殺せを殺せ。そして死ね。

 

 

 

 

 

[ // ]

written by HIDEI

 

 

 

 

 

 思考の凍結。判断の停止。記憶の断絶。意識の遮断。それら全ての精神機能のエラーを経た後、 それは1時間後なのか1分後なのか1刹那後なのか分からないが、ともかくシンジはサガの骸を焼いた。 感慨がないはずはない。哀しいかと問われればイエスだし、寂しいかと問われればイエスだし、悔しいかと問われればイエスだし、 限りなくとめどなく溢れる得体の知れない様々な感情は、さながら砂浜を無遠慮に刻んでいく緩やかで高い波のようでもあった。
 心は緩やか。何かがどうなってしまいそうな、そういった類の激情はシンジの体に湧き上がってはこなかった。何か、そう何かを 持て余し、その何かが分からなくて、分からないことが分からない。もどかしくて、どうすればいいのか分からなくて、身をよじるような 寒気があって、空ろな世界が目の前には広がっていて、胸の内を刃でかき混ぜられたようで、
「あは……あははは……」
 ただ、笑った。嘲るように罵るように憐れむように蔑むように咎めるように、ただ笑った。 笑うことが間違っていることを知りながらも、ただ笑った。誰か、自分を殴って笑い声を止めてくれる人が隣にいればいいと、そう 思いながら笑った。
 月だけが笑い声を聞いていた。

 

 夜が明けた。朝もやが辺りを満たし、今日も変わらず鳥が飛ぶ。
 サガは死んだが、世界は何一つ変わっちゃいなかった。太陽が昇って、朝になって、今日もどこかで殺し合いがあって、 それを愚かだと知りつつ愚かなままで、世界は腐敗したままだ。
 サガの骨を洞窟に埋めて、そのままアーガスの一撃で半ば崩れていた入り口を完全に崩した。楔を打ち込んだように縦割れになった 1対の向かい合った2つの崖を構成する奇妙な山を見上げる。この山は俺が割ったなどと、サガが言っていたことを思い出して苦笑した。 当時はバカにしたものだが、今にして思えばそれは本当だったのだろう。そして、この先を想う。
「今度は、俺が4つに分割してやる」
 それまで待っていろ、と。
 サガの言葉を想う。
「見続けるさ。前を」
 もう永遠に追いつくことの出来ない背を目指して。
 歩く。次にどこに行くかは決めている。取り敢えず日本を出る。そして、まずは知ろうと思う。サガの言葉の意味を。 サガという存在と、サガが殺されるべき因果を。この今という腐敗した世界を。
 世界は何一つ変わっちゃいない。それでも、

は変わろう。何かをなすために」

 取り繕うのも、意地を張るのも、格好つけるのも、もうやめてしまえばいい。ありのままで、1から、だ。
 いつかちゃんと笑えるように。誰かが殴って止める必要もないように。笑って死ねるように。
 

