そは もっとも つよき もの。
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確かに彼我には圧倒的な差があった。しかし、越えられぬ、破壊できぬ壁ではなかった。
ならば、何故、自分は膝をついているのか。
「まだ……ダメってことなのかい」
「違う、違うな、カヲル=ナギサ。どちらにせよ、お前は俺には勝てないよ」
ばちんと宵色の翼が打ち鳴らされた。凝集する闇が色を濃くし、翼に集束し、その大きさを拡大していく。
「お前には覚悟が足りないんだよ、人間初心者」
全長5メートルほどに成長した翼をもって、徐々に再び上昇する。
「だから、そう、後悔して負けておけ。お前は、それでもう1つ上へと行ける。バット、無論、それでも俺はお前に殺されてやれはしないがね。俺は――俺がもし殺されるのならば、殺されてやるのはサガの弟子だと決めている」
翼がしなり、たわみ、ひずむ。
表面と内面に同時に更に闇が――逆光子が集う。闇の光源が集って生まれるのはマイナス熱量。触れれば溶ける極上の氷炎の如く、灼けるような冷たさで全てを終わらせる、ヴァンパイアの熱量放射。
「失え――最暗点跡・朝日影」
『朝日の光』という意味を持ちながら、影を含むその言葉が持つ心理は即ち1つ。光無くば闇はない――故に、闇無くば光はないという概念は世界に対して許される。
放たれた闇が、光を切り裂く。否、光の存在する場を、光の存在し得ない場へと変革していく。
一瞬の、貫き。
カヲルの肩を、脚を、胴を闇が穿った。
現れる変化は単純。凍れる沸騰、だ。
熱くはない、だが、闇が在る以上光も在り、それは熱い筈だ。訪れる概念としての熱と、存在しない熱との鬩ぎ合い。現れる結果は、一瞬の乾燥。全ての血と水分を奪い尽くしながら、炭化が訪れることはない、凍れる沸騰。
「吸血コンプリート。出力は6割減、だ。手加減されたと刻んで、沈め」
ミイラと化した自己の四肢を見ながら、カヲルの意識は闇に溶けていく。
失った血潮/水分/勝利者の資格を、噛み締めながら。
ああ、と。
僕はきっと、失へば失うほど強くなれるのだ、と。
「僕は、失いたくないから、きっと、抗うんだ」
僕はきっと、ヒトへなろうと思った時、何に焦がれたか、と。
「きっと、シンジ君と同じ――誰かに、……必要とされたくて」
意識が飛んだ。
ゆっくりと崩れ落ちる。
「……あまり勝った気がしないね。さて、」
翼を収縮しつつ、懐から通信機を取り出す。
「おい、戦端は開いた――具体的には、1匹ボコった。こいつは、フィフスチルドレンは俺が熨斗つけて返してくるから、それまでには来い。乗り遅れんぞ――パーティーによ」
意識を失っているカヲルを肩に乗せる。
こうすれば勝手に見つけてくれる筈だ。そもそも、カヲルは自分を狙ってきた。ならば、その成功/失敗に関わらず監視に類するものがついているに決まっている。
だから、
「おい、連れて行けよ」
ず、と影を引き伸ばし、建物の影に合一させた。気配が震えた感覚。
人が動かない限り影が動かないならば、影が動いたほうに人は動く。
「エクセレント。これがイマジネーション。これが概念。さあ、早く……!」
アーガスの影に引かれるように、人影が躍り出た。
片足だけ縄に強引に引っ張られるように、地面に体を擦りつけながらだ。
「アンタ、ホント、勝手だな!びっくりするわ!」
「そんな情けない格好で出てきて怒鳴られてもな」
「連れてとか行かないよ?!俺、下っ端だし!」
同時、残響が鳴り渡る。
音源は剣と、闇色の楯だ。
剣は下っ端の胸から、密集した逆光子はアーガスの胸の前に楯として展開されている。
「げ」
「味なことを」
舌打ちを1つ。
右手を掲げつつ、アーガスは闇色の球体を放った。逆光子の圧縮物体が糸を引くように下っ端に向かう。
その塊に向けて、剣が再び突き刺さる。それと同タイミングで、アーガスと下っ端を繋ぐ影の中心に剣が突き立った。
自然、影は途切れる、塊は砕ける。
「要は、こうだ」
拘束がなくなった瞬間、蹴りを放つ。つま先からは剣。アーガスの肩口から先がスッパリと切れた。
腕と一緒に落ちてくるカヲルを受け止め、3歩ほど後ろへ下がる。地上へ落ちた腕はガラスのように砕けて散った。
ほう、とアーガスが感心したように息を1つ。
「……名前を聴こうか」
「俺みたいな木っ端に記憶容量使うもんじゃないぜ。つーか、何、『名前を聴こう』とか、アレですか、カッコイイと思ってますかー?! 大体、弱っちい俺の個人情報聴いてどうしよってんだ。脅迫?脅迫ですかー?こっえ!こっええの!」
