呼び声。
誰かが僕を呼んでいる。

――来たれ。
――光よ。
――光よ来たれ。

 

 

 

 

 

Neon Genesis EVANGELION

The DESTROYER

‐Light or Dark‐


Written by HIDE

 

 

 

 

「またこの夢か……」
 最近、見る夢がいつも同じだ。終りの無い階段を駆け上がり続ける夢。夢の終りは、いつも黒いモノが階段を寸断する場面。
 いつものように僕の手には汗が滲み出て、背中は冷たかった。
 ふと聞こえてきた鳥に鳴き声に誘われて、僕はカーテンを開く。
 そこにはいつも通りの強い日差しと汗ばむような陽気、そして、青い空が一面に広がっていた。
 ――いつも通りの僕の世界。これが僕の『リアル』。これが僕の『真実』。

 

 

 今日も青い空の下、僕は学校への道をゆっくりと歩いていた。この分だと今日も遅刻だろう。でも、それもいいと思う。 絡まれなくてすむから……。

 発端は簡単な事だった。僕が高級マンションに一人暮らしをしている事が回りに知れ渡った。  何てことは無い。僕があのマンションに住んでいるのは、ただ父さんが――10年会っていない父さんが母さんと離婚する時に 払った慰謝料のおかげだ。
 母さんは父さんと離婚してすぐ、僕が4歳の時に死んでしまったけれど、莫大な財産のある僕は不自由なく暮らしている。
 だからこそ、性質の悪い連中に目をつけられて、毎日お金をせびられている。
 先生や友達に相談するなんて考えたことが無い。先生はあの連中になるべく関わらないようにしているし、友達は1人もいない。いや、 この学校には1人もいない、と言う方が正しいのかもしれない。
 僕には文通をしている子がいる。文通といっても電子メールだから、前時代的に言うとメル友というものかもしれない。
 僕の文通相手、『N』は僕の唯一人の友達だ。歳も性別も本名も知らない。分かっているのは第三、つまり市内に住んでいるという 事だけだ。
 会おうと思えば会えるけど、何故か僕は『N』と会う気にはなれなかった。

 

 

 ――ガッ!
 そして今日も僕は殴られる。
 鈍い痛みと、名も知らない金髪の男達の醜い笑みが僕の体に残る。
「こいつ金持ちなんだって?」
「ああ。億ション住んでんだぜ、億ション!」
 いつもの事だと、僕の体は冷え切っていく。
「親切な俺達に財布軽くして動きやすくして欲しいって? 仕方ねぇなぁ」
「仕方ないねぇなぁ。俺もお手伝いしちゃうよーん」
 彼らを見つめる僕の瞳には何も写っていなかっただろう。それが気に障ったのか、金髪の男達は更に僕を蹴り飛ばした。
「なんだその目は!」
「殺すぞオラァ!」

 ――ガツッ!ゴッ!ガッ!ガツッ!!

 ――ギュン!

 

 

 

                                                      滾る光。

                                  蠢く闇。

現れるヴィジョン。

   3人の少女。

茶色の髪。赤色の髪。青色の髪……。

                 叫ぶ巨人…。

                                   燃え立つ煌き……。

 

 

 

誰だ?!


君達は誰だ!?

 

 

 

「また、同じような夢を……」
 気が付くと僕は保健室のベットに居た。
 そうか、あのまま気絶したのか。
 誰が運んでくれたんだろう?
 と、ふと窓の方を見ると、外では風がざわめいていた。
 ――嵐が近い。

 

 

 

1st story : between real and reverie

 

 

 

 学校からの帰り道、僕は雨と風に晒されていた。横風が僕の心を撫で上げ、髪を横へと流す。
 今の自分にはこの嵐が何故かピッタリだと思った。だから、僕は暫く嵐に当りたくてわざと遠回りをして家に帰った。
 いつもは通ることのない道。
 工事現場に差し掛かったところで、僕はふと目を道路へと向けた。ダンボールや鉄筋に囲まれ、其処には一輪の花が咲いていた。
 名も分からない雑草。
 どうしてかは分からない。でも、僕はその花を持ち帰って鉢に植えた。
 その花は薄い紫色の花弁が儚く開き、茶色の鉢の上に真っ直ぐに根付いていた。
 僕はその花を眺めながら、いつしかまどろみの中に沈んでいった……。

