伏せ。ついでに、寝ているがいい。
研ぎ澄まされた無数の光がシンジの周囲を旋回していた。その形は尖鋭なる刃。その色は血のような紅蓮。
シンジを包む銀色の《color》がその赤に塗りつぶされていく。まるで刻むように、まるで染み入るように――シンジの《limit》を
覆う。その範囲はシンジを中心にした半径3メートルの円形。それがシンジの領域であり、狩場だ。
「面白い《word》だ。お前がシンジ=イカリだな?」
「ああ、そうだ」
「我の名はシヴァ=モーゼル。胸に刻め、今からお前の命を奪うものだ」
その言葉だけで膝をつきそうになる。まるで魔力でも籠められたかのように、その言葉はシンジを侵す。
「精々抵抗してみせろ。それがお前に許された最後の――」
消えた。
少なくともシンジはそう感じた。
「――自由と思え」
そう認識した次の瞬間、背筋の凍る圧力が4方位から迫る。前、後、左、右。想像を絶する速さで繰り出されたそれを
拳だと認識出来たのは、地面へと倒れ伏した後だ。
くっついたばかりの肋骨を折られ、その上胃が破裂したような感覚がわき腹から伝わる。吐き気も伴ったそれは一級の痛みだ。
切断された右腕からの痛みと一緒になって、もうどこの痛みか分かりはしないが、痛いものは痛い。
それでも意識はハッキリしている。意識は折れちゃいないし破裂してもいない。
(まだ戦える。まだやれる)
ただ驚くのは圧倒的な速さだ。まるで銃弾を相手にしているような錯覚すら覚える。
驚いているのはシンジだけではない。
(熱と痛み……。エネルギーと切断――切断する熱エネルギー?)
シヴァは両腕に刻まれた深い切り傷を眺める。数十箇所にも及ぶその切り口はまさしく刀傷。そして、傷の内部が火傷でもしたかの
ように熱かった。それこそ傷が内側から融解するかのような熱量だ。
つくづく変わった《word》だ、とシヴァは口の端を歪めた。
チルドレンと呼ばれる人種が変わった《word》を操ることは分かっていた。まず他の《word》が英語であるのに対し、チルドレンの
《word》は漢字で放たれる。その時点で大きな違いだ。
聞けば何となくその力を予想することが可能な英語に対して、漢字は分かる人間にしか分からない。これは
突発的な戦闘では大きなアドバンテージとなる。
シヴァにとってこれは突発的な戦闘ではなく事前に計画していたものではあるが、シンジの《word》――《斬》の真実は未だに
ハッキリとは捉えられず、疑問符が付きまとう。
シンジは傷を確認し、シヴァに自分の《word》がダメージを与えている事に安堵する。今の望みは、右腕を切断された死に掛けの肉体に
は存在せず、煌々と輝く紅蓮の刃にのみあった。己が《word》のみが今のシンジの命を繋いでいる。そもそも、刃を旋回させ、自らを覆う
シールドのように展開しなければ、今頃シンジの体には穴が開いていたに違いない。
(それほどの威力だった)
刃に意識を飛ばす。紅蓮の刃はシンジの手であり刀だ。発現させられる距離は最長3メートル先まで。最も、刃を飛ばせる距離――飛
行距離が3メートルなのではなく、刃を空間へと出現させる限界が3メートルである。
今のシンジとシヴァの距離はおよそ4メートル。
シンジは限界である3メートル先へと刃を出現させ、そのまま残りの1メートルの空間を疾走させる。流星のごとく無数の赤い閃光が
空中を走る。
「笑止――」
深い深い笑み。喜びと嘲り。
シヴァの体から虹色の光があふれ出た。そう《color》はrainbowだ。至高たる7色が世界にシヴァの世界――《limit》――を
塗り込んだ。その輝きはさながら最上のパールのようだった。