「お前のような人間が1番恐ろしい。俺の体を切り裂いておいて、その態度はバッドだ」
さらに3歩下がる。
「さっきのは偶然。偶然でっす」
「ならば、何故距離をとる。気づいているな――俺の《limit》に」
逆光子の生成量限界に、カヲルとの闘いと朝日影で到達していることにだ。もう本気で逃げられれば、その距離を詰められる程の逆光子は生成できない。
「あーもー、ホント面倒だな、あんた」
「別に影を縛らなくてもいいなら、攻撃の方法は余るほどあるんだが」
言って翼を広げる。
「そうしないのは、どこに行けばいいのか、そして、お前の名は何かを聴くためだ」
「本部は教えらんね。でも、隊長さんをボコったんだ、イヤでもアンタの元に俺よりお強いボコり専門の筋肉バカどもがくるから万事安心だ。名前はユキヤ=ホウショウ。ジャップだ、コノヤロー」
やけっぱちに、逃げるように走り去った。
「下っ端だと――バカめ」
言いつつ、膝をつく。
バラバラ、だ。膝をついて衝撃で皮一枚分繋がっていたのが千切れたように、アーガスの体がバラバラに崩れ落ちていく。切断面から血は流れ落ちず、アーガスであったパーツはガラスのように地面へ落ちつつ砕けて消える。
肩口で飽き足らず、刹那の間に全身を切り刻まれた。
「存在が、不味い、維持が……」
気合で体を繋ぎとめる。
薄氷の勝利だった。強がってもしょうがない。カヲルは確かに強かった。ただ、
「俺の覚悟の方が上だったな」
薄く笑い、体を起こす。死んでやるわけにはいかない。
+++++++++++
「Odin!」
サガの力が狼煙の如く具現。
虹色の光が、噴き出るように一直線に立ち昇って周囲に溶け行く。まるで7色の槍が宙を貫くように、膨張した《color》が縦横無尽に棘を成して膜を成して壁を成して力と成す。
世界をくつがえす、極北の王の数多の名が、暴威を放つ。
久しぶりに聴いた声に、複雑に顔を歪めながらシンジは魔刃・紫鬼の闇色の柄をそっと握り込んだ。同時にサガに倣って自らも威を、世界に事象という鉄槌を振り下ろす引き金を――《word》を解き放つ。
「斬!」
銀色の《color》とともに、赤い刃状のエネルギーがシンジの周囲を埋めていく。
今、斬り結ぶ。
紫鬼で、《斬》で、自らが越えるべき相手と、威を結ぶ。
先に動きを見せたのはシンジだ。明らかな格上相手に様子見もクソもない。自分の最大限の力を力を持って挑むのみ。即ち、赤刃を全弾射出しつつの、蹴り上げをプラスした全力全開の逆風。
これも初号機との闘いで学んだことだ。シンジの筋量が不足しているわけではない、むしろ身長や骨格を考えれば高レベルで纏まった肉体といえる。しかし、ある程度の相手ならば紫鬼の切れ味と威力のみで十分だが、ある程度以上が相手ならばパワーが欲しい。故に体術の威力を加えた剣撃は有効だ。
待ち受けて放つのならばともかく、動きつつ逆風に蹴り上げを合わせるのはあまりにも高度。練習すらしていない、ぶっつけ本番の技術だ。それでも自信があった。
それは単純な慣れ。自己の内面という非現実世界における身体の操作に対する慣れだ。願えば叶うわけではないが、現実でないだけあって研ぎ澄まされた動きが可能なのもまた事実。そうでなければ、初号機とあれ程やりあえはしなかった筈だ、と。
赤い絨毯が敷かれていくような赤刃の軌跡。
その奔流に身を任せ、紫鬼を切り上げつつ峰に超高速で蹴りを叩き込む。
上からは隙間のない熱エネルギーの大群、下からはかつてない高速の一刀。
対応するサガは、
「――楯を振り回す者」
たった一言、神名を振りかざした。
事象が展開。
楯を――防具を振り回すという概念が、世界に意味を成し、実像を帯びた。実像は、全てを振り砕くという結果として、結ばれる。防護の概念が爆発的な威を持って、シンジの意を粉砕した瞬間だった。
弾かれたように後方へと吹き飛ばされる。
空中で体勢を立て直しつつ、赤刃を飛ばした。
突破口を見つけるためには間断なく攻撃するしかない。
「軍勢の王――戦士の父」
戦乙女の主・勇者の魂の父としての権能が爆発した。
軍勢という概念が怒涛の如く周囲を覆い尽くし、赤刃を割り砕く。
次いで、更なる力を呼び込む。
「軍勢の名で快く感じる者!」
周囲を巡るエインヘリャルとワルキュールの軍影に力を注ぎ、軍勢がサガに力を与える。軍の中央に座す者を鼓舞する、従者の概念――!サガの闘気と殺気が明らかに増す。物理的な威力を越え、うかつに近づけばそれだけで死へと導かれる程に強固な力が放射される。
かつて、神名の使用を制限しつつアーガスと雌雄を決した時とは違う。