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 ネルフの訓練区画では今日もまた、チルドレン3人とカヲルによる模擬戦闘が繰り広げられていた。3対1でも常にカヲルの優位と勝利は 揺らがない。3人は惜しみなく数の力を使うし、策も弄すし、抜群のチームワークだって発揮する。 それでも、3人とカヲルの間には圧倒的格差が存在し、存在し続けた。しかし、あくまでも3人とカヲルの格差だ。
 最早、何週間かの間に目に見えてその差は開いていた。
 トウジとカヲルの格差は明らかに縮んでいる。つまりはそういうことだ。3人とカヲルの間の格差は変わらないが、トウジとカヲル の格差は変わった。チルドレン3人の中でトウジだけが異様に傑出している。奇妙なほどの上達ぶりだ。
「きっと3対1でやるよりも、1対1でやった方が勝負になるわね」
 ミサトのそんな言葉にカヲルは同意した。故に今2人は対峙する。
 それをガラス越しに見守るレイとアスカの心中は複雑だ。分かりすぎるほどに、自分達がトウジにとって 足手まといだと分かってしまっていた。 3人でカヲルと戦った時、僅かな判断の誤差があった。少しの動きの違いがあった。若干の、しかし、決定的な齟齬があった。 それらが示すものは、トウジだけが成長しているというあまりにも、完膚なき程にハッキリとした残酷な事実。 トウジと自分達、ひいてはカヲルと自分達の違いは何なのか――疑問の解は露ほども浮かばない。解に至るべき式すら作れない。 あるのは結論と命題だけで、仮定も定義も定理もあったものではない。だからこそ悔しく、そして屈辱的で歯痒かった。
 一方、その対岸にはミサトとリツコ達。レイ達と同様にガラス越しに訓練室で対峙するトウジとカヲルを見守る。
「どっち?」
「7、3で渚君」
「割れたわね。5、5でドロー」
「あら、ミサト、それは鈴原君を褒めすぎじゃない?」
 押し黙る。普通に考えれば勝率3割でも言いすぎだ。それでもミサトはドローと見る。
 応答のないミサトから視線を外し、リツコは奥の少女に双眸を向けた。赤い瞳、そして色素の飛んだ銀髪。剥き出しの肩は白。 体全体から色素がごっそり抜け落ちたようなその少女は薄く笑いながら言う。
「9、1でトウジ君」
 その言葉にミサトの視線も少女に向く。
「今のカヲルはダメだよ。ボクが言うんだから間違いないね」
「どういう意味、サクノ?」
 サクノと呼ばれた少女がその白い相貌をミサトに向け、ニッと笑う。カヲルがいつもする笑みとは違う、シニカルな微笑。顔がそっくり でもこういう些細な部分が違うな、とミサトは思う。
 サクノ=ナギサ。
 シンジとカヲルがネルフの鎮座する《七大スラム》が1つ、《スラム=ルッビス》へと舞い戻った主目的であった少女。渚の姓を持つ、 生粋の使徒。17番目のタブリス。
 未だミサトは使徒であるサクノと、こうして普通に話をするという特異な状況を認めてはいない。 使徒を憎む心は未だあるし、そもそもネルフは現在も発生し続ける小型使徒を狩り続けている。 しかし、ゲンドウ達上層部が認め、カヲルが何ともないと言い、 リツコもシンジに頼まれたからと認めている――こんな状況では受け入れざるを得ない。 それに、シンジは自身を襲い続ける《Curse》の呪いを祓うべく、《Purify》の《word》を持つサクノを捜して帰ってきたらしい。 無下に出来る筈もない。
 結局、シンジはS2機関をマヤに抜き取られ、その上で何らかの精神操作を施されていたサクノの回復を待つことなく旅立っていったが、 それもいいのかもしれない、とミサトは考えていた。何よりこの娘は存外に素直で純真で真っ当だ。
「簡単だよ、ミサトさん。だって、今のカヲルは全然不透明だもの。少し、道から反れてる」
「サッパリ分かんないわ。何それ? 使徒感覚?」
 肩を竦めながら、視線を対峙する2人に戻す。どちらにせよ、戦ってみれば分かることだ。
「それじゃあ2人とも、いいかしら?」
 拡声器から響くリツコの確認に2人は頷き、構えをとる。 カヲルはやや浅めに構え、トウジはその強力な一撃を生かすべく深く腰を落とした。
「――始め」
 合図にトウジが突進した。