+++++++++++++++++
シンジは自らを縛る死の呪いを絶えず『斬り』続けている。当然、力は制限され、戦闘で死ぬ確率は高まってしまう。
ならば、その呪いをどうにかしたいと思うのも当然だ。
方法はある。
呪う《word》があるのだ。祓う《word》だってある。そしてシンジとカヲルは、幸か不幸かそんな《word》を
使う《user》を知っていた。その《user》こそが今現在のシンジの目的であり手段だった。
名はサクノ。性はナギサ。種は使徒。《word》は《Purify》。
探しに探し、シンジが辿り着いた先は懐かしき土地――第3新東京だった。出立の直前まで悩みぬき、カヲルに『あーあ、本当に行くん
だ』なんて言われながらノコノコと帰ってきたわけだ。
多少の回り道はあったし、当のサクノはS2機関を抜き取られた状態である。しかし、万全とはいかないが、目的を果たした筈なのに
何故かシンジはデートだと走り去ってしまった。
「愚痴っぽくなるなんて。僕ももう年かな」
グッタリとしたサクノを担ぎながらカヲルは溜め息を吐く。
取り敢えず使徒だった頃の自分の感覚からするとS2機関が抜け落ちても問題は無い筈だった。何せ他の使徒とは何から何まで違うのが
昔の自分とサクノなのだから、と特に焦るでもなくカヲルは部屋を後にする。
最も頭を弄られでもしたか反応は希薄な上、すっかり痩せきって健康とも言いがたい。取り敢えず医師のあてはある。
「今度は何をさせられるやら」
どんな要求をされるか分かったものではないが、それなりにカヲルは彼女の事を信用していた。だが、嫌な事を嫌とも言わせて貰えない
あの人は苦手だ――再びカヲルの口から溜め息が漏れ出た。
Episode 05 : 狂い
結論は1つしかあり得なかった。あり得なかったからこそ、シンジは立ち向かい足掻いた。それでも、結末はただ1つしか与えられない。
すなわち、完全なる敗北。
地に伏したシンジの心臓はまだ動きを止めていない。だが、意識はとうに消えている。残っているのは生への執着心と本能によって
なされる呪いの断絶のみだ。今のシンジに何が出来ようか。
「ただ死を待つという事を除き、何もなせない――いい格好だな、チルドレン」
勝負は一瞬だった。紙一重でも薄皮一枚でもなく、それは当然の勝利。
見下ろすシヴァの視線が全てを物語っている。優れているのは、強いのは、凌駕しているのはシヴァだと。
彼は嘲らない。何故ならば、この勝利は当然にして確定していた未来。嘲りも奢りも生まれはしない。
「だが、尊敬の念は生まれた」
先ほどよりも深く多く傷の刻まれた体を見据える。
「意識の底で我の言葉を聞いているな? 覚えておけ。我はお前を生かす――お前の命、預けておく」
奢りも嘲りも無く、残っているものは高揚。
なれば、再び愛い見えんと欲す。
ふわりとシヴァの体が宙に浮く。
途端、彼は感じた。矢というより針に近い、そんな視線。
「本当にいい格好だ。全く、いつもツケは僕に回ってくる」
カヲルだった。
銀の髪、赤の瞳、白い肌。特徴的な容姿はすぐにそれがカヲルであるということを、シヴァへと伝えた。
「カヲル=ナギサか」
「有名なのも困ったものだね」
やれやれ、としつこいぐらいに溜め息を吐きつつ、背負ったサクノを地に横たえる。
「我の名は――」
シンジの時と同様に名乗りを上げようとしたシヴァの言葉をカヲルが制す。
「必要ないよ。どうせ――」
カヲルの周囲の空気が変質する。殺気を纏った静電気がバチバチと充満し始める。
絵の具を垂らすように周囲の世界が色に覆われる。色は――《color》は銀。その髪よりも更に深い殺意の銀。