最早、サガを中心に強力な力場が形成されていた。それは1つの世界と言っても過言ではあるまい。
「馬に乗って突進する者、鴉神、戦の狼――!」
加わる威影。
激駆する神馬=滑動。見下す神鴉=思考・記憶。渇望する神狼=貪るもの・飢えるもの。
数多の神獣と神の軍影を従え中央に座すその光景は、まさにヴァルハラ宮殿。
これが全力――宙樹天を統べ、全天座に座す極北の最高神=オーディンを体現する、サガの力だ。
ぐらりとシンジの体が傾ぐ。
サガの形成する場自体が、既に力。他者を制圧する主神の圧倒的な格となみなみと注がれた殺気の流動。存在のみで人を殺し得る絶対強者の力。
「大サービスだ、名も知らぬ戦士よ。受けろ――」
軍影と神獣がにじりと姿を溶かす。
溶けた姿の後に残るのはそれぞれの概念とそれぞれの純粋。束ねる。花を手折るように収斂する。
さあ、とサガが両腕を広げ迎え入れる。
祝福の抱擁を、己が力と世界へと。
集うは堆積された力。
集うは蓄積された力。
集うは鬱積された力。
集うは集積された力。
ヒトよ思い知れ――これが神の威容だ。
「――滅ぼす者!」
瞬間、滅――という音が世界を粛清した。
瞬間、砕――という音が世界を喝采した。
瞬間、劫――という音が世界を是正した。
極光。
極彩色の寂滅の光。
放射は興趣の注入。
奏でられる葬送曲。
壮麗なるは大祝祭。
世界の最も純粋な法則の、神による行使の宴。
威力を謳う。
願力を詠う。
火力を歌う。
意力を唄う。
ただ只管に、大いなる宴。
シンプル。
イージィ。
たった1つのルール。
ただ1つの約定。
唯一の真実。
絶対の理。
それは、力。
力。力。力。力。
力。力。力。力。力。
ああ、
力、だ。
オーディンの含有する権勢が、波動となって世界に力を打ち据える。
震えは、――世界が散逸。
眩みは、――世界が恐怖。
衝撃は、――世界が揺動。
これが、語られたもの。
光に目を焼かれ、衝撃をその身に受けつつ、シンジは生まれたその感情に酷く動揺しながら――笑った。
そう、これが、これこそが、最も強きモノの、最も強きスガタ。
Episode 29 : 不断の問い
軋む。
骨とはまた別の、肉体の芯が軋む。
心が軋んでいるのだ。
それは覚えこまされた恐怖か、それとも単なる武者震い故か――最早、レイにも判断出来ない。
「児戯、也」
瓦礫の山が粉を撒き散らしながら落ちていく。風にさらわれた粉塵がレイの頬を打つ。
見下ろすその視線は刺し貫く矢の如く。纏う黒衣がなびいてマントのように翻った。
朝、目覚めると皮膚は既に完治していた。
携帯してきた水で顔を軽く洗い、服を着たままに空を打つようにぴしゃりと伸ばす。ガルガリンがブラウスの胸ポケットに、ライターがデニムパンツのポケットにあることを確認。
加持が用意を終えるのを待ち、移動を開始する。
頻発するアラエルとイロウルを潰しながらチョーラガル山頂を目指す。1度退けた組み合わせだけあって、何ということも無い。極稀に出現する他のタイプの小規模使徒の方がまだ厄介だ。
山頂が殆ど目と鼻の先となった辺りで小規模使徒と人間の比率が逆転した。おそらく、見回りをしているのは目的地を管理する宗教結社=ボンで、それ以外の隠れるように山頂を窺うのは寺社連合=タイシャクか。
「丸見えでマヌケだな……」
確かにタイシャクの人間は周囲に気を張っているようだが、レイのレベルでも簡単に見つけられる程度のステルス性だ。
「隠密行動は君の方が向いている。俺が適当に陽動しておくから、後は頼む」
加持が先に影から踊り出る。
レイの《炎》によるサーモレーダは直接姿を確認せずに使えるが、加持の《Eye》はいくら視界を拡大した所で直視が必要だ。姿を隠しながら動くにはレイの方が有利といえる。無論、タイシャクの尖兵のレベルを見て分かるように、真正面から堂々と行っても突破は可能なレベルだが、危険は少ないほうがいい。
わざとらしい仕草でボンの見張りとタイシャクの尖兵に存在をアピールする加持を尻目に、木の陰を縫い這うように山頂へと登っていく。
山頂の神殿は洋の東西が混ぜこぜになったような不可思議な造型だ。白銀の土台の上に豪奢な柱が屹立し、しかし、屋根付近はモザイク画が組み込まれた寺院風な造りになっている。そして、僅かな《color》。再生の徒本拠地:空中浮遊城塞基地=シュピエドや、《スラム=トスカニャーフ》中心部と同様に《word》を増幅あるいは拡大している。
神殿の周囲を目視しつつ、サーモレーダを展開する。
