放たれし―― 矢。

 

 

 

 

 

Neon Genesis EVANGELION

The DESTROYER

‐Light or Dark‐


Written by HIDE

 

 

 

 

 僕は泣いた。
 ワンワンと声を上げて泣いたのはいつ以来だろうか、人目もはばからず涙を延々と流し続けた。
 不思議と恥しくないのは何故だろうか?

 暫く泣いて、図書館を駆け足で後にする。比喩じゃなく、僕は全力で駆けた。早く、もっと早く。
 1分1秒でも早く、川縁へと――その一心で。

 

 

 荒くなった息を整えながら、トルコギキョウの群れの前に腰を下ろす。

 僕は怯えていた。この世界に対して恐れを抱いていた。居るべき場所を見失っていた。思い通りにならない世界と僕自身に 嫌気がさしていた。全部が嘘だと思っていた。いつか本当に本物の『リアル』が僕に訪れると思っていた。ずっと嘘が終わるのを 待っていた。コウと出逢って、やっと終わりが来たんだって思った。ここからが僕の『リアル』だと思っていた。

 でも、それは間違い。

 僕は来るのを待っているだけだった。ただ、自分の決まりきった世界で変わり目が来るのを。
 コウに、そして、リツコさんに言われて僕は動いた。
 こうすれば嘘は終わる。それを言われて従うだけ。

 僕は1度でも自分の力で嘘を終らせようとした事があったか?
 無い――無いんだよ!
 与えられた情報を探すだけ、答えを言われるだけ、誰かを頼るだけ……。
 誰かが連れ去ってくれると思っていた。
 僕は、僕の嘘の世界から抜け出したかった筈なのに、僕以外の誰かに手を引いてもらう気でいた。
 愚かだったんだ、僕は。

 だから、ここからやり直そう。
 忘れるな。
 ――僕が待っているだけだった事を。
 そして、始めよう。
 ――自分で、自分のために。今の自分を終わらせるために。


 希望があるから。目の前にあるから。

 

 

 

8th story : the true edge

 

 

 

 分からなくなった父さんの行方。僕が今目指すゴールはそこだ。その後の事は、その時に考えればいい。
 問題はそこまでの手段だ。
 学生である僕には、権力もお金も無い。唯一頼れるのは、この頼りの無い頭脳と体だけ。
 さて、どうしようか――ん?

 ――ポツッ……ポツッポツッ……ザーッ!

 日が陰り雨が降り出した。
 一旦家へ帰ろうと立ち上がり、そして目に飛び込んだモノを疑う。
 僕の目に映る対岸には、いつかと同じ様に髪を揺らすコウがいた。
 一瞬そこの空気が歪んだかと思うと、コウはニヤッと笑った。


 僕は一瞬の躊躇の後、コウをただ一瞥し、川を後にする。

 

 

「それでいい」

 

 

 ――初めて声がハッキリと聞こえた。

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 窓からの太陽の光を受けたまま、私はまだ保健室に居座っていた。
 渚さんと話す事が凄く楽しくて、時が経つのも忘れてしまう。
 色々な事を話した。最近の流行だとか、ファッションだとか、どこの喫茶店では何が美味しいとか――そう、色々だ。
 そんな中で、私は一つ気になる事があった。
「僕の顔に何かついているのかい、マナさん?」
 そう――僕、だ。
 布団越しに見える体の線も、話す話題も間違いなく女の子のもの。逆に女の私とファッションの話がこれでもかってくらいに被る 男の子がいたらビックリだ。
 それに何といっても、このきれいな顔立ちはどういうことだろう。
「マナさん?」
「っえ? アッ、ゴ、ゴゴ……ゴメンなさいっ!」
 どうやら私は上の空になっていたようだ。そんな私の様子を、不思議そうに渚さんが覗き込む。
 不意に近付く顔。心臓が口から飛び出るかってくらいドキリとする。
「やっぱり変かな……」
「あ、え。へ、変って?」
 そりゃあ、今の私の顔は変だろうけど。
「女なのに『僕』って言うのは」
 と、含みのある笑みを見せて言う。
「そ、そ、そんな事ないと思います」
 見透かされているようで、少し焦る。
「自分でも変だとは思うんだ。でも、これが1番相応しいんだよ――きっとね」
 渚さんは、そう言いながら窓の方へと顔を向ける。

