呼び声。
――近くなる。

胎動。
――すぐそこに。


光アレ。
光アレ……。

 

 

 

 

 

Neon Genesis EVANGELION

The DESTROYER

‐Light or Dark‐


Written by HIDE

 

 

 

 

 轟く雷鳴の中に僕とこの男の人だけが存在している。そんな感じがした。
 垂れた深黒の長髪。細く鋭い目、その中に浮かぶ深緑の瞳。細い体躯。漆黒のコートとスーツ。
 雨に濡れたこの男の人はまるで神話の登場人物だ。
「………名前は?」
 静かに響く声。
 一瞬戸惑う。どうして僕の名前なんて知りたがるんだろう?
 僕はその疑問を口にする。
「どうして僕の名を?」
「俺はお前を助けた。それでだけでは不足か?」
 僕はこの時初めて、この男の人が僕を金髪達から助けたということを理解した。
「僕は……シンジ。碇シンジです」
 男の人はほんの僅かに眉を寄せると、ニヤリと微笑んだ。
「なるほど。面白いものだ」
 呆然とする僕をよそに男の人は笑みを浮かべ、遠くへ消えていった。
「またな」
 と言い残し。

 ――雨はいつの間にか上がっていた。

 

 

 落ちた花を拾って、土手に埋めた僕はそのまま家へと帰ってきた。
 時計を見る。もう12時を回っている。
 お腹はすいたけど、昼食を作る気力もなく僕はソファーに体を預けた。

 いつも見る夢――あれは何なんだろ?
 続く階段と黒い闇、巨人、そして3人の女の子。あまりに鮮明で肝心な所は曖昧で。そして、非現実的なヴィジョン。
 ふとあの男の人が言っていた事を思い出す。
 ――またな。
 また会うのだろうか? あの人は誰なんだろうか?

 深い思考の海に飛び込んだ僕はいつのまにか眠っていた。

 

 

 

   ドックン!                                      ドックン!!

ドックン!                                        ドックン!

ドックン!                        ドックン!!

      ドックン!                                ドックン!!

 

 

「聴こえるか? ――命の胎動が」

 

「これがお前の意思。そして×××の意思だ……」

 

 

 

 ――ガバッ!
 同じ夢?
 違う。
 あれは、昨日の男の人だ。黒い服、あの瞳、髪の毛。
 ――同じ。全く同じだ!
 ただ僕が僕の意思で僕の夢に出しているのか?
 でも、いつもの様に階段を駆け上がって、そしてあの人が現れた。
 まさか……。
 そんな馬鹿な。ただ僕が『リアル』から逃げているだけだ。
 だって、今日も小鳥が鳴いて、太陽が照っている。
「いつもと同じ、いつもの朝なんだよ……」
 自嘲気味に呟くと服を着替え、顔を洗った。

 

 

 僕はそれからいつものように学校について、金髪達からお金をせびられて、そして夢を見る筈だった。
 なのに――。

 

何故、僕は学校にいないんだろう?

何故、僕はあの人を探しているんだろう?

 

 

「運命さ……」

 

 

一瞬、声が聞こえた気がした。ひどく遠い声が。

 

 

 

2nd story : the world of untruth and "N"

 

 

 

 あの人を探すために、僕はとりあえず昨日の場所に来ていた。
 昨日と変わらずそこは薄紫色の花弁で埋められていて、辺りには誰もいない。
 ふと川を見る。決して穏やかではないが激しくも無い流れ。そのまま僕は座り込み流れを見つめていた。
 学校をサボって僕は何をやっているんだろう?――多分、僕は聞きたいんだと思う。あの人に何を聞きたいかも分からない。でも、 聞きたいんだ。
 空を眺めようと顔をあげて、僕は目を見張る。
 そこには――向こう岸にはあの人が歩いていた。

 気が付くと僕は全力で走っていた。
 速く強く地面を足で蹴りつけ、僕は走った。

「また会ったな」
 男の人は軽く微笑む。
 僕は息が上がっているせいか、言葉が喉から出ない。そんな僕に男の人は問い掛けた。
「――で、俺に何の用だ?」
「ハッー、ハッー、聞きたい…ハッー、事が…ハッー、あるんです……」
「ほほう。何故、俺に問う?」
「ハッー、フウーッ。そこに答えが――『リアル』が存在する。そう思ったから……」
「何故答えが知りたい? お前はおよそ今までの人生を普通に生きている。これ以上を求めるのは何故だ?」
 そんな事は決まっている。毎日がその問いの繰り返しだ。
 僕が生きる世界、目に見える『リアル』。その全てが――

「この世界が全部『嘘』に見えるからだよ!」

 男の人はニヤリと笑い、口をゆっくりと開いた。
「それでいい。そうだな、知りたくば手紙を見ることだ」
 男の人はそう言うと昨日のように消えていった。
「覚えておけ、俺の名はコウだ。またな」
 そう言い残し。

 ――ボチャン!
 僕は川へと石を一投すると、家へと帰った。


 ――ポッカリと夕日が空に浮かんでいた……。

 

 

 手紙。
 確かにコウはそう言っていた。でも、家の郵便受けには何も入っていなかった。
 分からない。手紙……手紙……一体何だ?
 ふと時計を見るともう12時をゆうに過ぎていた。僕は明日の事を考えて眠りについた。
 ――手紙の事を考えながら。

 

 