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 深い闇がある。純粋な闇は恐怖よりもなおくらい渇望を生む。 闇は恐怖の具現であり、渇望と欲望の混沌。
 その闇の中央で、鉛色と鈍色が混じったような灰色の髪が波打つ。縦に傷跡が走る右目は沈黙し、炎を宿した左目が雄弁に語る。 その前に対するのは周囲と同色のスーツを着た男。
「それで、アーガスは?」
「調整中ですね。逆光子の擬似群生細胞体で固有細胞を補って何とか生きている状態です。全く、驚きです」
 スーツの男はやれやれという仕草をしながら、その漆黒の前髪をかき上げる。
「物質としての存在率が確率論的にあり得ない数値に達しても生きているとは。気持ちの悪い」
「何日かかる?」
 顎に手をあてながら考え、スーツの男は推測した。
「おそらく2ヶ月はかかるかと。保持熱量のマイナス反転だけで3週間。加えて脳の意識領域の復元に3週間。それに、」
「アーガスの自尊の回復に2週間か? なかなか粋な事を考えるな、ペトロ」
「まさか……下らない私の事前心理分析ごときに勿体無いお言葉ですよ」
 皮肉げに笑いながら、ペトロは自らの首に巻きつく真紅のネクタイを緩め取り、ポケットに入れていた 奇妙な形の眼鏡を取り出した。眼鏡と言うよりレンズ。片目分しかない円形のガラスに取っ手がついたような、そんな不思議な レンズだ。
「分かっている。そう急くな。我とて、もう待つのは飽きた。それに、止めても聴くまい」
「はい、残念ながら。私も待機には飽き飽きですよ。私はアクティブな医者でしてね」
 レンズを右耳に装着し、胸元のボタンをいくつか外し、肌を外気に晒す。 闇の中でもはっきりと視認できる程の傷が無数に刻まれていた。
「疼くか……。ならば、カタコンベ盟主シヴァ=モーゼルの名において命ず――行ってこい」
「はい」
 言葉とともにペトロが闇に溶ける。その何もない闇の虚空を見つめながら、シヴァが更に言葉を紡ぐ。
「聴いた通りだ、動くぞ。行けるな、ヤコブ、バルトロマイ、ユダ?」
 シヴァの視線の先で機械的な白の相貌が頷き、その背後で蒼白の炎が一瞬揺らぎ消える。次いで、その体を現すことはせず、 異界じみた光沢を持った白い仮面のみが現れ、上下した。
 イスに腰を下ろしながら、シヴァは天を仰ぎ見る。広大な闇が膨大な闇を描き、闇が闇を貪っていた。闇が牙をなし、獣をなし、 伏せるように見下ろすように慈しむ。
 純粋な闇は渇望と欲望と混沌と力を呼ぶ。シヴァに力を、シヴァの猟人たる下僕に力を。

 

 

 

 

Episode 10 : テセラテスラ

 

 

 

 

 決定的だったのは打撃の封殺だった。全ての打撃は《圧》で裏返り、そのまま、あるいは更なる圧力を付加されてカヲルへと返る。 当然、カヲルはロングレンジからの雷撃を中心に、クロスレンジでも直接打撃ではなく雷撃を纏った打撃を使用した。だが、 最早トウジの近接戦闘能力はそれを容易には寄せ付けない。
 かつて橙色だったトウジの《color》は既に黒色へと《up》し、その練り込まれた《圧》の力はトウジの拳を砲弾へと変える。 一撃まともに入れば、それで終わるのだ。その剛力はカヲルとて無視は出来ず、受けるのではなく全てを避けなくてはならない。 未だスピードにおいては格段にカヲルの方が上だが、一撃入れればそれでいいトウジと、そうはいかないカヲルでは どちらが不利かは明白だ。

 結果、30秒後にはトウジがカヲルを見下ろしていた。

 雷を鞭のごとく束ね、それを的散らしにしながら今までで最大の――それこそ一撃必殺レベルの雷撃を掌に纏ったカヲルの一撃。 トウジは床への最大圧力付加で樹脂材を宙へとぶちまけることでそれらを防ぎきり、 両拳に最大圧力を付加するとカヲルの腹に打ち込んだ。
 全てが一瞬。
 勿論、カヲルとて床の樹脂材が絶縁体で出来ていることには気付いていた。注意もしていた。警戒もしていた。それでも、それでも 敗れた。トウジの微妙な視線、筋肉、骨、関節――肉体の全ての細かな動きがフェイントを形作り、カヲルをも騙したのだ。 相手がそれら肉体の細やかな動きにすら対応するカヲルだからこその戦法。おそらく、レイとアスカが相手ではそれらの動きを知覚する ことすら出来ず、このフェイントは意味をなさないだろう。

「ほら、ボクの言った通りだ」
 皮肉な揶揄のようなサクノの呟きが、全てを現している。ミサトもリツコもレイもアスカも、トウジもカヲルも無言だった。

 

