目の前には痛いほどの紫が在った。
禍々しき爛々とした瞳に遭った。
佇む鬼人に逢った。

――それは咎持つモノ。

 

 

 

 

 

Neon Genesis EVANGELION

The DESTROYER

‐Light or Dark‐


Written by HIDE

 

 

 

 

 彼女の腰は妖しく蠢き、乳房は揺り動いた。這って来るモノに身を委ね、僕は快楽の泉に嵌まり込んで行った。
 最も、潤った其処へと僕のを挿れることは無かった。挿れられなかったと言うべきか……。
 とにかく僕は、挿入直前で何時もと同じに意識が遥へと向かってしまった。

 そして、今、また同じベットで目を覚ました。ベット中で昨日の行為を思い出して、少しカァっとなる。
 自分の顔に赤みが注していくのを感じながら時計を確認する。
 二日も学校に行っていない。最も、それ自体は問題なんかない。特に会いたい友達が居るわけでも、授業に出たいわけ でもないのだ。
 予感。
 ある種の予感があった。
 父さんに会いに行けば、もう『この世界』に戻ってくることはないだろう――そういう予感があった。
 だから、最後くらい。それに近い感情からか、学校に行く気が起こったのだ。

 時計は6時半を指している。学校に行くには充分過ぎるほどの時間だ。
 僕はムクリと起き上がると、ベットから這い出てドアを開けた。

 ――何時もの朝とは違う光景が目に飛び込んだ。

 食卓に並べられた朝食と窓から差し込む光。それに照らされて、彼女は座っていた。
「今日はどうするの?」
「学校に……行きます」
「そう。送っていきましょうか?」
 その笑顔に吊られて、僕はコクンと頷いた。
 椅子に座りゆっくりと朝食をとる。時間はタップリある上、送ってもらうのならば更に余裕が生まれる。いつ以来だろうか、 こんなにゆったりと朝食を食べるのは。
 流れてくるニュースキャスターの声が妙に耳に残った……。
 ――今日は晴れるらしい。

 

 

 驚いた。
 家を出た瞬間の僕の顔は、さぞ間抜けだったろう。
 僕の目に映ったこの家の表札は――赤木。
 昨日一度訪れた場所に、僕は再び意図せず入っていたのだ。

 そして襲い来る罪悪感。
 血の繋がりがなかろうと、僕は保護者である人と関係を持ってしまった……。
 別に何て事は無いのかもしれない。保護者であっても他人なのだから。
 それでも、僕は強烈な後ろめたさを感じて、幾ばくかの眩暈を感じた。

 車に乗り込んだ僕は、窓から見える久し振りの青空を上の空で眺めていた。
 何も喋らなくても心臓の音が聞こえそうなリツコさんとの距離に、僕はまた恥しくなった。そして、それは罪悪感を伴って 僕の心を更に震わせた。
 何度も何度も、恥しさと罪悪感を交互に感じ、空を眺めた。
 溶ける様な青い空には少しの鱗雲が散らばっている。まるで天が落とした白い涙の様に散り散りになった鱗雲は、光に照らされて 影を作っていた。落とした影の中で僕はただ心の摩擦を感じ続けた。

 

 

 少し甲高いブレーキ音が耳に届き、車は学校の目の前に停まった。
 辺りを見渡しても誰もいない。
 当然だ。多くの生徒たちは今まさに家を出たであろう時間なのだ。

 僕はドアをガチャリと開けるとリツコさんにお礼を言う。
「ありがとうございました。あの――」
 そして僕は言いよどむ。
 関係した相手に『僕の保護者は貴方で父の居場所を聞きたい』などと軽く言えはしない。
「――旧宮ノ下へ行ってごらんなさい」
「え?!」
 リツコさんはそれだけ言い残し、ドア閉めると颯爽と走り去っていった。
『旧宮ノ下』――確かにそう言った。
 まるで僕が何を聞くかを知っているように。

 いや、知っていたんだろう。

 何故だか、全てが誰かの思惑通りに流れている――そんな気がしてならない。

 ――大きな歯車に乗っていた僕というモノは、零れ落ちて別の歯車に巻かれて行く……。

 

 

「変わらぬ定めさ……」

 

 

 ――いつもと同じ遠くからの声に、僕は頭を振った。

 

 

 

5th story : purple ogre's invitation

 

 

 

 僕はボンヤリと授業を聞き流していた。
 旧宮ノ下――旧箱根から徒歩で1時間ほどの距離にある、他の第三の町と同じくかつては温泉で名を馳せた土地だ。
 今では温泉は枯れ、替わりに高層ビルが立ち並んでいる筈だ。
 一つの町に限定されたとしても、範囲が広大な事には変わりない。
 手がかりがゼロだった頃に比べれば少しはマシだろうけど。
 また探し回ることになるのかと、僕は溜め息をつきながら首を左に向ける。
 照りつける太陽は夏の到来を感じさせた。

 ――キィーン、コーン、カーンコーン、キーン、コォーン、カーンコーン!
 聞き慣れたチャイムの音が響き渡る。如何やら授業は終わった様だ。
 午前の授業は終わり、昼食の時間になったものの弁当なんか持って来ていない。
「どうしようか……」
 低く唸ると、しょうがなく食堂へと足を向ける。

 久し振りに来た食堂は相変わらず簡素で質素だった。
 真っ白な目に痛いほどの壁と幅の広い窓。薄汚れた窓から差し込む光は鈍く椅子とテーブルに注いでいる。並べられたテーブルには 幾人かの生徒が弁当を広げたり頼んだメニューを腹に収めている。