低温の熱波を放ちながらその温度変化を感じ取りつつ、神殿との距離を詰めると、熱源が直接見えない位置に5つ。流石に出入り口には死角はなく、壁なりを壊さなければ入れまい。
手頃な背の高い木へと登り、レイを支えられる程度には太い枝へと飛び乗る。1度体重をかけてしならせ、反発を利用して跳んだ。同時、ロケットシューズに点火し加速。着地しつつ体をたわませ衝撃と音を軽減。結果、誰に気づかれることもなく屋根へと到達した。
サーモレーダの指向を屋根の奥へと強め、大まかな構造と熱源を把握。
ガルガリンを取り出し、限界まで細く集束させた蒼炎の刃を放つ。屋根へとつき立て、静音に気を遣いながらじわりじわりと炎を太くしていき屋根材を溶かす。丁度レイが入れるサイズの穴が出来たところで、下を窺い見ると、中央に地下への階段が1つ。その階段の前には見張りが2人。
サーモレーダを階段の先に放射しつつ、待ちの体勢をとる。数分後には加持の陽動で小なり大なりの乱れが生じる筈だ。そこをつけば侵入は容易い。
階段は螺旋状で思いの他、深くまで伸びている。
「……深い」
山自体を真っ直ぐに貫き、地盤にすら到達する深度だ。流石にそれより先は探知できない。ただ、熱波の拡散具合からマントル付近まで伸びている感触がある。そして、その奥の底の感覚にレイは背筋を震わせた。
知らない物質だ。
レイは熱波の通りでその組成や性質を理解する。MAGIの助けを借りられない今、断言は出来ないが、底にある『それ』はあってはならない熱特性を持っている。大気中で形を維持できないほどの融点と熱伝導率、それと同時に熱に対して堅牢な原子配列。矛盾だ。
おそらくその矛盾こそが今回の任務で得るべき存在そのものなのだろう、とレイは息を1つ吸う。
見張りに対し外から駆け込んだ人間が何かを伝言した。加持についての報告だろう。これで見張りの内1名あるいは2名ともが駆り出さされれば儲けものだ。そうでなくとも加持以外の他の侵入者の可能性を考えて意識が張り詰める。張り詰めた直後こそが狙い目だ。
1人が入り口へ向かい、離れる。
残った1人が1度入り口を見据え、その時を見計らってレイは強烈な指向性をもって殺気を放った。
殺気に反応し、持っていた槍の切っ先と眼光がこちらを向き、その瞳は既に膝に力を溜め放っていたレイの相貌を間近で見ることとなる。声を上げるよりも早くガルガリンの柄を顎にぶち当てた。脳が一気に揺すられすぐさま昏倒コースだ。
階段に足を踏み入れ下りながら再びレーダを展開する。熱源は存在しない。ひたすら階段が伸びているだけだ。
ならば、と螺旋階段の中央、つまり天から地へと抜ける吹き抜けの空洞部分に飛び込む。ちんたら階段を下りていては危険が増えるばかりだ。
外に行った見張りや他の人間に気づかれないのが最良。無論、それは有り得ない。おそらく、それ故のこの構造。一直線でその上で入り口が1つしかないないのだから、必然、最下層の『それ』を持ち出すにはそれなりの時間がかかり、その上どこから出て行こうとするかが一目瞭然だ。しかし、加持に人員を割かれている以上、それなりの人数がこの間に階段の前に集ったとしてもレイが何とか出来る人数の筈。
それに、切り結ぶ必要はなく、最悪の所逃げ切ればいい。あの昏倒させた見張りと同レベルの手勢が何人いた所で、逃げるだけならば100パーセント遂行可能だ、とそんな自信がレイにはあった。
思考が潰える頃に階段も終わりを見る。レーダでその位置を捉えていたレイは、激突を避けるためにガルガリンとロケットシューズを下方に向けて発射して減速。緩やかな重力加速度のみを残して着地する。
果たして『それ』はあった。
神木のように屹立する細い松葉色の柱に囲まれたアメジスト色の祭壇、その上に。
洗い立てのような白。
清流を落とし込んだような青。
2色の棒が螺旋状に絡まり合う長棍。生命の陰に隠れた高揚と鬱勃を象徴するかのような、その鈍い輝き。
『それ』は、これが、魔棍・命脈。
手に取り、事前に渡されていた肩掛け紐つきの長細い布袋に入れる。後は降って来た道を登るのみ。
しかし、一応、横から――壁とその先の山の腹を炎で掘り進めないか確認する。放った熱波が壁に触れた途端、すぐに引き戻す。すぐに分かった。これは溶ける、というより破裂する。しかも、爆発的に。
建物には2種類の方向性がある。堅牢なものと、衝突した際にケガをさせないためや災害時のことを考えてある程度は楽に壊れるものだ。眼前のこれは後者といえば後者だが、すさまじく反応しやすい。熱やガスや水、その他多くのものに敏感で、簡単に反応してしまう。これでは、炎で壊して掘り進めても爆発でレイの体は木っ端微塵だ。
