び出会えたことが…幸せだった……。

 毎日、見たあの日の悪夢も…今日は見ないで寝れそうだ……そうシンジの胸で、ただただ頬を濡らした。

 部屋に入る熱い風も気にはならなかった。

 

 

 

 ―――2時間後

 「…第三か…。久しぶりだな……。」

 第三新東京に降り立ったシンジの第一声である。

 結局、マナとはあまりの遅さに痺れを切らしたゼオンが、様子を見に来るまでずっと抱き合っていた。

 その後、さっさとマナの退院手続きを行い、ゼオンが燃料をなんとか補給した、Sound'z移動本部『orchestral 』

 こうして第三新東京までマナと(おまけにゼオンと)一緒にやって来た。

 

 

 

 ―――そのころ、久米島。

 「……………」

 1人の、全身を白の衣で覆った黒髪の男が、ゼオンによって千切られた肉片を、ジッと見ていた。

 「………役立たずが…」

 ブンッ!

 男が呟きと共に勢いよく、腕を振り上げる。

 一瞬。

 そのたった一瞬で忽然と、肉片は血の一滴も残さず……消失した

 再び、男が囁き……

 「……第三………。」

 忽然と姿を消した……。

 その顔は、確かに笑っていた。

 

 

 

 再び交わる、2つの色

 暗躍する、闇のかたち……

 うごく者たち…

 つぶやく者たち…

 そして、仇なす咎人たち…

 全ては…1つにシュウソクしていく…

 

 

……………To be continued.