 

 

 目に差し込む朝の光。鳥の鳴き声。いつもの朝。でも、今日は学校が日曜で休みなぶん、少し心が軽かった。
 ふとあの花を見る。花弁は閉じ、つぼみが直立していた。
 僕は川縁の土手にもこの花と同じ花が咲いている事を思い出した。

 ――土手に埋めよう。

 世話が嫌な訳じゃない。むしろ趣味らしい趣味もない僕には世話をする暇は充分にある。
 それでも、やっぱり独りは嫌だから。僕は独りが嫌だ。この花も仲間がいた方がいいに違いない。
 たとえ、僕がまた独りになっても。

 

 

 10分後、僕は顔を洗い朝食を食べて服を着替えた。そして、鉢を右手で抱えて外に出る。
 外はまた雨だった。
 僕は左手で傘を持つと、ゆっくりと川に向かって歩き出す。

 ザーザーと雨が激しくなってくる。

 ――ピカッ! ゴロゴロゴロッ!!

 遠くで雷鳴が走った。
 少し急がなきゃ。

 僕は少し足を早めて川縁までやって来た。
 そこにはこの花と同じ、薄紫色の花が咲き乱れていた。それはとても綺麗で、とても儚くて……。
 だから、僕は紫に埋められた土手を暫く眺めた。
 ――雨は気にならなかった。

 

 

 花を眺める僕の後ろで声がした。
「おい! あれ碇じゃねえか?」
「おっ! ホントだ。ラッキー!」
 ――昨日の金髪達だった……。
 僕が振り向くと金髪達はすぐ後ろにいて、昨日のように笑っていた。
「碇〜財布がねえからゲーセン行けなくてよォ〜」
「俺らの財布として責任取れよォ」
「俺たちは優しいから、キツめの罰で許してやるからなぁ」
 これが僕の生き続ける世界。ずっと僕のいた世界。
 ――僕の『真実』。
「傘どけろォ!」
 ――ガッ!
 僕の傘が地面に転がり軽く跳ねる。
「何だ〜花なんて持ってよォ〜」
「うわっ、キモッ! 女みてえなヤローだなァ〜」
 ――ゴツッ!
 花が僕の腕から零れ落ちた。鉢が割れ、花が土と一緒にアスファルトに散らばった。
「ッケ! 花なんて大事に持ちやがってよ!」
「ん? 何だ〜その目はよォ!」

 僕は……僕は……僕は……僕は……僕は……僕は……。
 僕は――!

「クッソォォーー!!」

 ――ガツッ!
 初めて人を殴った僕の拳に、鈍い痛みがじわりと拡がっていった。

「ッツ…この〜!」
 ――バキッ!
 頬が熱い。金髪達の顔が徐々に歪む。

 ――ギュン!!

 

 

 

                   「乗るなら早くしろ! でなければ帰れ!」

「これがアナタの護った街よ」

「涙? 嬉しい時でも涙が出るのね……」

                            「自分で考え、自分で決めるんだ!」

    「負けらんないのよ! 私は!」

                      「ガフの部屋が開かれる…」

「ママ、ここにいたのね」

                             「逃げちゃ駄目だ――!」

 

 

 

これは何だ?! 君達は一体?!

誰か――誰か教えてくれ!!

 

 

 

 ――ガバッ!!
 また同じ――そう思った。
 でもここはベットじゃなく、夢の中でもなく、川縁の土手で。
 僕の目の前には1人の男が佇んでいた。

 ――雷鳴に照らされ、僕と男の影が揺らめいた。

 

 

 

 

 

<続く>

 

 


<やる気なさげな後書き>
 単語を散らせるってレイアウトにはまってた。ただそれだけな気がする。
 それにしても、三点リーダーと擬音の多いこと多いこと。直してもまだ多いという始末。
 いや、大して直してないし、直す気もないわけですが。


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