正規な道を辿らないものは――建物の機能を否定するものは、殺してしまう凶悪な意思。その露骨な邪悪さに嫌なものを抱きつつ、階段を駆け上がる。レーダに反応する階段前の熱源は現在9つ。逃げる必要のない数字だ。20以下ならば、無傷で切り抜けられる。
階段の途切れを目にしつつ、跳躍。飛び出したレイに9対の視線が刺さった。
出が遅い。それなりのプレイヤーならば視線と同時に攻撃が来る。やはり、2流以下。
レイが着地する頃にやっと攻撃が来る。手にした錫杖で突きにくる4人と、その後ろで《color》を放ち《word》を行使する5人。フォーメーションはそれなりにしっかりしているようだ。
「炎」
赤黒い《color》とともに《word》を紡ぎ、《limit》を拡充し――制圧する。
眼前のボンの戦闘員の《color》は総じてbuleかgreen。既にblackが混じり始めたレイにとって、それは《word》の封殺を行うには十分な開きだ。渦巻く赤黒い色彩が青と緑を取り込み《color》を消し飛ばし、《limit》をマイナス反転させ、《word》を引き剥がす。カヲルやヤコブがかつて披露した――ある程度のレベルの《user》ならば殆どが知るであろう《word》キャンセルの技術だ。
出来た、とレイは静かな満足感を得る。
顔には出さずに、4本の錫杖をガルガリンの定常駆動で溶かし割り、同時に《word》を封じられて棒立ちとなった5人に向けて火柱を放った。それも、レベル1あるいは浅達性のレベル2――殺さない程度の熱傷を与えるように緻密に操作をしてだ。別に今更殺しを忌避するわけではないが、モノを奪っていくのだからそれぐらいの手心はあってもいいだろう。
後は加持と合流して帰還するのみだ。
その加持が、降って来た。
レイが開けた穴を広げるように破砕された天井が四散する中、加持が落下してきた。瓦礫が山となり、加持を被っていく。その瓦礫の頂上に重力をまるで感じさせぬ軽やかさで、『黒』が降り立つ。鴉が1羽舞い降りたかのよう。
「……」
言葉を失う。
天井の穴から吹き込む風になびく黒衣。唯一外気に晒されている、初雪の如き白貌。
獅子吼を秘めし美獣――地這いの使徒12使徒:ヤコブ。
アスカと協力して起こした水蒸気爆発による70メガパスカル≒地上の気圧の700倍で死なず、10トン以上の衝撃を身1つで生み出す正真正銘の化け物だ。
そして、何より、レイの見据える頂そのもの。完成された肉体。洗練された精神。研磨された言葉。その全てが至り、超越するための指針だ。
直後、冷静さを取り戻しガルガリンを一気に非定常駆動まで持っていく。最大温度、最大射出長――最大限に出し尽くした。初撃で決める。ヤコブの《word》は動物を、獣を体現する《Beast》。基本的攻撃手段は密着戦のみ。ならば、この5メートル程の距離から一気にガルガリンを叩きつける。
最大にまで出力を高めたガルガリンの射出長は5メートルを優に超える。ただ、振るうのみ。
ぐるりと眼球が裏返るような感覚。意識が走り、空間に拡散する心地。
無心で振りぬく。
劫、と蒼白の炎が迸った。
「笑止」
単純なスピードでそれを容易く避ける。
前回より更に速い。
跳躍し、空間を疾走し、ガルガリンの炎刃に巻きつくように一瞬で距離を殺す。
金色の《color》。放たれる《word》。遺伝子を欺瞞。伸び尖る五指の白爪。膨れ上がる筋肉。
「削」
散弾のように注がれる獰猛な連撃。直線のように走る一撃一撃が、その実、稲妻を思い起こさせるジグザグの軌道。描く波形は鋸型だ。フェイントと本命を一瞬の動作に込める獣の弾丸に、レイはなす術もない。
いくつかはガードしたものの殆どをその身に受けた。
急所は無事だ。死という方向性に対して言うならば、そこへ向かう箇所の損傷は軽微。しかし、当然ダメージは強く残っているし、体力も一気に消し飛ぶ。圧倒的な身体能力差がある以上、この距離ではレイは何も出来ない。
故に、ロケットシューズに着火+ガルガリンの最大射出径をもって後方に加速。
クロスレンジでの攻防はレベル差が有り過ぎて不可能。中間戦では、たった今、これも一瞬で距離を覆すスピードの前にはレイの力量ではまともに戦えないことがハッキリした。離々戦ではレイ自身に有効打となるような手がない。
ならば格下が格上に仕掛けるべき手は2つ――逃げを打つ、あるいは消耗戦に持ち込む。
レイが選択したのは前者だ。
加持を残していくのは心苦しいが、レイが今優先すべきは肩に下げた命脈の確保。自分が加持ならば、置いていって欲しいと思う筈であるし、これはコンビで任務をこなすならば確認する必要もない暗黙の了解だ。