「――すぐに口もきけなくなる」
カヲルの体が駆けた。地を削り取るような疾駆は、まるで雷を纏った肉食獣か何かだ。
その右手には周囲の空気から強奪した電子をかき集め、圧縮に圧縮を重ねた殺意の塊。
振るわれた右手が青白い軌跡を宙に残しながらシヴァへと迫る。
それを見据えるように、シヴァの隻眼が強い光を宿す。左目がボゥと瞬き、刹那、カヲル以上の殺意を抱きその
右腕が超速をもって振るわれた。
雷を纏った殺意の右手と、それ以上の殺意をまとったただの右手が交叉する。
「ガァァァ!」
「あぁぁぁぁ!」
肉が爆ぜ、肌が灼熱し、骨が震え、空気が砕けた。
「雷――!」
拮抗した腕を睨みながら、カヲルの《word》が紡がれた。銀が再び世界へ垂らされ、その色を弾き飛ばすかのようにカヲルの背より
雷撃が迸る。赤色のその雷撃はまるでカヲルの怒りそのものだ。そう、カヲルは怒っていた。いい加減に穏やかではいられない。
迫り来る雷撃は速く強い。だがそれは『雷撃』であって天から来たる『雷』ではない。どれだけ速くとも音越えはなしえな
い。ならば、
(我がよけられぬ道理はない)
それは奇跡。
その時、カヲルは差を見た。力――いや、次元の、格の差だ。強さというより雄としての格の違いだ。その行いは奇跡としか
言いようがない。それ以外どんな表現をすることもカヲルは出来はしない。
何故なら、既にカヲルの意識は消えていた。
+++++++++++++++++
眩しい光に耐えられずに目蓋をこじ開けると、そこはいつか見た天井だった。
「病院、か」
「どうやらね」
横からの声に振り向くと、そこにはシンジと同じようにベットに横たわるカヲルがいた。
「おやおや、どうしてこんな所にいるんだ?って顔だ」
以心伝心と言ったら聞こえはいいが、いちいち嫌味ったらしく言ってくるなら考え物だ。
「負けた。それこそ今生きてるのが不思議なくらいに。多分、シンジ君も同じ気持ちじゃないかい?」
「……ああ。俺は……いや、俺たちは生かされた。情けをかけられたんだ」
それはどんな敗北よりも屈辱的だ。噛みしめれば噛みしめるほどに悔しさがにじみ出る。まるで珍種のスルメのように
味わい深く胃にもたれる。美味しすぎて涙が出そうなほどだ。
そういえば、とシンジが辺りを見渡す。
青白い床、白いシーツ、クリーム色の壁、点滴、ベッド。あるのは決まりきった造形物。シンジ達2人以外の生物の存在は皆無だ。
「サクノは?」
「保護してもらっているよ。多分気付いてるだろうけど、ここはネルフの病院だ。揃いも揃ってぶっ倒れてる所を助け出された
らしい。情けないことにね」
シンジがベッドから降り、首を鳴らす。ついでに背伸びをして腕をグルグルと回した。どれだけ寝ていたかは分からないが、体調に
なんら問題はない。
「腕?」
腕があった。シヴァに切断された筈の右腕が存在していた。
「ああ、そうか。シンジ君も随分と無茶をする……千切れちゃってたからビックリしたよ、僕は」
ビックリしたのはこっちだ。身が裂けるような痛みを発していたというのに、今では傷一つない。
不思議を通り越して呆れるほどだ。あの空気が肉と骨に直に触れる感触を思い出すだけでゾッとする。
まるで美術品か何かのようにきれいな断面を覗かせていたそれは恐怖の具現だ。
きれいな断面が意味することは2つ――細胞1つすり潰さずに一瞬で全てを断ち切った事と、それ故に結合も容易であるということだ。
剣の達人が大根を切るとちゃんと元に戻るあれである。
純粋に医療で繋がれたのか《word》で繋がれたかはともかく、取り敢えず繋がっていることが重要だ。
「どうするの?」