 窓にはポツリポツリと水滴が付き始めている。雨が降り出したみたいだ。

 どうしたんだろう。渚さんは窓を、ううん、その先の雨の、さらにもっと先の何かを見据えて微動だにしなくなる。
 その横顔は今までで1番きれいで、信じられないくらい怖かった。

 沈黙の後、カヲルさんがポツリと呟く。
「――え?」
 あまりに突然であまりに脈絡のない言葉に、私は思わず声を上げた。
「いや、何でもない。何でもないんだよ……」
 そう言って渚さんは、元のきれいなだけの笑顔に戻った。


 彼女は確かに言った。


 ――それでいい、と。


 何に対してなのか誰に対しての言葉か、少しだけ気になる。

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 何よりもまず旧宮ノ下にもう1度行ってみることだろう。
 やり直しはそこからだ。何も見つからなくてもいい、まず、あそこへ。

 窓を通して外を見る。もう、すっかり夜の帳が下りている。
「明日、かな……」
 明日、再び旧宮ノ沢を訪れることを決め床に就く。今日はいい夢が見られるような、そんな予感を抱いて。
 目蓋を閉じると、睡魔はすぐにやってきた。

 

 

 

The arrow was shot from the dream...
 to that back of the law that it intertwines.
 to the instruction of the chain.
 to the permanent spiral.

I sing...
 in the true edge.
 in the dream of hope and despair and that gorge.

God's child, there is to be light...

 There is to be light...
 There is to be light......
 There is to be light.........

 

 

 

 ――バサッ。
 起き上がった僕の体から、毛布が落ちる。
 旋律。脳裏に流れる、言葉の奔流。耳、いや、脳裏が掠め取られた様な感覚が僕を包む。
 誰の声? そんな問いは必要ない。分かっているじゃないか。
 ――僕だ。
 あれは僕の声だ。
 知らない歌、知らない意味。それでも僕の声。

 僕以外の『僕』の声……。

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 家への道をダラダラと歩く。結局、ユマは見つからず、碇君とも会う事もなく。私は一体何やってたんだろ? と言うと 渚さんと話していただけ……。私ってばダメダメ。
 渚さんと話したのは楽しかったんだけど、何かホントに何もかも忘れて話しちゃった、と言うか。没頭してしまった、と言うか。
「ハァ……」
 ここの所、溜め息が多いと思う。

 家に着くと、熱めのシャワーで汗を流して家着に着替える。
 そして、勉強、と行きたい所だけど――眠気には勝てそうも無い。ほら、今にも上と下の目蓋がドッキング。
 晩御飯まで一眠り、行っとこうかな?

 目蓋を閉じると、睡魔はすぐにやってきた。

 

 

 

The arrow was shot from the dream...
 to that back of the law that it intertwines.
 to the instruction of the chain.
 to the permanent spiral.

He sing...
 in the true edge.
 in the dream of hope and despair and that gorge.

God's child, there is to be light...

 There is to be light...
 There is to be light......
 There is to be light.........

 

 

 

 ――バサッ。
 起き上がった私の体から、毛布が落ちる。
 旋律。脳裏に流れる、言葉の奔流。耳、ううん、脳裏が削がれた様な感覚が私を覆う。
 誰の声? そんな質問に意味なんかない。分かっているから。
 ――碇君だ。
 あれは彼の声だ。
 知らない歌、知らない意味。それでも彼の声。

 

 

 

 

 

<続く>

 

 


<後書き>
 オイオイ唄っちまったヨって思うよね?俺も思う。凄く思う。
 書いてた当初は伏線でも何でもなくただの行埋めでした<大人って汚い
 うん、ほら、今はちゃんと意味あるから。うん、ほら、2年くらい前の話だから。

 だからといって、唄うのはアウトだと思う。フィーリングが行き過ぎた英訳もアウトだと思う。


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