立て続けに炎の壁を何重にも立ち上げ更に後退する。
手から直接生み出したり、ガルガリンから放つより温度は上がらないが、何重にもすることで防壁としては十分だ。1枚1枚はおそらくヤコブが移動する圧のみで弾け飛ぶが、3秒ほど時間は稼げる。
全速で外に出るのに1秒。同時に炎で建物を崩して5秒稼ぐ。これで、7秒余る。侵入した時と同様に木とロケットシューズで一気に距離を殺すための、木の選定と枝への移動に1秒。これで、残り6秒。山の頂点から底に向けて切り立ったガケであることを生かし、ヤコブが全力で跳躍しても届かない距離にまで一気に飛翔するのに4秒。これで、残り2秒。
不安要素は、ヤコブの全力を見誤っている可能性と飛翔がどれくらい続けられるか。ロケットシューズ+ガルガリンで短時間の空中疾走は可能だが、本格的に飛翔を試みたことはない。しかし、山を下って行こうにも、いくら森に姿をくらました所で、レイの気配遮断はヤコブに通じないことは火を見るより明らかだ。素の実力に加え、ヤコブは《Beast》で犬並の嗅覚や、兎並の聴覚を容易く得ることが出来る。逃れるには一瞬でヤコブの及ぶ範囲外へと出、ウエスト自体から脱出するしかない。
例え飛翔しようと、ガケの底に下りた後のヤコブの走力を考えれば、運び屋――《Transport》の《user》との契約ポイントまで行くには、2秒のアドバンテージでは紙一重か。レイの目算ではヤコブの走るスピードはレイの飛翔速度より速い。レイが降りる頃には、ヤコブは悠々と待ち構えられる計算になる。
ならば、打って出るしかない。
いかに身体能力が高くとも、両足のロケットシューズとガルガリンという姿勢制御用の出力を3つ持つレイの方が空中では動きの選択肢は多い。そして、ガケから真っ直ぐにレイに飛び掛ってくる。つまり、空中で急な姿勢転換から、一撃を放てば当たる確率は極めて高い。
ロケットシューズへの炎の供給をストップする。残りの姿勢制御は今まで注いだ分のみで事足りる。後は、それら余剰分をもって、《炎》の出力量と供給量を最大に高め、持てる能力を全て廻転炎剣ガルガリンへと放つのみ。
飛翔したレイに続いて、やはり、予想通りガケからヤコブが跳躍する。
「ガルガリン、出力最大」
距離を図り、ガルガリンの最大出力をもって、真下から一気に切り上げた。刃幅5メートル、刃渡り70メートルの蒼炎が宙にアーチを描く。
触れれば即、炭化の一撃――!
獲った、とレイは確信する。
元来、人間は下からの攻撃に弱い。その上、空中で5メートルの横移動は不可能、
――ただの人ならば、だ。
腕部の骨が変形。腕が縮小。前方に向かって腕の何倍にも大きく張り出す五指。後方には羽毛。脚部の骨が縮小。折り畳まれる下半身。体重を落とすために骨の密度が低下。無駄な肉を抽出。必要なくなった骨と肉の成分をブロック状に固め、口から空中へ放出。
――鳥と人のハイブリット、だ。
進化を逆行して別の系図へ紛れ込んだような異形が、ガケの底からの上昇気流を翼で捉え、滑るように前進する。
向かい来るガルガリンの炎刃を瞳に捉えながら、鳥人間と化したヤコブが空中で躍動した。鳥類の旋回速度は時速150キロメートルに達し、その上、ヤコブの術理によって体全体を捻る回避行動は最小限となる。十分、ガルガリンの回避が可能だ。
左翼を傾け、扇ぐように下へと駆動=空気が斜め後方に追いやられ、上方向へと推進力が発生する。同時に右翼を傾け、上へと駆動=下方向へ推進力が発生。左舷は上へ、右舷では下へと推進力が産出される。結果的に、絶妙なタイミングをもって上がってくるガルガリンの横をすり抜けるように、ぐるりと体全体が回転していく。
だが、知っていた。
レイは、ヤコブが、ただの人ではないことを、既に知っていた。
知っているのならば、
「ガルガリン、供給量最大」
策をうてる。
出力量=アウトプットパワーを最大にしてまず打ち出した。加えて、今、供給量=インプットパワーを一定値から最大にまで引き上げた。最終的な威力・射程・熱量は当然――出力量×供給量だ。
熾る熱炎。
伸張する刃渡り。
拡張する刃幅。
ヤコブは最小限の動きで回避し始めたが故、すぐさま2倍へと拡張し始めるガルガリンの刃渡りが接触する。
それでも尚、地上であったならば即座に地面を蹴って、反動をもって悠々と避けただろう。だが、ここは足場の無い空中。翼で自在に飛べても一気に反動を得る術は無い。翼で反動を得るには大きく羽ばたく必要があり、到底間に合わない。
つまり、避けられない――!