「どうするもこうするも、やる事は1つだ。そのためにここまで来た」
そうだ。自らの呪いを断ち切り万全の状態を得ることが目的だった筈だ。腕が繋がっているのならば、後は《word》が本来の力を
取り戻せば万全となる。
「それなんだけどね……サクノがおかしかった」
「おかしい?」
「S2機関が抜き取られたのはいいとしても、コアの動きが普通じゃなかった」
「分かりやすく言うと? 俺には使徒の感覚はつかめない」
実にもっとも。それは元使徒であったカヲルのみが感じえることに違いない。事実、それは世界中の人間のうちカヲルのみが
知り得る感覚だ。
「簡単に言うと寝てる。難しく言うとコアから意識が剥離し始めている」
「元に戻すには?」
「このままネルフにいることだね。きっとあの人が何とかするよ……勝手に」
嫌そうな顔をしながらカヲルが溜め息を吐く。吐き出された息は重苦しく、いつもの彼らしくない。
「まさか、俺の腕も?」
「多分」
2人して溜め息を吐く。そして、外で聞き耳を立てていたとしか思えないタイミングでドアが開く。
「その通り。感謝なさい」
肩までの金髪をなびかせながら、白衣の女性が立っていた。病室の白い背景に溶けてしまうような真っ白な白衣を着ながら、
その姿が霞むようなことはない。堂々とした立ち振る舞いは熟練の役者のようでもある。
「お久しぶりです、リツコさん」
「あら、あまり嬉しくなさそうね」
嬉しくなさそうに言ったのだから当たり前だ。確かに彼女の力は認めよう。それでも、イヤなものはイヤだ。
嫌いじゃないが、イヤなのだ。彼女と顔を会わせてよい事があった――そんな記憶はいくら脳みそを探っても出てきやしない。
「全く……戻ったのなら私に顔を見せに来てもいいでしょう? 違う?」
違う。見せに行ってもいい事がないのは自明だ。
「ま、いいわ。あの娘は暫く預かっておくから、とっとと体を治しなさい」
「治すって言っても」
「完治した、なんて寝言を言ったら繋いだ腕もぐわよ」
さらっと怖いことを言ってくれる。第一、本当に完治している。どこも悪いところなんてない。
「今のあなたの腕はただ繋がっているだけ。引っ張ったら簡単にとれる」
その言葉を聞くなり、どれどれとカヲルがその手をシンジの腕へと伸ばす。掴むなり軽く力を込めて引っ張ると、確かにミチミチと
肉が離れ始める。まるで焼き鳥が串から抜けるように、骨はそのまま、肉だけが分かれていく。免疫のない人間は嘔吐感を覚える
光景。
「気持ち悪いからやめろ」
その光景はもとより、それ以上にその肉の引き離しに対して痛みを全く感じない自分が気持ち悪い。痛覚が完全に死んでいる。
麻酔にしたって効きすぎだ。
「言ったでしょう。ただ付いてるだけで、完全にはついていないって。主に神経が」
「わざとですか?」
「わざとよ。あなたが暫く無茶を控えるようにね」
確かに無痛なら無茶は出来ない。痛みを感じないということは死を感じないことだ。自らの死を飼い馴らせない者が、他人の死を
どうこう出来る筈がない。
ふぅ、とシンジが溜め息を1つ。それに習うようにカヲルも1つ。
「値は?」
「少しネルフに協力しなさい。以上」
リツコのその絶対的な医術と《word》には命の危機を2度ほど救われた。その2度ともにリツコは値をつけ、それを報酬としなした。
今度の値は『ネルフへの協力』だそうだ。
「期間は?」
カヲルの問いに答えは返らない――カヲルも答えが返ってくると思っていたわけではないが。ドアを開け放ち退室していくその背が
物語っていた。
「私がいいと言うまでよ――って所だね」
「溜め息を吐くのも飽きた。俺は少し寝る」