 ロッカールームのベンチにタオルを頭にのせたカヲルが座っていた。その正面には壁に背を預けるサクノ。向かい合う2人は似通った 容姿も相まって、まるで鏡写しの像。実像と虚像。あるいは虚像と虚像。
「もう、ここにいるべきじゃない。カヲルは、もうネルフから出た方がいい」
 サクノの言葉にカヲルは反応を示さない。ただ、タオルを頭から剥ぎ取りギュッと握り込むだけだ。
「そんなに悔しい?」
「悔しいさ。泣きたいくらいに」
 泣けるのなら泣きたかった。強く握れば握るほど爪が掌に食い込んで、こんなにも簡単に血は出るというのに、何故同じ体内からの 分泌液である涙は出て欲しい時に出ないのか。
「当たり前だよね、それって。だって、カヲルは人間だもの」
 顔を上げる。サクノの紅眼に映ったカヲルの顔は、鬱屈で陰惨で滑稽で何とも酷い顔だった。
「そうだよ。当たり前なんだよ。カヲルは人間だから、当たり前なんだ」
「壁があるんだ」
「当たり前だね、人間だもの。カヲルはそれを望んでいたじゃない」
 カヲルの壁。
 自信の喪失。そして、その自信を取り戻すべき相手に既に勝利している矛盾。
「いくら技術を磨いても、意志を強く持ってもムダだよ。自信が欲しいなら、ここに留まるべきじゃない。どれだけ強くなっても、 あの3人相手じゃ自信なんか得られない」
 自らが鍛えたようなものだ。言わば弟子であるチルドレン3人相手に勝ったとしても、自信など取り戻せない。
「それに、もうあの3人ならカヲルが心配する必要はないんじゃないかな?」
 自らと同じ作りの顔がカヲルの眼前で傾く。紅い瞳に自分の紅い瞳が映りこんでいた。何とも不可思議な世界がそこに広がっている。 サクノの前に立つと、まるでステンドグラスに自分の世界を丸ごと隔離されたような間隔に陥るのだ。
「そうかも、しれないね……」
 天井を見上げて、ため息を1つ。確かに、もうあの3人に手助けは必要ないのかもしれない。既に道は示した。後はあの3人自身の領分で しかない。
 自信が欲しい。揺るがない自信が何より欲しい。強き人でありたい。悩んでも、挫けても、躓いても、笑っていたい。
 ――人であるとはそういうことだ。
 だから、カヲルは思う。行こう、と。最早取り戻すべき自信は喪失した。ならば、新たなる自信の裏づけを得るべく、より強き 担い手を探すしかないのだろう。何より大事なのは、それを自分で行うことだ。壁は自分で越えなくてはいけない。
「ふむ、いいだろう」
 突如響いた声はロッカーの影からだ。
「貴方は忍者か何かですか? 気配が全く感じられませんでしたが?」
「一流は全てにおいて一流だ」
 サングラスの男は哲学的言葉を吐く。 深く追求しても何も答えが得られない事は分かりきっているので、カヲルは特に気にせず続ける。
「それはネルフの司令としての意見、ということですか?」
「ああ。それに、君が外に出ることを望んだとき、与えようと思っていた任務がある」
 ゲンドウの手から渡されたそれは、銀の鎖だった。何の変哲もない10センチほどの短い鋼がカヲルの手に渡る。
「詳細はドアの外で聞き耳をたてている葛城君にききたまえ」
 言い終えると、用は済んだとばかりにドアをくぐって去っていった。
 怖い人だ、とカヲルは思う。
 本当に前々から任務を用意していたのか、それともたまたまタイミングがよかったのか。どちらにしろ、精神の怪物にして策略の 魔物にはカヲルの思考など透けていたのかもしれない。カヲルは苦笑するしかなかった。
「それで、僕の任務とは?」
 ロッカールームに入るに入れなくなったミサトが、ゲンドウが出て行ったまま開かれたドアの前で所在無さげに立っていた。 頭をポリポリかきながら、ぶつぶつと愚痴を呟くその姿は憐れだ。
「そうね、行って欲しい場所があるの。不確定情報だから捜査、状況次第では破壊工作」
 眉根を寄せる。色々と問題はあるものの最大戦力であるカヲルを不確定な情報で手放す点に疑問を感じた。
「ぎりぎりまで絞って、あなたを含めて3人で行ってもらうことになるわ」
 少数での行動が示すものは機動性と隠密行動の必要性。
 不確定ながらもカヲルを動かし、かつ派手には動けない。不確定とは言え無視出来ない、何かがあるということだ。
「――と、思っていたんだけどね」
「え?」
「1人で行きなさい」
 ミサトの笑顔を見ながらカヲルの時間は暫し止まる。
 何と無責任で最低な言葉だろう。ぎりぎりまで絞って3人――本来ならば、3人でも足りないだけの人手を必要とする任務の筈。 組織の1部門を任される人間として、大人として、あまりに無責任。
 だが、何と美しい信頼だろう。子供じみていて青臭い、何て純粋な信頼だろうか。カヲルはかつてこれほどの期待と信頼を自分が 受けたことがあるのだろうかと考える。ムダなことだ。分かりきっていた。
 だから、頭を静かに下げる。本当の感謝に言葉は必要ない。
「サクノ。ネルフと、そしてシンジ君を頼む」
「まかせてよ」
 部屋を後にする。その後姿にミサトは自分の考えに疑問を抱く。間違いではないかと自問自答を繰り返す。 1人で行かせるなど狂気の沙汰だ。それでも、信じている。カヲルの強さを、カヲルの力を、カヲルの心を、信じている。
「行ってらっしゃい……」