「ええ〜いいか? 排出系というのは賢蔵や膀胱なんかの主に排出を司る器官のことを言うわけだ」
「ハァー。」
 久しぶりの授業を聞きながら、僕は溜め息を漏らした。
 僕はいつも通りに遅れて学校に来たが、今日は金髪達に会わなかった。
 溜め息をつく理由は簡単だった。幾ら考えても手紙に思い当たる事がない。
「碇!」
 ――ゴンッ!
 先生が僕の机に拳を打ちつけた。
「は、はい!」
 慌てて答える。
「主成分だ、主成分! 尿の主成分を言ってみろ!」
「あ……あの」
 たしか、アンモニアから有害物質を取り除いた尿素……。
「えっと――」
「もういい! どうせ聞いてなかったんだろう!」
「は、はい」
 僕は席に座ると窓の外を眺めた。空は深い青。

 

 

+++++++++++++++++

 

 

「碇のやつ相変わらずトロいな〜」
「その碇だけどよ、知ってるか?」
「あん? 億ション住んでる、超金持ちだって話か?」
「違う違う! 碇のやつ、ヤクザと付き合ってるらしいぜ!」
「ウゲ〜、マジかよ!」
「ああ。先輩達があいつをシメようとしたら襲われてボコボコらしいぜ」
「あいつトロそうに見えて実は凄かったんだな……」

 ――また、クラスの男子がアイツの噂をしている。

 アイツにも聞こえている筈の距離。でも、アイツは何も言わない。
 よく見るとアイツの顔は僅かに腫れている。また苛められたんだろうか?
 アイツはいつもやられっ放し、言われっ放し。
 でも、なんだろう?
 アイツは最初から『別の場所』にいるような気がする。
 ――そう思った時から私はいつもアイツを目で追っていた。

 アイツは最近、いつも窓の外を見ている。凄く寂しそうに、何かをどこかに置いてきたみたいに、今にも消えてしまいそうに……。
「マナ? な〜に、ぼっーとしてるの?」
 間延びした独特の声。
 ハッとして後ろを振り向くと、声の主――ユマがこっちを不思議そうに見ていた。
「ううん、別に何も」
 私は曖昧に答えるともう1度前を向いた。

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 コウにもう一度会う。
 ――それが1番の近道だと思う。だから今日も探しに行こう。
 そう決意した僕は足早に学校帰りの道を急いでいた。

「流石にそう何度もいないか」
 薄紫に彩られた川縁を見つめて溜め息を吐く。
 今日は帰ろう。

 風の気持ちよさに身を委ねた僕は、いつかの様に遠回りをして家へと向かった。
 空がまだ青いから、何となくまだ外に居たかった。
 ふと通った商店街の前は、土の匂いが漂っていて、僕はフラフラと商店街の中へと入っていった。
 久しぶりに自分で夕飯を作ろうと八百屋と肉屋で買い物を済ます。自分で作るのが久しぶりな所為か妙にワクワクする。自分でも 変だと思う。
 ここ最近は色んな事が有り過ぎてすっかり自炊はしなくなっていたけど、僕は料理が割りと得意だ。2年以上一人で暮らしているの だから当然なのかもしれないけど。
 両手に袋を抱えた僕はゆっくりと風を感じながら家へと向かう坂を登っていった。

 

 

「キャアー!」
 坂を八割方登って、すぐそこが僕の家というところで辺りに声が響いた。
 悠長な声じゃない! 助けを求める悲鳴が!

 やっぱり僕は何処かおかしいんだと思う。

 以前の僕なら間違いなく自分の家へと帰っていたのに。
 今の僕は気が付くと、声へと向かってただひたすらに――走っていた。

 暗い路地裏では2人の男が1人の女の子を押さえつけていた。
 僕はギュッと拳を固めると男達に突っ掛かって行った。
 ――ガッ!
「いって〜。んだよこいつ!」
「おい、邪魔すんなよ! このガキ!」
 ――ガツッ!
 頬が熱くなる。拳が痛くてたまらない。
 見ると、女の子は何時の間にか気絶しているのか、目を開けてはいなかった。これじゃあ女の子だけ逃がすわけにもいかない。どう する。どうすればいい……。
 考えている僕を待ってくれる筈もなく、男達は僕を殴り続けた。
 ――ゴッ!ガッ!ガツンッ!!
「んだよ、突っ掛かって来た割には大したことねェじゃねえかよォ!」
「殴り放題じゃん!」
 ――ガンッ!!
 僕の意識は何処かへと飛んでいった。

 

 

「ワッ!」
 目覚めた僕の眼前にはさっきの女の子の顔があった。
「大丈夫? 碇君」
「え!? どうして僕の名前を?」
「あのね、一応クラスメートよ?」
そういえばどこかで。でも、名前が全然思い出せない。
「ごめん。悪いけど……君の名前、分からないんだ」
「もう。私はマナ。霧島マナよ」
 霧島さん……。
 アッ! どうして僕は、霧島さんは無事なんだ?
「霧島さん、あの男の人たちは?」
「さあ? 私が気がついたときには、もう……」
 また。……また助けられたのか?
「でもね」
「えっ?」
「碇君が私を助けようとしてくれ事だけは、はっきりと覚えてる」
 霧島さんはそう言って僕に向かって微笑んだ。
 きっと僕の顔は真っ赤だったと思う。

 ――夕日には関係なく、だ。

 

 

 その日の晩、夕飯を食べ終わって食器を洗っていた僕は、久しぶりの音に食器を洗う手をピタリと止めた。
 『N』からのメールの受信音だ。
 久しく来なかった『N』からの僕――『R』へのメールを僕は慎重に開いた。

 

 

[026] 4/27 20:06
Fr:N
Sb:久しぶり!
本文:
久しぶり、R。だいぶ間を
空けてゴメン。今日は1つ
大きな報告があるんだ!
凄く気になる人が出来た
んだ。今日、その人がい
つもと違って見えたんだ
よ。ハハ、恥かしい話をし
たね。じゃあ、また近い内
にメールするよ。

 

 

 

 

 

<続く>

 

 


<後書き>
 色々と酷い。主に俺の脳内が。


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