深く息を吸いベッドに倒れ込む。眠気は無いが疲れを実感していた。この分ならすぐに意識が途切れる。
「はいはい。おやすみ」
疲れきったカヲルの声を耳に反響させながら、意識は落ちていった。
+++++++++++++++++
翌日、シンジとカヲルはある一室に呼び出された。暗い室内に蛍火の如く輝くセフィロト樹形。相変わらず趣味が悪い。どこぞの
新興宗教の教祖様と大して変わりがない。
「久しぶりだな、シンジ」
「そうだね」
顎を組んだ両手の上に置く仕草も昔のままだ。外見といいオーラといい、この人は衰えというものをまるで感じさせない。
常に走り続けているのだろうな、とシンジは目の前でふんぞり返る父――ゲンドウを見ながらボンヤリとそんなことを思う。
「赤木君から話は?」
「協力してくれ、としか」
ゲンドウは暫し考える素振りを見せ、数秒後には結論に達したのか、隣に立つ人物に目配せをする。
「ユイ、映像を」
頷き、手元のリモコンを操作する。
その母――ユイもゲンドウと同様に衰えという概念がスッポリ抜け落ちたかのようだ。シンジの隣に並べば母と子と言うよりも、姉弟と
したほうがよっぽど収まりがいい。
すぐに後方の天井部から、セフィロト樹形を割るようにスクリーンが降りてくる。暗い室内で白いスクリーンが異彩を放つ。まるで
異世界に紛れた兎のよう。映画館の高揚とはこんなものだっただろうか――シンジは記憶を手繰り、すぐに諦める。どうせ
思い出せない。
白に色が灯る。スクリーン上に白髪をオールバックでまとめた初老の男が姿を現した。ネルフに勤めるものならば、誰もが知るその
男の名はコウゾウ=フユツキ。ゲンドウを補佐し、かつては副司令だった男だ。
コウゾウは笑っている。
哄笑でも嘲笑でも艶笑でも嬉笑でも勧笑でも戯笑でも苦笑でも巧笑でも嗤笑でも失笑でも冷笑でもない、それは
例えて言うならば、熱に浮かされ自らの笑みに対して笑みをこぼしている――そんな酷く歪な笑み。
怖気のする気持ちの悪さにカヲルは眉をひそめる。
狂った笑みをその顔にはり付けながら、老人は語り始めた。
『なあ碇。お前は私に言ったな――俺は走ることを止めぬ、と。そして私に横についていて欲しい、とも。
碇、俺はな、お前の伴走をし続けるつもりはないんだ。
満たされない想いを抱き続け、その末に得た《3rd Impact》は一度訪れ
すぐに露と消えた。消えたならば再び得るが道理。既にネルフに留まる理由は消えた。今までお前の伴走をした分の報酬は
幾ばくかの人員と経費として頂いた。文句はあるまい。それに、聞くつもりもない』
シンジがその顔をスクリーンからゲンドウの方へと向ける。こいつは狂人だ、と思った。普段静かな狂人が1番怖い。それにコウゾウは
自らが狂人であり、狂人であるが故に黙し続けるべきだったのだ、と正しく理解している節がある。自らを狂人と理解した狂人は、
狂人ではなく凶人だ。危険物を紐でまとめてダイナマイトでぶっ飛ばしたようなものだ。
『最後に、1つ。葛城君に伝言を頼んだが届いてはいまい。故に俺が直接お前に言おう――じゃあな』
それは訣別を告げる呪詛だった。
訣別の言葉を聞きながら、シンジはゲンドウをじっと見る。その顔には何も浮かんではいない。長年連れ添った者と別れる哀しさ
も、自らを裏切ったことへの怒りも何もない。揺るがない男がいるだけだ。
「で?」
「やつがなかなか興味深い組織を興した。名を再生の徒。大いなる再生を
謳い掲げる秘密結社にして、ネルフと敵対する勢力の親玉だ」
で、どうすればいい。そう聞いたつもりだが軽く焦点をぼかされている。シンジが反応に困っているとカヲルが助け舟を出した。
この程度の以心伝心こそがありがたい。