 

 暗い室内でセフィロト樹形だけが蛍火のごとく輝く。
「本当に1人で行かせていいの?」
 ゲンドウは疑問に対して僅かに口を閉ざし、視線を前方の虚空、天のセフィロト、すぐ横に立つユイの順に動かし緩慢に口を開く。
「問題ない。備えはしている。それに、葛城君の判断は限りなく正しい」
 執務室での会話は誰に聞かれることもなく、闇へと消えていく。

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 静寂の張り詰めたネルフの医療区画に、静かな足音が響く。いつもの黒のジャージに身を通したトウジの足音だ。慣れた様子で エレベーターに乗り、真っ直ぐにその病室を目指した。病室の前で1度立ち止まり、入り口に掲げてある名札に目を細める。 自分と同じ姓がそこには記されていた。
 室内に足を踏み入れる。西日が入り込みオレンジ色に染まる白いベッドでは、少女が安らかな顔で眠り、そのすぐ横では上半身だけを ベッドに投げ出し女性が眠っていた。2人の寝顔と、その繋がれた手を見てトウジは穏やかに笑う。
 トウジの妹と、洞木ヒカリ。
 この2人の安らかな寝顔を守りたいな、とトウジは思う。
「もっと、強う……ならんとな、シンジみとうに」
 シンジとは二言三言しか話せなかったが、それで充分だった。シンジがいて、レイがいて、アスカがいて、ヒカリがいて、 ケンスケがいて――そんな生活を思い出し、苦笑する。随分と昔のように感じる。あんなに鮮烈でそれでいて色褪せた思い出など、 トウジのなかには存在しなかった。遠い日の残照が今でもトウジの心を照らしている。
 全員が変わった。シンジは強くなったし、レイは前よりは普通に会話が交わせるようになったし、アスカも少しは大人しくなったし、 ヒカリはあまり変わらないがきれいになった、と赤面する。ケンスケは疎開以来、会っていない。
「まぁ、アイツのことや、どこでもアホみたいに生きとるんやろうな……」
 変わりはしたが、変わらないものもある。トウジは色々と納得しかねる部分もあるが、全員を仲間だと思っている。カヲルは何となく 気に食わないが、教わることも多くいい奴には違いあるまい。
 今でもたまに考える。もしも《3rd Impact》がなかったなら、自分達はどんな生き方をしていたのだろうかと。遠い夏の日の身を焼く ような残照がそうさせているのかもしれない。
 感傷に頭を振りながら、妹と恋人の寝顔に見入る。それが、きっと、トウジの覚悟であり力であり、誰かを殺してでも守るべきもの なのだ。
「失わないために、奪うんや」
 例えいつかその罪と罰に縛られることになろうと――。

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++

 

 

To Be Continued to Episode 11.

Next, the first trigger of "3 on 3" is pull.
Kaworu come across wonder people.

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 

 

 


<後を書く>
珍しくバトルが(ほぼ)ゼロ。本当に珍しい。
そしてバトルシーンがなくなった途端に色々とガタガタに。
場面転換の多さとか、セリフの多さとか……うへぇ。
イヤな方向で[//]がバトルものだということを再認識。


>>[Next]  >>[Index]  >>[Back]

 

お名前 : (任意) メール : (任意)
ご感想 :

お返事いりますか? → Yes / No