今のレイ自身をのをそのまま落とし込んだような蒼炎が、さらに燃え盛りつつ、ついに回転途中のヤコブの体に横から炸裂した。ヤコブの体全体を巻き込みながら、炎刃が上空まで切り上げられ、宙に散る。
羽毛は燃え消え、腕=翼は焼け爛れて使い物にならない。そのまま、燃えカスと化した黒衣をばら撒きながら落下していく。
退けた、とレイが思考した瞬間、矢のよう殺意の塊に全身を貫かれた。その源はヤコブの瞳だ。未だヤコブの腕上で消えないレイの炎よりも尚燃え盛る太陽の如き瞳が、レイを射抜く。
そして、ヤコブの胸から腰にかけてが袋状に奇妙に膨れ上がった。骨が張り出し皮膚と一体化して外骨格を形成。書物を分割するようにページ状に肺を変質させ書肺を形成。さらに、骨の形態が変化し、出糸突起が出現。
生まれた絹糸腺内でアミノ酸が重合・連結して形成された液性のアルファ螺旋構造タンパク質が、出糸管から噴出して繊維性のベータシート構造タンパク質へと変化する。
クモの糸だ。
生み出された糸を焼け爛れた手で振り回す。鋼鉄の5倍の強度、ナイロンの2倍の伸縮率を持つ強靭でしなやかな糸が、獲物を仕留めるべく襲い来る。
ある程度の距離があったおかげで、左右のロケットシューズの出力を調整することで空中で姿勢を変える時間があった。レイは糸の回避に成功する。しかし、続けざまにレイが回避をした先へと第2投が繰り出された。簡単なフェイントだったが、今度は姿勢変更が間に合わない。
単純に、慣れていない。跳躍からの姿勢制御は何度も経験していたが、飛翔しながらのそれは初めてだ。似通った部分があるとはいえ、わずかな違いが刹那の反応の差を生み出してしまう。
ヤコブにとっての刹那は永遠と同義。即ち、捕獲された。
落下しつつ空中でナゲナワグモと化したヤコブと、レイの脚が糸で連結される。鉛筆ほどの太さですら飛行機を受け止め得る強力無比なクモの糸――人間サイズとなったそれは、レイの膂力では引きちぎれない。ならば、焼き切るしかない。
返す刀でガルガリンを糸へと向ける。ガルガリンを持っていない手で炎を生成して最高温度に到達させるより、そちらの方が速いという瞬間的な判断。
そして、その判断がレイの命運を、決めた。
致命的なまでに――決定付けた。
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シンジが死んでいないのは単に今いる自己内面領域が物理的な実態に関わらない、言わば幻に過ぎないためである。現実世界であるならば、ヴィズルを受けたと同時に、いや、発射される前の圧力ですら粒子の一粒も残さず蒸発している。それだけの威力があった。
初号機との戦闘の際、脳さえ無事ならこの世界での『死』は訪れないとシンジは予想していたが、それは正しい。ならば、脳も含めて吹き飛べばどうなるか。
「ここは」
眼前に広がる白い世界と黒い扉。
サガと戦うため入った白い扉と、扉が無数に浮かぶ黒の世界――そこから、全てが反転していた。
明滅する紫と紅の衝動。
『自分』が影絵のように笑っている。黒い周囲の世界から一点だけをくり抜いて広げた真っ白な口が、笑っていた。
ケタケタと響き渡る哄笑は、協奏曲でもありノイズのようにも聴こえる。単音を強引に張り合わせたような音がけたましく響く。全てが戯れて混ざり合う。
「おマえノ死ガとりガー――じかン切レだ」
時間切れ。
そんな、とシンジは言葉を胸に落とす。
「『貴様』ハまケタ。そレガ、ユい一にしテ絶たイの、真実。なラバ、したガえ」
たった一つの真理。負けたならば、失う。
それが、世界の唯一にして絶対の掟。
敗者が勝者に従い続けて積み重ねられたものが、ヒトの歴史というものだ。
そして、
「リカいしろ、まケて得らレるモノもある。アルが、――ほんとうにほしいものは、勝たなければ手には入らない」
言葉が自分自身の口にしたのと同じ音へと変わっていくのと同時、ぱりぱりとかさぶたを引き剥がすように、この世界から剥離していくのが感じられた。
だが、まだだ。
シンジは最も欲す力を、《刃》の力を手に入れていない。
「……サービスだ。刹那のチャンスをやろう。それで何かを掴めるのならば、掴んでみせろ。覚悟をみせられるのならば、みせてみろ」
そう、
「諦めることを諦めろ。諦めないことを諦めるな。抗え――与えた心臓が動く限り、ひたすらに」
闇色のドアが鳴動し揺れる。闇が眼前に凝集し、凝固し、凍結し、形をなした。周囲から吸い上げるように白木が宙から次々と伸び出て集まり、1本の大樹となる。それら全てが蛇のように蠢きシンジに巻きつく。
闇が白蛇と混濁しシンジを包んだ。灰色と黒と白。モノトーンの退廃。眼前の影絵の体が崩れ、姿を模していた皮すらシンジへと集う。
「待っているぞ、貴様が扉を開けに来ることを」
光。
反転。