 椅子に座った所でその中の1人と目が合う。
 この前の――確か霧島さん。
 霧島さんは周りの友達に何か言うと椅子から立ち上がり歩き始めた。その目指す先は――僕?
 テクテクと歩いてきた霧島さんは僕の隣の椅子を後ろに引くと、ストンと座り込む。
 霧島さんは僕の顔をジッと眺め、何か言いたげな表情を作って黙り込んだ。
 暫くの沈黙の後、気まずくなった僕は自分から口を開いた。
「えっと……何かな?」
「あの……えっと……碇君、今日の放課後って開いてるかな?」
「はっ?!」
 僕は思わずおかしな声をあげてしまった。
 女の子に誘われた経験なんてゼロに等しい僕は顔を少し赤く染めて、思案する。
 旧宮ノ下に行くのは明日にすると決めていた。だから当然、今日は放課後に予定などなかった。

 でも、明日からは別の『世界』に行くという不確かな、それでいて確信めいた予感。あくまでも、それを抱いて僕は 学校に来た筈だ。
 ここでのしがらみは無い方が後腐れなくていいに違いない。
 それでも迷う。
 自分に構ってくれる人への好意と、捨てるべき筈のしがらみの狭間で。

 

 

 結局、迷っている間に昼食の終わりを告げるチャイムが響き、回答は持ち越しになった。

 

 

 またしても授業は右耳から左耳にすり抜けて行く。
 空は丁度、青から紅へと変わる際で鱗雲は変わらず地に陰を注している。

 いつしか僕は紅く染まり切った夕日を見ながら眠っていた。

 

 

 

        紅。

                                                      紅。

                                  紅。

血に染まる。

   手が顔が腕が。

                                      瞳の色……。

                 髪の色……。

                                        煌き放つ紅。

        紅。

                                                      紅。

                                  紅。

     (わら)う――僕。

 

 

 

 ――バッ!
 目を覚ました僕の体は汗で溢れていた。
 体を紅く染めて狂ったように嗤っていたのは――僕だった。
 急に気持ちが悪くなる。
 あんな歪んだ顔……。あれが僕――?
 ウッと唸ると、制止する教師の声も聞かず、僕はトイレへ駆けていった。

 込み上げる異物感を耐えることなくトイレへとぶちまける。

 吐くだけ吐いた僕はゆっくりとした足取りで教室に戻った。
 既に授業もホームルームも終わり、教室では机が夕日に照らされている。
 僕もさっさと帰ろうと自分の鞄を取る。
 が、鞄が無かった。
「ハァ……」
 自嘲気味に呟く。
 慣れてしまったいじめの常套手段だ。
 とは言っても特に大事な物は入っていない。そもそも此処にまだ来る事があるのかも疑わしいのだ。
 まあいいや、と簡単に諦めがついた。

 

 

 手ぶらで玄関を出ると、辺りには人っ子一人居なかった。当然だ。もう下校時間を軽く2時間は越えている。
 ハッとする。
 ふと見た校門の脇から影が一本伸びている。
 でも、関係ない。素通りだ。
「あっ! 碇君!」
「……霧島さん?」
 突然の声に振り向くと、そこには何故か霧島さんがいた。
 霧島さんは抱えていた2つの鞄の内、1つを僕に差し出す。
「はい。これ、碇君の」
 受け取った鞄を見ると確かに僕のだ。
「どうして?」
 当然といえば当然の疑問を口にする。
 下校時間を2時間は超えた今、ここで一体何をしているのか――と。
「もう……碇君って結構忘れんぼうなんだ。もう1回聞くわよ?」
「え?」
「碇君、今から開いてるかな?」
 それは、昼と同じ質問で。
「まさか、僕を待ってたの?!」
 霧島さんがコクリと小さく頷く。
 逆に僕が恥しくなってしまう。
 ここまでされて悪い気なんかする筈もなく、僕は霧島さんに付いて行った。

 

 

 何て事はない。この前のお礼に食事を、というだけだ。
 レストランに入って食事を終えた僕たちは、今、公園のベンチに座っていた。
 僕はベンチの目の前にある自販機で缶ジュースを2本買うと1本を霧島さんに渡す。
 彼女のありがとうを聞きながら、ゴクリと飲み干した。

 どちらも喋らない時間がどんどん過ぎていく。でも、不思議と気まずさは無かった。まるで予定調和のように穏 やかな雰囲気(くうき)が時と共に流れていく。
 僕達は肌を愛撫する風に身を任せ、暫くそのままでいた。

 

 

 

 グゥガォォン!!  

 

 静寂を破ったのは、僕でも、ましてや霧島さんでもなく――巨大な衝撃音だった。

 

 ウォォーン

 

 そして辺りには、けたましいサイレンの音がこだました。

「――避難警報?」
 どちらともなく、呟いた。

 

 

 次の瞬間、僕の瞳には紫色の巨人が映った。


 ――いつの間にか……鱗雲は散り、僕は陰の外へと飛び出していた。

 

 

 

 

 

<続く>

 

 


<後書き>
 改めて見るとよく分かる、このストーリーの繋がらなさ。そして、掴めないマナのキャラ。
 シーン追加すりゃマシになるとは思いますが、もう投げっ放しジャーマンでいいっすか。
 それにしても、やたら抽象表現多いよね。俺の書いたもの全体に言えるけど<ダメ野郎

 18禁仕様の第4話は飛ばす仕様。思い出したくない過去化。
 サーバ上には存在してるのでテキトーに探して下さい。
 どうしても欲しい方はメールでもテレパシーでもいいので連絡下さい。


>>[Next]  >>[Index]  >>[Back]

 

お名前 : (任意) メール : (任意)
ご感想 :

お返事いりますか? → Yes / No