「叩けと?」
「いいえ、その必要はありません。迎え撃つだけでいい。それにカヲル君とシンジが2人とも協力してくれる必要はないの」
代わりにユイが答えたが、その答えもいまいち要領を得ない。それが伝わったのか一息置いて、ユイは更に説明を始めた。
「護るだけなら私達は2人とも必要ないと判断しています。チルドレン3人と他の《user》がそう易々と事を起こさせない、と。
ですが、ルネサンスから何が飛び出るか分からない事も事実です。現に葛城さんはルネサンスの戦闘員――名は
ブル=ロンといいますが、彼と戦闘を行い勝利したものの未だベッドから離れられないまま……」
なるほど、とシンジは納得する。真っ先に自分に顔を見せに来るに違いない。そう思っていたミサトが姿を現さなかったの
はそのせいか、と。
それにユイのセリフには聞き捨てならない単語が含まれているではないか。ロン、と。確かに戦闘員の名前をロンとユイは言った。
自分とカヲルを襲撃した2人もロンであった筈だ。と、そこまでシンジが考えた所でカヲルもまた難しい顔をしているのに気付く。
どうやら2人が2人とも同じことを考えたようだ。
「故に不測の事態に備えてカヲル君にネルフの護りをまかせたいのだけど」
「待ってくれないか。どうして僕なんだい?」
自分よりシンジの方がネルフに慣れている、とすぐさま主張する。
「それについては――あなた」
「ああ……分かっている。シンジ、ついてこい。少し歩こう」
疑問を顔に浮かべながら、ゲンドウに促されるままシンジが退出する。司令室に残ったのはカヲルとユイだけとなった。
さて、と1つ咳払いをし、ユイが真剣な面持ちで質問をし始める。
「カヲル君。聞いてもいい?」
「どうぞ。シンジ君への気持ち以外なら何でも答えますよ」
そうして、禁断の問いが
「あなたは、どうして人となったの?」
口からこぼれ落ちた。
+++++++++++++++++
特に会話もなく親子は暗い道を歩く。息苦しさも緊張感も特にない。それこそ、本当にただの散歩と変わりないのでは、
というほどにだ。
数歩前を行くゲンドウの背を見つめる。大きく広い背は何かを背負っているのか引きずっているのか――まるで燃え立つ氷のように
熱気と冷気を放っていた。でかい背中だ、と思う。
そんなシンジを尻目にゲンドウが立ち止まった。スリットにカードを差し込むと扉が開く。中にあるものは分かっていた。第一、
ここまでの道のりはゲンドウの後ろに続かなくとも知っていたのだ。何故なら、その扉はヘブンズドア――ターミナルドグマ最深部へと
続く禁断の門なのだから。
「これは……」
シンジの眼前に広がるのは鎧だった。中身の抜け落ちた紫色の装甲板が、主の帰りを待つかの如く佇んでいた。
その赤々と光る胸のコアに、刃を――狂々と捻り狂った刃を
抱きながら。
異形の名を初号機という。
+++++++++++++++++
To Be Continued to Episode 06.
Next, Shinji get the One Weapon who is called ...
And, battle and battle and battle, and fight, struggle.
+++++++++++++++++
<後を書く>
会話が多い。でも地の文だけで説明したら容量が結構いっちゃうから仕方が無い、と自分の中で決着。
どっちにしろ20KB越えてるんで今更って感じですが。削る見極めとバランス難しいね。それこそ今更か。
冬月さんの笑いの表現は自分でもちょっとアレだと思うけど、書いた時のテンションを知らしめる上で残す。
それと、暑い。