眼前にはヴィズルを放たんとするサガ。時が逆巻いた。
沸騰する力。
負けて得られるものはある。確かにあるのだ。
だが、ほんとうにほしいものは、本当に欲しいモノは――勝たなければ手に入りなどしない。
負けて逃げて得るよりも、たとえ一瞬でも勝って。
閃光のように儚くとも、刹那の勝利だとしても、勝って手に入れる。
最も強いと書いて最強。
最も強かと書いて最強。
それは、シンジ自らが掲げた王冠。あなたは最強なのだと。サガが最強なのだと。
だが、欲しいものは、最も欲す強さはその王冠だ。
ならば、今。
今だ。
今、やらなくば、いつやればいい。
「ああああああああああああ!!」
事象の刃を世界へと斬りつける。
「斬!」
疾走する。赤刃を《limit》いっぱいにまで生成し、いや、その域を超えて産出する。
《color》は鈍い銀から、心根をそのまま発色させたかの如き金色へ、《up》を果たす。
そして、解きほぐす。
この世界で1度死に1度溶けたこと。
眼前のサガが軍影を顕現させて自らに纏わせる様を再び見たこと。
そして、何より、その心よりの渇望と意思によって理解した。
自己内面領域における死は概念への帰還だ。自己の内面で自己が滅んだならば、滅んだ自己は『自己』という概念に還元され拡散する。自己の内面を構成する数々の概念。愛。夢。幻。友。死。敵。味。風景。思い出。やすらかさ。闇。光。そして、最も恐ろしいもの。そして、最も強きもの。そして、最も会いたいもの。そして、最も争いたいもの。そして、――。
無限にも近い概念が形として現れたのがこの世界であり、あの無数の扉だ。それらは消滅することで概念としてシンジの中の混沌へと染み込んでいく。
だから、紫鬼のことを、理解した。その概念を。
紫鬼は式だ。世界を解きほぐすための、万物を解体するための、全てを解へと導く式なのだ。
故に解きほぐす。
紫鬼だったものが1度捩れ、そして、いくつもの刃へと解ける。解けた無数の刃が爪先へ、足の甲へ、踵へ、脛へ、膝へ、腿へ、腰へ、胸へ、背へ、肩へ、肘へ、手の甲へ――装着される。次いで、ただ1つ装着されずに残った芯とでもいうべき刃が柄と鍔を装飾し、その手に握り込められる。
体中を刃の紫色に彩られた《刃》を抜き身にしたような偉容は、まさに《全刃》。
《全刃》の刃という刃に赤刃が貼りつく。折り重なるように何10、何100、何1000ものエネルギーの塊が集う。紅いエネルギーがまるで脈打つよう。
紫と紅が交わり紫紅にして至高。
ささくれ立ったように紅い刃が貼りつく様は、さながら咲き乱れる艶花。
カヲルの胴を断った時、モードに居合いを放った時のそれはその手に握りしめた紫鬼のみによるものだった。
だが今は、紅と紫に彩られた幾つもの花弁が樹氷のように突き立つ。
そう、
これが、
これこそが、
正真正銘の――
「千紫万紅だっ――!」
《全刃》の全刃が唸り、猛る。
解体するべく世界へと突き立つ意志と刃、そして、それをQ.E.D.へと導く紫鬼の全てが軋み、咆哮する。
シンジのもつ最大極技が更なる異様をもって、咲き乱れた。
沸き立つ『斬』という概念が、熱エネルギーを拡散しつつ切り込まれ、破壊衝動が形となって寂滅の白光を割り裂く。
黄金の翼が花開くように、ヴィズルの白光と千紫万紅の極光が世界をまたたかせた。
反・反転。
消毒液の匂い。白いシーツとベッド。落下する点滴。
眼前にはサクノとリツコ。
ゆっくりと覚醒する意識。
帰ってきた。
「……何か得るものがあった顔ね」
「え?」
リツコの言葉にハッとする。全てが夢か幻のようだった。
「だって貴方、笑ってるわ」
ああ、と。
最後に一瞬でも、たった一太刀が斬り開いた。
サガの、誇るべき頂の、その意志を。
「はい。僕は、強くなりました」
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To Be Continued to Episode 30.
Next, outbreak of war.
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<後を書いたり>
前回から大分時間が空きましたが、その分頑張ったってわけでは全然無く。
(連載モノの1話分の容量としては過去最高は最高だけども)
実作業時間はほとんどいつもと同じで、単に時間に追われる毎日だっただけでした。
何だろうね。
オレ、こんな大人になんてなりたくなかったよ!(現状全裸なのは問題ない
で、仕切りなおして中身の話をするけど、うん、あれだ、あんま進んでない。
結果的に想定してた半分くらい。次回の最初の半分くらいは今回でまとめるつもりだった。
ただ、毎回毎回細切れで少しずつ書いてると、アタマの中で熟成されて無駄にアイディアが湧く始末。
度し難い。